総帥は宇宙小学生「フェイザー様って、宇宙小学生だよな」
MIKの隊員が言った。
昼休憩の社員食堂。ざわざわと談笑の声が聞こえる中で、隊員は更に言葉を続ける。
「総帥って言うからもっと威厳ある感じなのかなーって思ってたけど、あの髪型は小学生だわ。色も派手だし、左右非対称で落ち着きも無い。小学生の読む漫画のキャラみたい」
お前もそう思うだろ、と隊員が対面の席に同意を求める。白衣を纏った研究員は、苦い顔で嗜めた。
「止めろよ。そういうこと言うと、不敬だなんだって特務部がうるさい」
「否定しないってことは、お前もそう思ってるんだ。総帥の髪型、ガキくさいって」
「だから止めろって。確かに総帥の髪型は、あんまり威厳は感じないけど──」
「──総帥には、総帥なりの理由があるんだ」
研究員の発言に、誰かが割り込む。
隊員にとっては、聞き馴染みのある少年の声。慌てて振り返ってみれば、自分たちよりも遥かに上の、幹部様がそこにいた。
MIK総帥直属・特務執行官、竜宮トレモロ。常日頃から「総帥のフェイザーに敬意を払え」とやかましい、特務部隊の隊長だ。
トレモロは穏やかに微笑みながら、フェイザーをガキだの何だのと語り合っていた二人を見下ろす。
感情的に怒鳴られないのが、研究員には恐ろしかった。総帥を貶すかのような言葉を耳にしておきながら、怒りや嫌悪はまるで見せずに、トレモロ執行官が言う。
「誓いなんだよ、あの髪型は。兄さんがあんな髪型なのは、ある種の誓いの表れなんだ。兄さんはMIKの総帥として、人々の日常を守り抜くことを誓ってる。だから子供の頃からずっと髪型を変えていないんだ」
年齢や立場には合っていないと言われても、外見による威圧や箔付けの利を捨ててでも、総帥は己の不変を選んだ。
そう語られていく言葉に、二人の隊員はフェイザーの覚悟を感じて襟を正した。髪型が子供のようだなぞ、揶揄した己が恥ずかしい。見た目に威厳が無くっても、総帥は偉大な守り手だ。
「⋯⋯申し訳ありません、トレモロ様。そうとは知らず、無礼なことを⋯⋯」
研究員が頭を下げる。
トレモロはケラケラと笑いながら、いいよ、気にしなくていいよ、と明るく水に流してくれた。幹部でありながらフランクに雑談に応じてくれる彼もまた、真面目で堅物そうな見掛けにはよらない。
トレモロはひとしきり談笑した後、すっと瞳に影を落として、どこか寂しげに呟いた。
「でも、もし、兄さんの姿が変わるようなことがあれば⋯⋯、それはきっと転換点だね。MIKの在り方すらも変わってしまう転換点だ」
食堂の時計が十二時を告げる。
午後からはまた迷惑異星人完全排除のお仕事だ。隊員たちは改めて己の気持ちを引き締めた。
(了)