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    siiiiiiiiro

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    ひめ巽

    #ひめ巽
    southeast

    今日も、また負けどすん、と何かが背中に当たった衝撃で、手に持っていたグラスの中身が零れそうになる。
    その正体を見る前に舌打ちをしてしまうほど、それからは嗅ぎ慣れたムスクの香りがしていた。
    「ひめるさん」
    普段では有り得ない舌足らずの声に、眉間の皺が寄る。只でさえ来たくも無い大衆居酒屋に呼び出されて仕方なく来ているHiMERUにとって、常日頃から関わりたくない相手に返事をしてやる義理もない。
    所属ユニットのメンバーと関わりの深いユニットの面々は八人しかいないはずなのに、どうしてこうも騒がしいのか。溜息もつき飽きているが、その喧騒のおかげで返事をしなくても聞こえなかったふりも出来るだろう。
    それに、--この酔っ払いからすれば、聞こえているかもいないかも判断がつかないはずだ。
    「聞こえていないようですな」
    「ッおい!」
    拗ねたような声と共に、背中から伸びてきた腕がグラスを奪い取っていく。思わず犯人の腕を掴んで振り返ると、締りの無い顔と目があってにっこりと微笑んだ。
    「ふふ、やっと振りかえってくれましたね」
    「……行儀が悪いのですよ、巽」
    「だって、お返事がなかったもので」
    悪びれもなくそう言い切った巽は、奪ったグラスをそのまま飲み干した。幸い中身はもうほとんど残っていなかったが、少しずつ飲んでいることで話に加わらずに済む作戦をパアにされて、聞こえるように溜息をついた。勿論、巽は気にした様子などなかったが。
    出会ってから数年が経ち、全員が成人してからは飲み会が定期的に行われている。HiMERUと巽の仲はこの数年でたいした進展もしていなかったが、少しずつ、ほんの少しずつだけれど好転はしていた。
    それでも、この飲み会の場ではいつも以上に近寄りたくなかった。巽は普段の倍はお節介になり、人への遠慮が無くなる。所謂絡み酒だった。それも、特段HiMERUに対しての。
    「次はどうします? 俺のもちょうど無くなったので、一緒に注文しましょう」
    「……ジントニック」
    「では俺もそれで」
    手馴れた様子で電子パネルを操作する姿は、数年前では考えられない。スマホもろくに扱えなかった頃の巽を思い出してせせら笑っていると、何を勘違いしたのか電子パネルを元に戻した巽が嬉しそうにHiMERUの顔を覗き込んだ。
    「何ですか」
    「いえ、HiMERUさんが嬉しそうでしたので」
    「……はあ」
    こうも人の感情に鈍感だと、怒る気力も失せる。只でさえ平常時で打てども響かないのに、酒に酔っている時なら尚更だ。
    いつもより近い距離で、いつもより無遠慮にニコニコと笑顔を浮かべているその顔に、イラつきとは別のモヤモヤした感情が膨れ上がっていく気がして、慌てて頭を振る。そこまでアルコールを入れていないはずなのに、何故だか頭がクラクラした。
    何か理由をつけて席を移動しようか、と悩んでいると、後ろから声が掛かる。アルカロイドの最年少の少年だった。
    「はい、これタッツン先輩の! もう一つはHiMERU先輩の?」
    「そうです。ありがとうございます、藍良さん」
    店員から受け取ったであろうグラスを二つ、巽が受け取る。どうぞ、と渡されて仕方なく素直に受け取っていると、藍良は不思議そうにその光景を見つめていた。
    「タッツン先輩明日お仕事だっけ? 全然酔ってないし、いつものお酒頼まないのォ?」
    「明日はお休みですな。それに、じゅうぶん楽しんでいますよ」
    ならいいけどォ、と呟いて、二十歳になったばかりの後輩は席に戻っていった。その背中を見届けたHiMERUは、はあ、ともう一度聞こえるように溜息をついた。
    「……あなた、本当に酔ってます?」
    「……ふふ、どうでしょう」
    にこりと笑むその顔に、競りあがる溜息をアルコールで押し流した。

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    siiiiiiiiro

    MENU2023/5/3「SUPERbrilliantdays2023」にて発行予定の新刊サンプルです。

    【スペース】東6り17a // milmel
    【サイズ/P数/価格】B6/表紙込54P/500円

    「幸せだけがハッピーエンドではない」をテーマにした、パロディのひめ巽3篇を収録しています。
    そのうち1篇はこちら⇒https://t.co/T6r2Wbq84D
    Silence CurtainCall①bite at neck (通常HiMERU×リカオン巽)


    この世には、自分によく似た人間が最低三人いるという。
    ドッペルゲンガーとも言われるそれに出会ってしまうと、寿命が縮むだの大病に罹るだの、様々な不幸が降りかかるらしい。安っぽいバラエティで声ばかり大きい芸能人が話していたことを、妙に覚えている。
    ――じゃあ、自分の大嫌いな人間にそっくりなやつに出会った時は、何の不幸と言えるのだろうか。




    「~っああもう! どうして言うことが聞けないのですか! 巽……!」

    フローリングを駆け回る足音がリビングに響く。自分のものではない軽いそれは、ろくに物を置いていないマンションの一室を縦横無尽に駆けていた。
    現在進行形で住んでいる寮とは別に借りていたここを、契約し続けていてよかったと思う日がこんなに早く来るとは想像も出来なかった。病院にも近く、仕事にも行きやすい立地で選んだだけで、決して今手を焼いている男の為ではないけれど。
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