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    なつゆき

    @natsuyuki8

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    なつゆき

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    【ツイステ】「ピンクッション」「マリーゴールド」の後日談のジャクデュです

    #ジャクデュ
    jacqudu

    ツキミソウ「遅くなったけど、陸上部がようやっと仲直りしたしみんなで集まろうぜ!」
     エースから飛び込んできたメッセージを、ジャックは苦虫を潰したような顔で見つめた。「仲直り」という単語がなんだか面映い気がしたのだ。
     ナイトレイブンカレッジでいつの間にやら連む羽目になった同級生たちは、ジャックとデュースの関係が微妙になったことに気を遣って卒業後、みんなで集まろうという声をかけられずにいたらしい。エーデュースやいわゆる「マブ」、もと一年B組など、個々人ではそれぞれに会っていたのだが、六人と一匹で集まる機会はなかった。確かに、みんなで集まろうと言われてもお互いが来ることに思い至れば気まずいと感じ行かない選択をしただろう。
     当人からすると、自分たちふたりの間にあったわだかまりは仲直り、というほど牧歌的なものではない。そう片付けられてしまうと反論したいような、今さらそこにこだわっていることを悟られたくないような、複雑な心持ちになる。
     ジャックの胸中に微妙な思いが去来しているうちに、久しぶりに動いたグループでメッセージが次々と交わされる。当のデュースは「いいなそれ」と何の衒いもなく返信をしてきた。
    「僕は秋から勤務地が変わるから、なるべく早く集まれると助かる」
     デュースの気持ちとしてはみんなと集まれるのは楽しいなー、くらいなものだろう、ということが感じられて、ジャックは脱力してしまう。
     そうこうしているうちにみなのだいたいの空いている日取りが共有され、次に「どこの国で集まるんだ?」という疑問がセベクから投げられた。ジャックは自分もそろそろメッセージを投稿しようと思いつつ、「確かに」と思ってしまう。何せ全員今いる国からしてほぼバラバラだ。
    「ここはさ、やっぱ原因たるデュースかジャックが俺たちをおもてなししてしかるべきじゃねえ?」
    「いる国が共通してんのは薔薇の王国の俺とデュース、それから輝石の国のエペルとジャックだからさ、そのどっちかがいいんじゃないのってこともあるし」
     素早くふたつ来たメッセージに舌を巻く。エースはそのよく回る口と同じくらいメッセージの入力が早い。
    「せっかくだから宿泊したいよね」
    「ついでにグリムがうまいもん食わせろ!って」
     監督生も連続でメッセージを送ってきた後には、「そうなると」とエペルが短いものを返してから続けた。
    「宿泊する場所も決めなくちゃだよね。豊作村まで来てくれるなら、うちの実家に泊まってもらってもいいけど、祭りの時期でもないしちょっと見るものはあんまりないかな」
    「うーん、観光も考えると都市部のホテルだと高くつくか?」
     デュースが送ってきた後、みながお互いの出方を伺っているのかメッセージのやり取りが途切れた。ジャックはため息をつくと、腹を括り返信する。
    「いいぞ。うちに泊まっても」
    「えっ」
    「おい、ジャックの今の家は首都の職場近くじゃないか?」
    「え、いくらなんでもオレらの年齢で払える家賃のところだって考えると狭くない? オレら全員寝れる?」
    「広さもだけど、相当はしゃぐしうるさくなると思うよ。田舎と違って都会の騒音トラブルはまずくない?」
     次々来る反論にジャックはかまわない、輝石の国で観光してうちに一泊するでいいだろ、と送りつけた。部屋に来ればそれらの心配をしなくてもいいことはすぐにわかることなのだ。


    「うわ、本当に広いな」
    「あーなるほどねー」
     元トランプ兵たちが感嘆の声をあげた。
     輝石の国の首都の観光地を巡り、予約した店で食事を取り、飲み物やつまみを買い込んで、ようやくジャックは旧友たちを自分部屋へと迎え入れた。全員の目の前には広々としたリビングが広がっているのだが、窓辺に明らかに不自然なスペースががらんと開いている。それを見て全員が察しがついたらしい。
    「本当はあそこにグランドピアノが置ける。とにかく職場に近くて自宅で練習ができる防音がしっかりした部屋、で探したときにここしかなかったんだ。部屋もいくつか余るくらいだし分不相応な部屋だってわかってはいたんだがな。壁や床の防音措置の上からさらに強力な防音魔法をかけてあって、外に一歳聞こえないつくりになっているんだ」
     新人の頃は、はっきり言って給料はほとんど家賃で消えていた。けれどもどうしてもそのふたつの条件が譲れなかったのだ。
    「本当は落ち着いて仕事にも慣れてから引っ越すことも考えたが、ずるずるそのままだ。警察音楽隊の隊員は防音の部屋に住んでいることも多いから、家賃補助があって今は多少は助かってる」
    「へえー。でも、普通の部屋に住んで魔法で防音すればいいんじゃねえの?」
    「魔法士の警察官は職務以外の私用であまり魔法を使わないように言われているんだ。まあ、拘束力はない努力義務だがな。いざってときにプライベートで魔法使い過ぎてブロット溜まってます、魔法使えませんじゃ困るだろ」
    「はー、そういうもんか」
     エースが感心する後ろで、うんうんと魔法執行官であるデュースが頷いている。彼も似たようなものなのだろう。
     早速始めよう、とエペルが持参した地元のシードルの瓶を並べ出す。それを皮切りにセベクやオルト、監督生も次々に買ってきたものをリビングのテーブルに開け出し、飲めや食えやの大騒ぎである。観光や食事をしている間も思っていたが、離れていた年月などものともしないほどみな騒がしい。エースとデュースがぎゃあぎゃあと喧嘩をしているかと思ったら、監督生がそれを宥め、その隙にグリムが何かをもぐもぐと食べている。セベクは口を開けばどんな話題でも最終的には若様の話に辿り着くが、読んだ本の話なんかは案外興味深い。エペルは以前よりも方言が混じることが多くなったがその分のびのびとしゃべり、ヒューマノイドのはずがどこか大人びた空気になったオルトと笑い合っている。
     深夜になっても盛り上がりは耐えなかったが、やがてひとり、ふたりと寝落ちしていく。一応、弟妹たちなど家族が来たとき用のマットがあるので、それを引いて寝落ちしたやつから順に並べていく。まとめてブランケットをかけ、電気を消す。
     最後まで残っていたオルトもスリープモードに入るね、と言って静かになった。ジャックは家主ゆえか気質ゆえか、元同級生たちを見張っていなければ気が済まず目が冴えたままになってしまい、今いち眠れそうになかった。キッチンで簡単に洗い物などをした後、キッチンの小さな明かりも消してコップに水を入れて飲む。
     暗闇にカチコチと時計の針の音だけが響く中、ジャックはふいにそっとささやいた。
    「デュース。起きてるだろ?」
    「……なんでわかったんだ」
     ごそりとマットからデュースが起き上がった。真っ暗でも、デュースの瞳が淡く碧色に輝いているのがわかる。
     ジャックはふ、と笑った。
    「歯軋りの音がしねえ。部活の合宿のとき、さんざん悩まされたからな」
    「うとうとはしてたんだが……僕も水飲みたい。そっち言っていいか」
    「いや、俺の方が目が慣れてる。持っていくから待ってろ」
     ジャックはそう言って、自分の分とふたつのコップを両手に持ってデュースのもとへと向かった。マットの端に座るデュースにコップを渡す。
     しばらくふたりで無言で水を飲む。やがてデュースが言った。
    「楽しかったなあ、今日。もっと前から集まればよかった」
     デュースの言葉に、ジャックは曖昧に頷く。集まれなかった原因は主に自分たち、というか頑なになっていたジャックのせいだと言える。はっきりとは言わなかったが、別にもう学生ではないのだからホテルを提案してもいいのに、自宅を提供することにしたのもそれが理由だ。みなに対して罪滅ぼしがしたかった。デュース以外はジャックの思惑をわかっていそうな雰囲気もあった。対してデュースは、自分たちの諍いはもう終わったことと思っている節があり、あまり気にしていないようだ。それがなんとなく複雑だった。だが、蒸し返すのもどうかと思いジャックは沈黙を守る。
     やがて水を飲み終わり、デュースはコップを床に静かに置いて言った。
    「……ジャックはここでフルートの練習してるんだな」
    「ああ。こういう部屋に住まず、防音室のある店に行くとか、あとは職場の練習室で済ます人もいるんだがな。俺は他人がすぐ近くにいると思うとあまり落ち着かないんだ」
     練習中の、不出来な演奏を聞かれると思うとどうもそわそわとしてしまう。それは、学問やスポーツなど、ジャックの得意な分野では決して抱いたことのない気持ちだった。音楽という、後から始めたものだからこそなのかもしれない。
    「……そのー、ジャック。お願いがあるんだが」
     デュースが指をしきりに動かしながら何やら言い出した。ジャックが「なんだ、急に」と言うとデュースはスマホを取り出す。
    「そこで、フルート吹いてくれないか。あのときの曲を」
     そう言って、がらんと空いたピアノのスペースを指差した。
     あのときの曲というのは、ふたりが再会した日にジャックが吹いた曲だろう。星に祈り、孤独な魂を慰め、夢はきっと叶うと歌う歌。
    「で、それを撮らせてほしい。ほら、あのときは撮影とか禁止だっただろう。仕事で失敗したときとかにああ、聴きたいなーって思っても音源がないんだ」
    「音源って……別に、サブスクとか検索すれば、いろんな演奏したものがあるぞ」
    「何言ってるんだ、お前が吹いたのじゃなきゃダメに決まってるだろ」
     デュースが怒ったように言い、ジャックはう、と面食らう。
     こういうところだ。こいつの、こういうところにいつも振り回されてきた。
     ジャックは半ばあきらめながら反論する。
    「……いくらなんでも、フルート吹いたらこいつら起きるだろ」
    「僕とジャックの周りだけ防音魔法をかける」
    「お前にだって、私用での魔法使用は控える義務があるんじゃないのか、魔法執行官」
    「演奏中だけだ。これは、職務を執行するために必要なことだ。私用じゃない」
     そう言ってマジカルペンを振り、さっさと防音魔法をかけてしまうと、さあ、というようにデュースがジャックを見た。ジャックはこれみよがしにため息をつくと、「ちょっと待ってろ」と言って立ち上がった。
     フルートを取りに自室まで行くにはさすがに光源が足りなかった。ちょっと考えて、背後のカーテンを少し開け、月明かりを取り込む。
     やがてフルートを手に戻ると、デュースはスマホを向けて期待に満ちた目で見上げてきた。ジャックはもう一度ため息をつくと、スペースに立った。
     少しだけ開けたカーテンの隙間から月の光が差し、まるでスポットライトのあたるステージを作っているようだった。ジャックは息を吸い、演奏を始める。
     あのときはがむしゃらだった。まるで射撃訓練で鉛玉を的に命中をさせるように演奏をぶつけた。今は、仕方のないやつだな、という響きになるのを感じた。目の前の、察しが悪くて悪気がなくて、ちょっと残酷なこいつへ。そして未来の、仕事でちょっとばかりヘマをしたデュースへ。かつて宿題が終わらなくて涙目になっていたときのようにいっぱいいっぱいになっているであろうこいつを、慰めるように。
     お前ならできる。努力してきたし、これからもするんだろう。お前の願いは消えていないだろう?
     少しだけ落ち込むのは許してやるから、さあ、また立ち上がるんだ。
     演奏が終わり、フルートから口を離す。惚けたようにジャックを見ていたデュースは、慌てて録音停止のボタンを押した。
     早速今の演奏を再生して見ている。覗き込むと、背後にカーテンの間から覗く満月を背負ったジャックがフルートを吹いていた。演奏が佳境になるに従って、映像はブレてジャックはフレームアウトしていく。どうやら、聴くことに夢中になって撮影していることを忘れたらしい。
     こいつらしいな。まあ、演奏を聴くことがメインなのだからこれでも別にいいだろう。
     そう思ってデュースを見ると、なんとなく不服そうな顔をしている。どうした、と尋ねるとデュースは唇を尖らせる。
    「うーん。実際の演奏と映像ではなんか違うんだ」
    「ああ?」
    「実際の演奏じゃないと聞こえない周波数があるっていう話、知らないか? 人間の耳に聴こえるものじゃないんだが、映像を聴いてもリアルで聴くことには勝てないのはそのせいらしい。演奏してくれたのに悪い、でも、音源は手に入ったけどこうじゃないっていうか……」
     むむむと眉を顰めて唸るデュースに、ジャックは心底呆れて気がつけば口を開いていた。それはずっと考えていたことだった。
    「あのなあ。思ったんだが、なんで撮影すればいいっていう結論になるんだ?」
    「え?」
    「実際に聴いた方がいいってわかってるんだろ? ここに住めば、いつでも演奏なんてしてやるぞ、俺は」
     デュースがきょとんとした顔をする。ジャックは言った後になって、そのことを思いもしなかったらしいデュースに呆れるというより悲しくなってしまった。
     なんだか俺ばかりが必死じゃないか。
    「まだ大っぴらにはできないが、勤務地、輝石の国の首都に決まったって教えてくれただろう」
     雑な口調でジャックは付け足す。デュースの表情は動かないまま、やがてぽつりと言った。
    「……住んでいいのか?」
    「言っただろ、家賃高いんだここ。今の給料でも楽々とはいかない。部屋は余ってるし、見ての通り広い。魔法執行官の輝石の国の分室は警察署内にあるからお前の職場にも近い。二人で折半できれば助かる」
    「だって、練習するとき他人が近くにいると落ち着かないって……」
    「まだ俺と他人のつもりなのか? お前は」
     ジャックがじ、と見つめるとデュースはやがて視線を落とした。その耳が赤いのを見て、ジャックはようやく、鈍い相手に対してしてやったと溜飲を下げる。
     ジャックが彼に向かって手を伸ばし、名前を呼ぼうとしたそのときだった。
    「ぷはっ! もうやめるんだゾエース!」
    「うわグリムお前バカ!」
     騒々しい声が響いた。弾かれたように振り返るとグリムの口もとを押さえたエースとばっちりと目が合った。
     見れば監督生とオルトは自分で自分の口を押さえているし、エペルは苦笑を寄越している。セベクだけがぐっすりと寝息をかいていた。
    「お、お前ら、いつから……」
    「いやオレ悪くないかんね!? 防音魔法が切れてもそのことに気づかずしゃべってるお前らが悪い! むしろグリムをここまで黙らせてたことに感謝してほしいくらい!」
    「ずーっと息止められてて死ぬかと思ったんだゾ」
    「……オルト、撮った?」
    「うん、映像記録は赤外線センサーありでばっちりだよ!」
    「いつか何らかのパーティーのムービーとかに使えそうだよね」
    「……ううん、若様……」
     デュースは赤くなって固まってしまい言葉もない。わいわいと騒ぐ元一年生たちを前にジャックは拳を握りしめる。
     恥ずかしさを誤魔化すために彼らを叱責しても、近所迷惑にはならないことだけが救いだった。
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