2023年 尾誕生日 尾めでとう! ogt夢オンリーイベ展示最近姉の様子がおかしいと、目の前の男は少し不貞腐れたような顔を浮かべておはぎをもっちゃもっちゃと食らっている。「今まで俺が同行を申し出て断られたことなんぞなかった」。やら「家に客がくるから少し外出しててほしいなんて、俺が知らないねぇねの交友関係なんてなかったはずだ、誰だ。」とか少し逸脱したシスコン具合を見せながらぶつぶつ呟く尾形ちゃんについつい遠い目をしてしまった。かなり拗らせてんね?ナナシちゃんの影響か、あの頃に比べてかなり丸くなった尾形ちゃんにやっと慣れてきたというのにまたぶっこんできたなあ、と頬をエゾシマリスのように膨らませて追いおはぎを食べている姿見て思う。
「(尾形ちゃんからこんな相談受けるだなんて思ってもみなかったな。)」
「おい、聞いているのか白石。」
「うっ、うんうん!僕、ちゃんと聞いてるよぉ〜!」
まあまあ、とりあえずお茶でも飲んじゃってぇ〜、とほうじ茶を注げば、それをジッと見つめた後ちびちびと飲み始めた尾形ちゃんにホッと息を吐いた。(相変わらず猫舌は治っていない。)尾形ちゃんにはバレてはいないが、ナナシちゃんのその行動に俺自身も一枚噛んでいるんだよなあ、と心の中で一人語散る。尾形ちゃんをこうやって引き止めているのも理由があるのだ。こうしている間にも尾形ちゃんとナナシちゃんの家では着々と準備が進められている。そう…、
「(尾形ちゃんの誕生会の準備がな…!)」
そんなこと言えるわけねぇよなあ…と緩みそうになる口元をなんとかキュッと引き締める。この任務はアシㇼパちゃんとナナシちゃん直々の重要任務だ。失敗する訳にはいかない。俺の今週の食費(ナナシちゃんの店で賄いを作ってもらう約束を取り付けている。)が掛かっている!それに折角のサプライズだしなあ、と今だに熱々のほうじ茶をゆっくり飲んでいる尾形ちゃんを見れば、いつものメジェド様フェイスに陰りが生じていた。
「(これまた昔に比べて表情も分かりやすくなっちゃって…。)何々?寂しんぼなの、尾形ちゃん。可愛いところあるぅいだ、いだだだ、やめて、痛い!耳引っ張らないで!千切れるって!」
「耳が無くなれば綺麗なだるまになると前々から思っていたんだが。」
「こわい!怖い!ごめん!ごめんって!」
危うく達磨にされるところだった…。今だにヒリヒリする耳を涙目で摩りながらクゥーンとショゲていれば、尾形ちゃんが小さく、もしかすると男でも出来たのか?と呟いた。
「ん〜まあ、ナナシちゃんいい子だし可愛いしねぇ。そろそろ結婚も考える頃だろうし…いてもおかしくはないはないかもしれないね。」
俺が立候補したいぐらいだけどな!とウインクして自分を指して尾形ちゃんを見た瞬間、ヒュッと息を呑んでしまった。
「どこの何奴だ何時の間にねぇねに近づいたんだ俺の預かり知らないところでまさかねぇねの家族になろうってわけじゃあ「ストップストップストップ!尾形ちゃん!そうと決まったわけじゃあないからね⁉︎」…。」
はい!おはぎ!って口にぶち込めば、黙ってもぐもぐと口を動かして心なしか表情も緩んだように見える。さっきの尾形ちゃんは怖すぎて俺少しチビっちゃうところだった。ナナシちゃんのそういう話地雷だったのか…ナナシちゃんも大変だなこりゃあ、と今頃アシㇼパちゃんと杉元と一緒にケーキを作っているであろう彼女に心の中で合掌しておく。
「でもそんな話、俺聞いたことないし違うと思うぜ!ナナシちゃんの一番は尾形ちゃんだしな!」
「…。」
「俺といる時も、百之助は〜って話してるぐらいだからな!」
なんとか気を逸らすためにそう言った時だった、俺のスマホから通知音が鳴る。そのまま確認すれば、杉元からの準備完了!の文字が見えた。やっとか、ヒヤヒヤだったぜと冷や汗を拭って尾形ちゃんを連れ立って店を出る。折角だしこのままナナシちゃんのコーヒー飲みに行きたぁいと理由をこじ付けて、尾形ちゃんたちの家兼お店に向かえば、尾形ちゃんは不思議そうにしながらも頷いた。
「ねぇねも丁度用事が終わったみてぇだ。」
「そっかそっか良かったね!」
「?ああ?」
途中ねぇねに土産…とふらっとお店に寄ろうとする尾形ちゃんを引っ張って家まで直帰させるのは至難の業だったけれど、なんとか早めに帰らせることができた俺は尾形ちゃんの後ろでニマニマと笑って背中を押す。そんな俺に尾形ちゃんが急かすな、と少し不機嫌そうに呟いて玄関を開けた瞬間だった。
「尾形!」
「百之助!」
「お誕生日おめでとー!!」
パンパンパンッと破裂音が響き、続いて色んな人たちの嬉しそうな声が挙がった。尾形ちゃんはびっくりしたのか、瞳孔を猫ちゃんみたいに細めて固まっている。そんな尾形ちゃんにアシㇼパちゃんとナナシちゃんが近づいて手を引いて椅子に座らせた。そのまま二人は尾形ちゃんに紙の王冠を被せて、本日の主役襷まで掛けた。手際良すぎるね?杉元あたりで練習したの?まだ固まっている本日の主役を他所に、キッチンの方からキロちゃんが良い声でハッピバースデーの歌を歌いながらホールケーキを持ってくる。え、でかくない?何その大きさ?ヒグマ用?目の前に置かれたその誕生日ケーキを前にまだ固まっている尾形ちゃんに、ナナシちゃんが、蝋燭ふーってして?と促せば、尾形ちゃんは錆びついたブリキの人形のようにギギギと頷いた。
「オガタ!願い事を込めるんだぞ!」
「…。」
「ほら、一気に。」
「…ふぅー。」
「おお!良い吹きっぷりだったなオガタ!」
蝋燭を吹き消した途端、わー!おめでとー!と歓声が店の中で湧き上がる。ナナシちゃんによしよしと頭を撫でられた尾形ちゃんがゆっくりとこちらを向いて、おい白石、と声を掛けてきた。うんうん、言いたいことは何となく分かる。でも敢えて無視するぜ、俺は!
「誕生日おめでとう!尾形ちゃだだだいだい!痛いって!耳千切れる!!」
*
「こいつら俺の誕生日ってやつにかこつけて酒と飯食いたかっただけだろう。」
「ははは、そんなことないさ。皆百之助のことを祝いたいって思ってたんだ。」
すっかり寝てしまった杉元くんたちにブランケットを掛けてあげ、アシㇼパはソファーに寝かせた。そんな私の姿を、いつもの特等席(バーカウンターの端っこが好きみたいですっかり百之助の席になってしまっている)でワインを飲みながらジト目で見つめてくる百之助に笑って返す。みんな何日も前からこの計画を進めてくれてたのだ。バレずに成功したことが嬉しくてニマニマしながら百之助の隣に座って、私もちびちびと残っていたワインを飲む。
「…最近一緒にいなかったのはこれか?」
「ん?嗚呼、まあそうだね。ごめんね、色々断ったりしちゃって。」
「男ではないんだな?」
「?男?」
「なんでもない。」
なんだかよくわからないけど、百之助がいいならいいか。そう一人で頷いた。そのままそうだ、とカウンターの内側に入れておいた紙袋を取り出して百之助の前に置く。
「…贈り物はさっき貰ったぞ。」
「さっきのはアシㇼパと一緒に選んだものだからさ。これは個人的なもの。」
「…ありがとう。」
嬉しそうにほんの少し眉を下げてそれを受け取る百之助の手を取ってこちらを向かせる。そうすれば、どうしたねぇねと首を傾げた百之助にあのね、と言葉を続けた。
「記憶が戻って、本当の私でこうやって穏やかに百之助と過ごせることが本当に幸せなんだ。」
「…。」
「あのね、百。」
「…うん。」
「生まれてきてくれてありがとう。私と出会って、私と生きてくれて、ありがとう。百之助。」
そう伝えて、額に一つ口付ける。愛しい愛しい私の弟。これから、どうか穏やかに健やかに、そして幸せに生きてほしい。そんな願いを、祝福を込めて。
「愛しているよ、私の大事な大事な子。」