home,home,sweet home「イーグル、起きとるか?」
彼の様子を見るために、ノックをして開けた部屋全体が、真っ暗になっているのに、カルディナは驚いた。
ただ暗闇なのではない。この国にはない赤や黄色のの光が無数に、おそらくは雨に濡れているのであろう、ぼんやりとした雲の向こうで瞬いている。
他国を旅したことのあるカルディナには見覚えがあった。
イーグルはベットの上に半身を起こしながら、手元の機械の操作をしていた。仕組みは不明だが、これで部屋全体に映し出しているものらしい。
「こりゃえらい景色やな。これ、オートザムかいな?」
まだ身を起こすのがやっとの彼は、彼女ににっこりとほほ笑みかけた。
「ええ。」
「里心がついたとか?」
「まあ、そんなところです」
試してみますか?と尋ねられてカルディナはうなずいた。
目の前の景色が暗転し、鮮やかな色彩に変わった。チゼータの景色だ。
「このシリーズにはチゼータもあったので。一度、貴女にはお見せしたいと思っていたんですよ」
風景が移り変わる。チゼータの王城、市場の風景。景色はめまぐるしく変わってゆく。
「まるで観光案内ですね。この国とは違う、異国情緒がして素敵です。」
「チゼータは観光でも商売しとるからな。熱心なんやろ」
有名な寺院を映したところで、視点が空を映した。
穏やかなセフィーロとはまるで違う、突き抜けるような青。
カルディナの表情が固まる。
懐かしいですか?と尋ねられて、首を振るカルディナ。
「うちは踊り披露しながら各国を渡り歩いとったんやで。チゼータを懐かしい、なんて思ったことあらへん」
大体、うちの知り合いはみいんな外に出てるしな、と明るく言ったつもりだった。
それでも、カルディナは思い出してしまった。
あの乾燥した空気を、ここにはない強烈な日差しを、頬を撫でる砂を含んだ熱風を。
この国はいま作り直している真っ最中だ。
移民が大挙して押し寄せると、彼らの意思の力によって国の在り方が変わってしまう可能性があるから、鎖国政策を取らざるを得ない。
親衛隊長の傍にいる以上、カルディナが渡航するわけにもいかない。
おそらくは、カルディナがチゼータに戻るのは長い月日がかかることだろう。
自分で選んだ場所で生きてゆくと決めた以上、この感情を、今は誰に言うわけにもいかない。
それでも。
「…離れた故国を恋しく思うのは当然だと、僕は思いますよ」
「僕もですから」
あれ程恋焦がれたセフィーロの空の下にいるのに、それでもどうしようもなくスモッグごしの光が、あのオートザムが恋しくてたまらない。
その気持ちが、今ならカルディナにも共有できる気がしていた。