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    亜桜黄身

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    亜桜黄身

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    ※未完 
    創作BL/総受け/平凡受け/明るめ

    最強キャラが飽和してる世界で唯一の雑魚キャラ俺に皆惚れてるなんておかしい騎士になったら一番の功績を上げてやる。そうして誰よりも早く出世して、ゆくゆくは騎士団長になるのだ。あの人と同じように。

    そう夢見ていた時期が、俺にもあった。

    「な、名前がない……また落ちた……」
    「そう気を落とすなよエイリーク、まだその時期じゃないってだけだろ?」
    「ぐぬぬ……また他の奴らとの差が広まるー!」

    掲示板に貼り出されているのは今期の昇級試験で騎士に選ばれた者の名前だ。そこに俺、エイリーク・ジアッドの名前はなかった。
    田舎を出て見習い騎士として軍に籍を置き数年。まだまだ偉大な剣士には程遠く、そうなるための下積み時代である。そんな中でも、才能のある奴らは既に何人か騎士として認められているのが現状だ。

    「おかしい……今回は絶対に自信あったのに……一番苦手な座学も絶対に平均よりは超えてる」
    「平均目指すあたり駄目だったんじゃないか?」
    「自信があるのは平均までって意味だよ! ミスにしてもほんの1、2個の文法ミスで……はっもしかしてそれか……!? 妙な言葉になって盗作を疑われたとか……!?」
    「あの記述式に盗作できる要素あったか?」

    にやにやと余裕と嫌味を感じさせる笑みが憎い。一緒に試験勉強を頑張った仲である彼はどうやら掲示板に名前が載っていたらしい。これでまた一人、同期が先輩になった。
    記述の内容は騎士道精神について、または騎士団の歴史、功績についてが毎年交互に出題される。去年は過去5年の功績を時系列順1500字以内に要約せよという問題だった。俺はそれを熱くなりすぎて1510字の字数オーバーとなり、要項を満たせずに終わった。
    それでも超過の字数分が減点で評価自体はされると噂では聞いていたのに、その年俺は過去最低点……0点を叩き出したのだ。採点に携わった元同期現先輩騎士が言うことには、俺の答案用紙は団長自らが破り捨てそのまま紛失したらしい。

    「今年の出題は自らの騎士道精神を1200字以内にまとめろという記述問題……まさに俺のためにある問題だった。絶対に、絶対に成績上位の自信があったのに!」
    「エイリーク、お前また落ちたのかよ。ダッセェの」

    掲示板の前で地団駄を踏んでいると、背後から憎たらしい声が俺を呼んだ。聞き覚えのある声は振り向かなくても誰のものかわかる。無視したいが、暇なあいつは俺の様子などお構いなしに喋るのをやめない。

    「現実はこれだよ」
    「ジェス……俺よりちょっと早く騎士団に入れただけの癖に偉そうにすんな!」
    「ちょっとか? 一年はそう短い期間じゃないと思うんだがな、」

    「それも今回で二年に延長だ」続いた言葉に一層激しく地団駄を踏む。原因である彼は余裕を崩さない雰囲気で愉快そうな笑みを深めるだけだった。
    ジェスは俺と同じ村で育った幼馴染みだ。同い年だけど俺のほうが半年くらい生まれが早く、そのせいか昔は何をするにも俺の後ろをついて回っていた。俺が村を出て騎士になると言うのを真似て一緒に村を出たのもそのせいだ。昔から、真似したがりの弟みたいなやつだったのに。

    「エイリークは向いてないんだよ。自分でもわかるだろ? 諦めてさっさと村に帰れよな」
    「絶対帰らない! お前は口を開けば二言目には村に帰れってしつこいんだよ」
    「お前はあそこのが合ってんだから仕方ないだろう。ここと違ってのどかだし、若い男も俺以外居なかったし……そ、そのうち俺が迎えに行ってやるからさ」
    「お前はいつもいつもこんなときだけ声掛けてくるよな! その上慰めの一つも言えないのかよ、もう俺に話しかけるな!」
    「ちが……ッ、ま、待ってくれエイリーク! エイリーク!!」

    背後で追いかけて来る気配を振り切って走り出す。毎朝走り込みをしてる俺の体力と瞬発力を舐めるな。
    何にせよ落ちた。悔しいがジェスの言うことも正しい。田舎に帰る気はさらさらないが、人生設計を見直す時期に差し掛かったのかもしれない。これで来期まで俺が騎士を名乗れる道はないのだから。



    「団長、もう同じ手を使えませんよ」
    「……わかっている」

    そう、俺の去った掲示板の前でされていた会話など知る由もなかった。





    Q、入団を志す理由は?
    そう聞かれれば間違いなく俺はこう答える。スウェイト団長です、と。

    騎士団は第一から第三までで編成され、俺が志すのは国で一番の花形、エリート中のエリート集団である第一騎士団だ。平民が第一に入団したければ第二か第三で入り、功績を上げて引き抜かれる必要がある。
    無論第二騎士団も入団できれば大変な誉れであることに違いはない。いくら騎士は他の職種に比べて家柄より実力を評価してもらえると言っても、平民の出は大抵が第三だ。平民が第二に入団できただけでもちょっとした噂になる。裏を返せば第一は貴族の集まり。家柄と実力、その両方がなければ籍を置くことも不可能ということだ。
    つまり、平民が第一騎士団に入るのは生まれに文句を言わせない圧倒的実力を伴わなければならない。

    その第一騎士団で生まれに文句を言わせない実力で入団を果たした平民はただ一人。彼は伝説を作った男であり、かつて救国の騎士と謳われた男。
    第一騎士団元団長、シヴァ・スウェイト。
    スウェイト団長は戦争の全盛期に功績を上げた。そこには当時小隊長だった団長が率いる小隊を除いた多くの部隊の壊滅だったり上官が次々と殉職していく戦争らしい背景があるのだが、それらを除いても当時小隊の指揮官でしかなかった彼がこの戦争に大きく貢献し勝利をもたらしたことは有名である。
    俺にもその機会さえあれば、とは騎士道精神に則り平和を重んじる愛国主義者として口が裂けても言えない。
    だが、それを口にできる輩も居ないわけでは無いようだ。

    「戦争さえ起きりゃさっさと上の人間が死ぬのによ!」

    もはや直球である。戦争が起きればなんて騎士として、いや、人として最低の発言だ。修練場の清掃──余談だがこれは騎士見習いが任される最初の雑用もとい仕事なので、俺はこの道のプロである──を済ませバケツの水を捨てに行く途中、人道を悖る発言に聞き捨てならず足を止めた。
    ひょっこりと物陰から覗けば、第二騎士団の制服が見える。先ほどの発言をした人間と、それに合わせてギャハギャハと下品な笑い声を立てる仲間が数名。ちなみに今は言うまでもなく就業時間だ。わざわざ第二の本部から離れて第三の基地内でサボりとはいい度胸だな。

    「お前にオルドリッジ団長の代わりが務まるわけないだろー?」
    「ばぁか、消えてほしいのは第一のほうだよ。考えてもみろよ、戦争が起きりゃ第一の団長は戦地で指揮だろ。あの親の七光りが生き残れる訳ない」
    「どうだかな、身内のお陰で大した功績もなく団長に収まったあのイルミス・スウェイトだぞ? それこそオルドリッジ団長に押し付けて自分は安全地帯にいるに違いねえよ」
    「そうすりゃ一層第二は功績を立てられるな。あーあ、さっさとどこかと戦争起こさねえかな!」

    あまりの会話に言葉を失った。
    もしも参戦できれば出世が望めるのに。口にこそ出さないものの、その考えは俺にもあった。それは認める。だが上官が死ねばだと? そんなことを口にできる人間が騎士団内に存在するのか。騎士を名乗っているのか。
    気づいたときには喉奥から叫ぶように声が出ていた。

    「──ッ異議ありッ!!」

    突如物陰から響いた俺の声に第二の奴らが一斉に振り向く。向けられる複数の瞳に一瞬頭が真っ白になった。だが、今更引くわけにもいかずもつれそうになる舌を必死に回して声を張り上げる。

    「第一騎士団のスウェイト団長が就任して以来、国境付近への派遣任務が減少傾向にあるのはご存知ですか。国境警護といえど辺境にある近隣従属国との小競り合いは主に第三に割り振られる為、第二の方はお忘れかもしれません。しかし過去の実績をまとめた物なら国立図書館で閲覧可能です」

    受験勉強の為に目を通した最新のものには何故かとても見覚えのある文章が載っていたが、今はそれどころではない。去年破り捨てられたと聞く俺の答案と一言一句同じ内容が記載されていたように感じるが、もしかしたら見間違いか俺の記憶違いかもしれないし。

    「減少の理由としては就業3年以下の新人騎士育成を目的とした修練があります。長期遠征の模擬として首都から離れ、辺境の道路整備に従事させることで賊や国境を侵す従属国民を追い払う意図があります。これを考案・実行したのはスウェイト団長です。第三の派遣任務が減少したので去年第三から第二に移籍した騎士の数は例年の約2倍となりました。対して第二から第一に移籍する数が少ないのは、首都に近づくにつれ国内の治安が安定しない為です。つまり、第二には本来第三に割り振られるはずだった人員まで配属され人手が潤沢であるにも関わらず国民に平穏を約束できない状況にある……当然です。策を練るのに必要なのは人材資源ではなく明晰な頭脳なので。ただ増やされた手足はこうして暇を持て余すしかできないのが第二の現状なのでしょう」

    国内警備は主に第二の管轄だ。これに関して今オルドリッジ団長率いる第二騎士団を責めるつもりはなかったが、うっかり彼らを責める口調になってしまった。
    当然彼らの癇に障ったらしい。物々しい声色でオイと口を挟まれたが、段々と熱を帯びてくる口調で熱弁する俺の耳には口を挟む声も聞こえなくなる。そうでなくとも、反論の声なんて全て無視するつもりだった。

    「第一の仕事は主に団内の教育、育成と王族の警護。国外的には華々しいものの日々市民の目につきやすい国内警護を任される第二と比べて、国内での活動内容が理解されづらいことは認めます。しかし!仮にも同じ騎士団の団員がこれをわからないとはどういう了見でしょうか?」

    一つ区切り大きく息を吸い込んだ。一番言いたくて堪らなかったことを叫ぶ。

    「俺が言いたいのは!第二騎士団の貴方がたがたった今第一の基地内で油を売っているこの時間も!平和も!スウェイト団長の功績に他ならないということだッ!」

    俺が一気に捲し立て終えると、辺りがしんと静まり返る。俺の荒い息が整うより先に静寂を破ったのは目前の男たちの足音だった。

    「それで? たかだか騎士見習いの餓鬼が俺たちに取った無礼についての謝罪がまだ聞けてねえな?」
    「、先にスウェイト団長への謝罪を要求しま……うわッ!!」

    たいして力は込められていなかったのに軽く突き飛ばされてよろめく。たたらを踏んだ脚で地面を踏み締めるより先に足首を蹴られ尻餅をついた。

    「わかってねえなぁ……スウェイトの野郎がどうだかは関係ねえんだよ。帯刀すら許されていない見習いの餓鬼が、第二騎士団である俺たちに有り難いお説教垂れたことへの謝罪がまだだって言ってんだ」
    「ッ……」

    正式な騎士だって帯刀こそ許可されているが、上官の許可なく抜刀することは許されていない。特にここは王宮のすぐ傍である第一騎士団の基地内だからより規則が厳しい。況して団内での小競り合いで抜刀など、懲戒処分の対象にすらなり得る。
    だが、現実には俺の鼻先に向けられる鋭利な切っ先がある。

    「じょ、上官の許可なく抜刀は……」
    「俺は第二騎士団の指導官だ。ちょっと先立って新人になるはずの見習い教育を手伝ってやるくらい何の問題も無え」

    何も知らない見習い騎士相手だと思って平然と大嘘吐きやがる。見習い騎士の指導と全ての責任は原則として第一騎士団にあり、全ては団長の預りだ。つまり、彼らがすべきことは俺が働いた無礼についてスウェイト団長への報告であり私刑ではない。とは言えいちいち全ての揉め事を団長まで報告する暇もないから、実際には団長に権限を与えられている第一の指導官が俺を罰するのが筋だ。
    そもそも真剣を指導に用いるのは指導官が持つ権限の範疇を超えている。俺は団内の規則を全て誦んじる自信があるから間違いない。
    「問題大有りでしょ」と小声で囁けば、迫り来る刃が一層顔に近づいた。

    「ひえ……ッ」
    「はっ……真剣も持たせてもらえねえ新人ひよっこ未満じゃ刃を向けられるのは初めてか? 有り難く思えよ、一足先に俺の新人指導に付き合わせてやるからよ」

    指導官。こいつこんな仕様もない人間性のくせにペーペーじゃないのかよ。
    新人指導はある程度経験年数を積んだ者が担当するから、この若さでそれに就くのなら相応に優秀なのだろう。だからこそ遣る瀬無い。そんな人間が言うに事欠いてスウェイト団長に消えてほしいと言ったことが。
    絶対に謝らない。たとえ頭に血が昇っていたとしても、団内で殺傷沙汰は避けたいはずだ。本当に斬り殺されることはないだろう。寧ろ好機だった。ほんの少し切られるだけで、こいつの罪を言い逃れのできないものにできる。
    騎士団は根本的に気質が体育会系だから、肉体的指導に関してはさほど罪は重くないのだ。むしろ彼らの言う通り俺が先に口を出したのだから誰も俺を庇わない。しかし、真剣で切り付けたとなれば話が別。
    囲まれてタコ殴りされるよりずっと罪は重い。俺は特別痛みに強いほうじゃないし寧ろ痛いのは大の苦手だけど、俺のプライドが、いや、俺自身のではなく俺がスウェイト団長に寄せる矜持が逃げることを許さない。

    「やれるもんならやってみてくださいよ、先輩」
    「この……クソ餓鬼がァッ!」

    ちょっと。ちょっと切られるだけだ。大丈夫、殺されることはない……はず。
    真剣を振り翳した男の血走った目と合い、それを制止する仲間たちの本気の声が耳に届き「ひょっとしてコイツ危ない奴では?」と気づく頃には、座り込んだまま腰が抜けて立ち上がれなくなっていた。

    「あ……ちょ……待っ……!!」

    尻餅をついたまま動かない俺の目前で振りかぶった刃が日光に反射して煌めく。
    もう駄目だ。ぎゅっと目を瞑ると同時に鋭い声がその場に響いた。

    「全員その場を動くなッ!!」

    顔に当たる風圧、悲鳴、顔を濡らす何か、血の臭い。

    「……?」

    痛みは、なかった。
    恐る恐る目を開けると、俺の目の前には先ほどとは違う男が立っている。逆光で顔は見えない。代わりに背後から呻き声がして、目を向けるとそこには肩を抑えた男が蹲っていた。抑えきれてない手のひらから少なくない量の鮮血が溢れ、地面を赤黒く濡らしている。

    「ひッ……ひいぃっ……」

    脂汗を掻いてこちらを睨み付ける男の形相があまりにも恐ろしく、立ち上がれない腰を引き摺って後退る形で距離を取る。ドン、と何かにぶつかり行き止まった。完全に後方不注意だ。壁にでも行き当たったのだろうとそのまま背中を凭れ掛かると、壁であったはずのそれが動いた。後ろに倒れ込む。

    「うわわっ、って、え?」
    「……状況を説明しろ」

    地面に仰向けになったまま見上げた先に居たのは、第一騎士団のイルミス・スウェイト団長だった。
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    亜桜黄身

    DONE包容力のある大人びた歳下受けと庇護される歳上攻め。甥×叔父
    攻め…不憫/わんこ/歳上 甥。二十歳。
    受け…男前/健気/歳下 叔父。18歳
    父が事故死し引き取られた親戚宅で歳下の叔父からペット宣言を受けてしまう攻めの話「え、甥がいる?」

    聞き返す俺に声もなく頷いた父の表情は疲労が滲み、目の下にくっきりと浮かんだ隈が一層老け込んだ印象を与えている。
    家出同然で家を飛び出していた兄の訃報は、平穏そのものだった我が家の空気を一変させた。
    不幸な事故だったと聞いている。見通しの悪い交差点で昼間から泥酔した歩行者が道路に飛び出し大型自動車に撥ねられて即死。誰にとっての不幸だったのか、口にするのは憚られた。遠い昔に家を出た彼がどんな暮らしぶりだったのか知らないが、兄はいわゆるヒモと呼ばれる生活を送っていたらしい。
    そんな人でも籍は抜いていないし、家族であることに変わりはない。だから通夜も葬儀も父が喪主となり執り行われた。子供の葬儀を行うなんていう憂き目に遭った両親と違い、俺は他人事と割り切っていいのか、何の思い出もない他人のような身内の死を悲しめばいいのか決められないまま、ただぼんやりと通夜が開かれ、葬儀が行われ、全てが終わるのを眺めるしかなかった。
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