その手をつかむその時に(仮)《冒頭》
小さなベットに自分より小さな体が入り込み、二人で横になりくっついて眠る。
サミーは毎晩ベットに潜り込んできては、くっついて眠るのだ。
ディーンもサミーの温かい体温で部屋の寒さを忘れ眠ることができた。
二人は何時も一緒だった。
二人がいた孤児院は教会の中にありシスター達が孤児達の世話をしてくれていた。
サミーはディーンの本当の兄弟ではない。
血は繋がらない赤の他人だ。それでも、ディーンにとってサミーは院の中で特別だった。
家族を知らない自分にとってサミーはそれを教えてくれる唯一であり、守りたいと思った存在だったからだ。
サミーもディーンの上着の裾を握りしめ離れようとはしなかった。
そんなある日、穏やかそうなった夫婦が院を訪れ、ディーンに話かけてきた。
ここで何回も色んな夫婦や裕福そうな人間が出入りし、孤児がその都度連れて行かれるのを見ていた。
この夫婦も孤児を引き取るために来たのだとディーンは悟る。
何人ものそう言う現場を見ていて、いい人間か悪い人間かの区別はなんとなく付くようになっていた。
この夫婦は前者だと核心がもてた。
だから、自分ではなくサミーを連れて行ってくれるよう、マザーにお願いをしたのだ。サミーは4つ自分より幼い、そしてディーンにとってサミーには必ずいい里親に貰われてほしかったのだ。自分はそこに付いて行ってやれない。だから幸せにしてくれると核心が持てる里親が現れたらサミーを手放すと決めていたのだ。
里親にサミーが貰われていく日。
サミーはディーンから最後無理やり離されるまで泣きじゃくりながら嫌だと駄々をこね離れなかった。
「ぼくはいかない!!ディーンと一緒にいるっ!ずっと一緒にいるっ」
「駄目だサミー」
「いやだぁぁ!!ずっと!ずっと!一緒にいてくれるっていったじゃないか!ディーンの嘘つき!!」
「泣くな、あの人たちは俺よりお前をちゃんと愛してくれる」
「じゃぁ!ディーンも一緒にいこう!?」
目を赤く張らせてそれでもその透き通る目から大粒の涙を流しながらディーンを見上げるサミーにディーンは拳を握り込み、そして緩めサミーの頭に手を置くと
「さよならだ、サミー。」
額に小さなキスを贈った。職員によって剥がされ車に乗せられるサミーをみながら、見えないところで拳を握りながら耐えた。夫婦はディーンの前にしゃがみ目線を合わせると、次はあなたを迎えにくるわと言ってくれた。
その言葉が嘘でもディーンにとって嬉しかったのを今でも思い出す。
サミーが居なくなり一年もたたない頃、ディーンも引き取られることになった。派手な柄のスーツに見を包み赤々とテラめく唇が恐怖さえある女だった。これは"悪い人間"と言う奴だ。
マザーは暗い顔をしていた。
知ってるんだ、この院は教会で集められた支援金だけでは回らなくなってるという事を、このマダムは大金を教会に"寄付"したのだ。
マザーはディーンのわがままを聞きここでディーンをみてくれた。
院を出る日、マザーはサミーがや他の子が出ていくときにさえ見せながった涙を流しながらディーンを抱きしめ
「貴方に幸福が訪れますよう」
とロザリオを首にかけてくれ、サミーが忘れていった何時も腕に着けていた小さなワッペンを握らせてくれた。
院を離れ数日で嫌な予感は的中する。
表向き孤児を引き取り成人とともに社会に出れるよう支援をする団体だと言っていたが、中は未成年を扱った買春組織だった。
もともと見た目がいいのはディーン人身もわかっていた、里親希望としてきた幾人かはディーンにそういう性的な目を向けて来ていたからだ。自分がそういうものの目に止まりやすいことはどこかでわかっていたのだ。
《中略》
ディーンの情報を得てこの街に来てからこの数年が嘘の様に情報が入った。そしてディーンはあの暗い世界から抜け出していて、普通の人の様に暮らせているということだった。
探し続ける数十年、彼の置かれている状態だけが気がかりだった。
引き取られた身ではあれど養父母は全身で愛してくれていたし、サム自身も彼らを愛している。
だが、あのディーンはその愛さえも遠のいた世界で未だ屈辱的に扱われているのではと思うといたたまれたなかった。
でも、今彼は普通に日常を送っている。サムの目的は彼を救うことだった。けれど必要ないのだと気がつくと彼を近くで見たくなった。
最初は、こう言う結果であればこれ以上のことはしないと、近づかず彼の人生に関わらいと決めていたのだ。ディーンにとって、サムの存在そこ忘れさりたいものに違いないのだから。
でも、心は彼を求めディーンにつながる接点を探していた。
その時たまたまボビーからの情報と患者として来ていたチャックの話す内容が一致し、チャックの会社がディーンの務めるところなのだということがわかった。
診察当初からチャックはサムを気に入ってくれていたし、たまたまを装えばディーンのいる席に潜り込めるのではないかと。
その作戦はいま成功しサムはダイナーの扉をくぐり店の中を見渡した。
チャックが顔を向ける方を見つめると、数人の男たちが騒いでいる。
「おいおい、ボス置いて出来上がってるのかよ!」っとチャックは足を進め彼らに近づく。
「ハハッ遅いぜ!ボス!ただ酒に遠慮なんてあるかよ!もう3人潰れてるぜ!」
呆れた顔のチャックがテーブルの上にうっ潰している男三人を見て顔に手を当てる。
その時サムの目が一点で止まる。
うっ潰した男たちの合間でケラケラと笑う男がいた。
彫刻のような美しい顔に瞳は知ったあのヘイゼルグリーン。
昔の幼い彼しか知らないサムであっても間違えようがない。
ディーンだ。
テーブルを挟んで向かいの男たちとの会話に夢中なのかこっちには気づかない。でも、時々大きく開かれる瞳とか話す時の大げさな手振り、
サムはどんなに変わり果ててもディーンを見分けられる自身があった。理由があるわけではないが、でも相手がディーンならわかると思っていた。
チャックに促されながらディーン達がいるテーブルへ座る。
あまり見ていると怪しまれると思いつつも、どうしても目線は彼へいってしまう。
歳を経て彼は三十路を過ぎた頃なはずだ。それでも彼の美しさは中性的なものとは違うものへ変化し、やはり美しかった。
チャックの声に必然的に男達の目線がサムに集中した。
チャックとサムの関係についてサクッと話し終えると軽くサムからも挨拶をする。
男達はカハハッと笑いながらサムを受け入れてくれ、斜め前に座る存在に目を向ければ、宜しくとグラスを傾けるディーンと初めて目があった。その瞬間あの小さい頃の彼と重なり目頭が熱くなったが、ごまかすように宜しくっ!とビール瓶を傾けたが力がこもっていたのか大きな音をさせびっくりしてしまい、ごめんっ!と謝るとその驚き方がツボに入ったのか笑いながら
おいおい、その図体でビビリなのか?と冗談を言うと小さく瓶の音がなり上目遣いで微笑まれ、やっぱりこの人は"きれいだ"と思う。
あれだけどんちゃん騒ぎをしていた男達がぐでんぐでんになる頃、チャックのひと声でお開きになった。
サム自身はどんちゃん騒ぎに笑い、こっそり酒を美味しそうに味わっていたディーンを盗み見ていてあまり量を飲んでいなかった。
チャックに一緒に出るなら乗せてくと言われたが、もう少し飲んでいくと言うと軽く唇を吹かれた。
飲んでなかっただけだよ、と答え。
腕はもう少し安静にしてっと伝える。
チャックと連れだっていく中にディーンを探す。
サムは決めていた、今日だけ彼を感じる事のできる距離に近づく事を。だから最後にもう一度姿を見たかった。
「なんだ、先生は帰んねぇのか?」
不意に後ろから声がかかり振り向くとディーンが見上げてきた。
「あー…もう少し飲んでこうと思って…」
ディーンは少し驚いた顔をして、笑うと、俺も一緒だといい一緒にやるか?とカウンターを指した。
この流れに頭がついてこず、嫌だったらいいぞっと言われ「そんなわけないよ!」っと
思わず大きなお声で叫ぶと、ディーンは目から瞳が落ちそうなほど開いたかと思うと、ゲラゲラとわらいだし、
サムは恥ずかしくなって肩を縮めたが、それもツボに入ったのかカウンターに腰をつけ酒を頼むまで笑われた。
《中略》
その週末は何もかもやる気が起きず、ただぼーっと過ごした。
何かを考えようとするとディーンの事しか考えられなかったから、ただひたすら何も考えず過ごすようにした。
週が開け、もうお終いなのではと思っていたディーンとの週末が継続できる事が彼からの予定についてのメッセージでわかった。
あの夜、明らかにディーンはサムの態度を見ていたはずだ、だがそれはサムが過剰に不安になっていただけの話だったのか。
それでも、まだディーンとの関係が継続できるならと今まで通りを装い週末にディーンをいつものように招き入れた。
ディーンはやっぱり今までと変わらず彼で、やはり自分の気のせいだったのかと思うほどだった。
酒のつまみも減り酒も回り始め心地よくなるころ、ソファーに座り隣のディーンを見れば近くにあったクッションを背に置き楽な体制が眠気を誘ったのかそのまま寝てしまっていた。
サムはクローゼットからブランケットを取ってくると足元からそっとかけ、また隣に腰掛ける。
テレビの光に照らされ長いまつげが影を作る。やっぱりディーンはすべてが美しい。
目元から鼻筋、そして赤く形のいい唇。
あの女性はディーンの唇に触れてどう思ったのだろ?
それを知っている彼女に嫉妬が蘇ってくる。
こんなに近くに居るのになんで自分ではないのだろ。それは同性で彼よりもガタイもいい、ディーンが好きだと言っていた胸のでかいブロンドの女優には程遠い。
でも、誰よりもディーンを思っていると思えるのに。
彼女達が羨ましい。
これ以上近づいたら何もかも終わってしまうことがわかっているのに上がった熱が体を動かしていた。
間近で感じる呼吸にさらに引き寄せられる様に赤い唇にそっと自分の唇を重ねていた。
ディーンの唇は柔らかく温かく酒のかすかな匂いがした。
「さみー」
その声でサムは背筋に汗が出る感覚に襲われその声の方をみる。
そこには寝ていたはずのディーンが目を開けサムを見ていた。
自分がしていたことにやっと我に帰り、どう説明をすればいいのかもわからず彼を見ながらディーンっと小さくつぶやく。
この後どうなるのかももわからず動くことのできないサムの頬にディーンの手がかかる。
訳が分からずされるがままでいると、小さく"もっと"とと微かに聞こえた。何を言っているのか理解出来ずにいるとディーンから唇を合わせ、しばらくくっついていた唇が離れると、また"もっと、さみー"と繰り返された。
また熱が上がるのを感じる。
離れて距離を取れという自分の意思など"プリーズ"と言うディーンに勝てるわけがない。
目の前にはあの夜の色気漂うディーンがサムを求めている。
今度は齧り付くようにディーンの唇を奪うと、のしかかるように上から覆い被さり更に深くディーンをソファーに沈め舌をねじ込み口の中を好きなように動き回った。
熱くて柔くて酒の匂いが一層濃く頭がクラクラした。
ディーンもサムの舌を追いかけサムの髪の中に手を差し込みかき乱す。
その行動が更にサムの理性を飛ばしていく。
ようやっと唇を離すと自分たちの口の合間に糸が引いていた。
息の上がった蒸気したディーンを担ぎ上げると寝室に向かっていた。
その後は止めることなどできずディーンの体を求め動き回った。それに快楽を感じてくれているディーンが声を上げるたびにもっと感じさせて自分を刻み込みたくてディーンの至るところに後をつけた。
なぜ彼がこんなことを許してくれたのかそんな事さえも考える余裕がないほどサムはただディーンを貪ることしか頭に無かった。
夜が開ける頃ひたすら求めあって抱きしめ合うように眠りに落ちた。
翌朝、目覚めるとあったはずの腕の中の存在は消え、不安を覚えディーンの姿を探し回りリビングにたどり着く
テーブルの上に"俺を忘れろ"と1言書かれた紙が置いてあった。