踊らにゃ損損 番外暁人の踊りは、想像以上に素晴らしかった。
低い腰の位置、ブレない軸、それに対して柔らかい手の動き。
視線もちゃんと手の動きを綺麗に追っていて、顔はうっすらと微笑みを湛えていた。
唄の意味を理解し、情感たっぷりに身体全体で表現していた。
「なるほどなぁ。生来の巫女体質だった、ってわけか。まるっきりトランス状態じゃねぇか」
もともと身体能力が高いから、そこそこ踊れるだろうとは思っていたが。
ステージ上の暁人は、俺の予想を遥かに超えて、煌めくように美しかった。
意外にも、暁人のフラの先生は、初対面の時の話から受けた印象とは違って、フラやハワイの文化、言語に対する知識もかなりのものらしかった。
だからこそ、暁人も唄の内容を深く理解できたと話していた。
さらにはステージの日程が近づくと、ハワイから先生のそのまた師匠が来日して、希望者には特別レッスンも用意されていた。
師匠のレッスンはなかなかに厳しく、けれども却ってそれが暁人の闘争心に火をつけたようだった。
暁人も初めこそ気乗りのしない様子だったが、先生の気合いとハワイの師匠の熱意に絆されたのか、途中からはかなりの入れ込みようだった。
レッスンを重ねるごとに自分の成長が実感できるとも話していた。
「すごい成果だな」
ステージを見つめながら、思わず口からこぼれてしまった。それほどに暁人のフラは魅力的だった。
今夜は出演した仲間と打ち上げだと言っていたから、帰りは遅くなるのだろう。
俺からの祝いは明日の夜でいいか。これだけの出来栄えだったんだ、俺としてもちゃんと賛辞を送ってやりたい。美味いもん食わせて、旨い酒でも呑んで。
「よくやったな」と背中をバンバン叩いて、大いに労ってやろう。
確か先生の知り合いのカメラマンにビデオ撮影を頼んであるという話だったから、後日アジトで上映会をするのもいいかもしれない。暁人は嫌がるんだろうが。
だが、俺としてはあの素晴らしい踊りを仲間に見せびらかしてやりたい。
見せびらかしてやりたい?なんだかおかしな感情だ。
暁人は俺の息子でもないのにな。