美しいあなたへ「うぷっ」
恋人との待ち合わせ場所に辿り着いた瞬間、バサっと差し出された何かに溺れる。
突如として顔を覆ったそれを掻き分け、にへらと笑う恋人へ視線を投げた。
やたら嬉しそうな様子でいるものだから、抗議の言葉一つ出てこなくなる。
「プレゼント! お花すき?」
呆然としつつ頷く。
どうやら、こちらを溺れさせたのは花束であったらしい。
抱き締めなければ持ちきれないほどに大量の花を、一体どこから調達してきたのだろう。
そんな疑問が顔に出ていたのか、少女はその笑みを深くする。
「大きな花束くださいって言ったら作ってくれたの」
「そうでしたか……」
普通に花屋で調達したらしい。
可愛いけれど、一体なぜだろう。特に記念日でもないはずだ。
考え込んでいるうちに、彼女は「重いよ~」と情けない声を上げ始めた。
「あぁ、すみません……っと、ありがとうございます」
「ふぅ、どういたしまして!」
大きな花束を受け取れば、恋人は達成感に表情を輝かせた。
一体なぜ、急に花を贈ってくれたのかと問う。すると立香は頬をうっすらと赤く染めた。
「ケイローン、綺麗だから……似合うかなって、ふと思ったの」
「そう、ですか」
予期せぬ答えに戸惑い、つい花を落としかけた。
しかと抱きとめ、照れている少女と並んで歩き出す。
レンガの道を、花束を抱いて歩く。何かの作品のワンシーンのようだ。
「よっ、と」
大きなそれをどうにか片手で抱えて、左手で立香の手を握る。
彼女は今日会って以来、ずっと幸せそうな笑みを浮かべていた。
「貴女に似合う花を探しに行きましょうね」
「えっ、私に?」
この小さな手に余るほどの花で、彼女を埋め尽くしたい。
きょとんと丸くなった蜂蜜色に似合うのは、どんな花だろうか。
立香は戸惑いつつ、喜んで瞳を細めた。
数十分後。大きな花束を抱え、二人帰路に着く。
部屋の中が花屋と化したと、笑いながら全てのコップを花瓶にして回った。