Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    fgo_sawara

    @fgo_sawara
    小説あげるマン

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 98

    fgo_sawara

    ☆quiet follow

    モブ視点異ぐイチャイチャ健全

    #ケイぐだ♀

    盗み見た幸福「あ、あの、これ書類です……」
    「どうも、そこへ置いておきなさい」
    「は、はい!」
     こちらをチラリと見た萌葱色は、そのまま書類へと戻っていく。
     妙な緊張感に責められているような気がしてしまう。そそくさとデスクに戻り、ふぅ、と息を吐いた。
    「怖ぁ……」
    「そう? 寡黙なイケメン、眼福じゃない」
    「寡黙すぎますよ……にこりともしないじゃないですか」
     同僚は軽く言ってくれる。
     苦手な上司に聞こえないよう、小声でやり取りをしているが……聞こえているのではと不安になった。
    「でも、怒鳴ったりしないでしょ?」
    「それはそうですけど、あの冷ややかな目で見られると……心臓がギュッてなります」
     柔らかな緑色なのに、冷たい視線。
     何を話しても簡潔な返事で、私語はおろか、プライベートの話は一切しない。
     他人に興味がないのだろう。笑っている姿など、想像もつかない……。
    「あの人が笑ってるとこ、見たことあるのよね」
    「ええ⁉ 笑うことあるんですか、あの人」
    「ふふっ、見てみたい?」
     つい大きめの声を出してしまい、慌てて口元を押さえた。
     ちらりと伺うも、話題の当人は特に気にした様子はない。
     こちらに興味など微塵もないのだろう。
     ……見てみたい。そんな心情を察した彼女が、クスクスと笑った。
    「じゃあ業務終了後、あそこに行ってみなさい」
     細い指がトントンと窓ガラスを叩く。
     この下は、建物に併設された駐車場だったか。
     場所をきちんと記憶しつつ、感情を見透かされたことが恥ずかしくて、気が向いたらと返した。
     
     *******
     
     ついつい言われるがまま、駐車場の隅に来てしまった。
     そんな自分に少々呆れつつも、キョロキョロと辺りを見回している。
     帰宅時刻ゆえ、目当ての人はすぐに現れた。
    (もう、帰っちゃうけど……)
     スタスタと脇目も振らずに歩き、高そうな車へ近づいて行く。
     何かが起こる隙などない。やはり揶揄われただけか。
     そう思って踵を返しかけた、その時だった。
    「お疲れ様! ダーリンっ」
     呑気な声が静寂に割り込む。
     思わずその声の主を探して視線を泳がせた。
    (……えっ⁉︎)
     そして見つけた夕陽色の髪の少女は、今しがた車に乗り込もうとしていた男性の方へ歩いて行く。
     腹がぽこりと膨れていることから、妊娠しているのだとわかった。
    「はぁ……家で安静にしていろと、あれほど」
    「お散歩のついでだもん」
     ため息を吐きながらも、ケイローンはどこか嬉しそうだ。
     涼しげな花柄のワンピースを纏った少女を、愛おしげに見つめている。
    (ダーリン……⁉︎)
     衝撃のまま立ち尽くす。
     指輪をしていたから結婚しているのかとは思っていたが、想像とは……だいぶかけ離れた奥方だ。
    「車に撥ねられたらどうするのです? 私が守れないところで、危ない目に遭ったら……」
    「ふふ、ダーリンがこうやって、たくさん心配してくれるのが嬉しいの」
    「はぁ……」
     深いため息に、関係ないこちらが身を竦める。
     叱られるのではないか。ハラハラしながら事の顛末を見つめている。
     しかし想像したような展開は、一向に訪れない。
    「仕方のない子ですね」
     フッと緩んだ、見た事のない上司の表情に息を飲んだ。
     えへへと笑った蜂蜜色の瞳の子が、甘えるように彼に擦り寄った。
     嫌がる素振りもなく、助手席のドアを開けて彼女を座らせる。
    「ねぇねぇ、ハニーって呼んでみて?」
    「……それ、どこで覚えたのです?」
    「映画で見たの! 素敵でしょ?」
     映画のワンシーンにいるような少女が、そう言って片目を閉じる。
     ケイローンは扉を閉めて帰りたそうにしているけれど、彼女が足をブラブラさせているからできないのだろう。
    「ね、呼んでみて?」
    「気が向くことを祈っていてください」
    「もー!」
     じゃれあいつつ、彼はそっと妻の細い足を車内に押し込む。
     繰り広げられる二人だけの世界に、私の頭は働くことをやめていた。
     言って言ってと駄々を捏ね続ける少女を宥めた上司は、扉を閉める直前、優しく微笑んだ。
    「ほら、おとなしくしなさい。買い物をしてから帰るでしょう? ハニー」
    「うん……ん?」
     微かな違和感を彼女が感じとる。
     それと同時に、我知らずあんぐりと口を開けていた。
     あれが自分の知る上司なのか、それとも途中で別人にすり替わったのか……だなんて、真剣に考えている。
    「えへへっ、ダーリンっ」
    「二度はありません。期待しても無駄ですよ」
    「一度でもいーの!」
     呆然とするこちらをよそに、二人はいちゃつき続けた。
     やがて運転席に彼が乗り込めば、会話は聞き取れなくなる。
     しかし楽しげな彼らの表情から、和やかなやり取りが続いているのだという事がわかった。
     そしてそのまま、シルバーの車が走り去る。
     放心したままその場に立ち尽くす私を、三階の窓から顔を出した同僚が笑っていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👍👍👍👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works