スーパーフェロモン あらすじ。
補習中の調薬事故により学園の紅一点ユウちゃんにスーパーフェロモン撒き散らし力が備わってしまった。ちなみにユウちゃんのおっぱいは大きい。
以上。
一部始終を目撃したクルーウェルは顔を真っ青にし、スーパーフェロモンの製造どころとなったユウは謎の体の火照りに首を傾げ、同じ教室に居合わせた数名の男子生徒たちは前屈みになった。
「何やら猛烈に嫌な予感がしたので来てみましたがやっぱり!なんですこの異様な光景!クルーウェル先生、一体何が!」
「学園長、農薬散布用のヘリの用意をお願いします」
「いつから魔法薬学はアグリカルチャー始めたんですかっ」
「ステイだバッドボーイ共!1歩でも動いてみろ、首を吊り上げて両足を括った紐をそれぞれ牛に引かせて絶叫を聞いてからこの鞭で貴様らのソレを切り落とすぞ!」
「さすがに過剰すぎる」
「それ切れる系の鞭なんだ」
という訳で、学園中にまさに大規模産業型農業のようにクルーウェル特製の対監督生フェロモン薬──性欲超減退薬が散布されたのであった。
そろって本気のドロケイ中だった1年生たちは空から降ってくる謎の薬を為す術もなくモロに浴び、同時刻、森の中に潜んでいたルーク、ルークに観察されていたたんぽぽ摘みのラギー、なんか綺麗な背景の前でヨガする動画を撮っていたヴィル、うさぎさんを枕にした眠れる森のイケメン、買い出しのウツボ1、山のウツボ2、太陽のもと宴開催中スカラビア、ガーゴイルウォッチングツノ太郎、は屋外にいたのですぐさま性欲を失った。植物園で昼寝をしていたレオナも天井のガラスをマシンガンで打ち壊してから散布された性欲超減退薬を吸い込んだし、寮で歯磨き中だったトレイは水道水に溶けた薬でうがいをして服薬(井戸に毒を入れるかのごとく、である)、今の流行りに乗り遅れるわけにいかないケイトも自ら外に飛び出して服薬、図書館にいたリドルはトレインに薬を染み込ませたハンカチで鼻と口を塞がれて性欲どころか意識も失い、モストロラウンジはクルーウェルの襲撃にあったためアズール含めスタッフも客もお陀仏……といった具合で、室内外問わず、学園中に念入りに性欲超減退薬がばら撒かれたのであった……。
「フヒッ……このイベントまじで最高では?類を見ないほどドロップ素材が美味すぎる!周年イベにしっかりユーザーのモチベ向上を考えられる神運営!一生ついていきマス!」
外界を嫌いすぎて塵のひとつも通さない鉄壁の要塞を寮内に築き上げてしまっていたイデア・シュラウドを除いて。
***
「僕が何をしたって言うんだよォ!!!」
「先輩……♡」
「うああああ!痛い!どこがとは言えないがもうギンギンすぎて痛いくらいだよ!なんで!?拙者の意識にめちゃくちゃ反している!ヒィィィイこっち来ないでくだされ!きみそんな状態でどうやってココまで来たわけ!?襲われてるだろ普通!!!」
「みんな……ゲロ吐いてた……♡」
「はあ!?」
「激エロ女を前にしてふにゃふにゃなんて死ぬほど不甲斐ないって……♡」
「一体どうなってるんだ……!?学内の監視カメラ覗いてみるしか……!」
そしてイデアは知る。完璧で究極の引きこもりだけがこの学園で唯一性欲が残された男になってしまったということを。
「拙者だけ置いていくな!!!そんな念入りにやるならちゃんとこの部屋までやってくれ!!!こんなんじゃTウイルスばら撒かれたときも拙者正気で生き残っちゃうよ!!!」
「うん……先輩だけ正気の男の香りがする……♡うれしい……食べちゃお……♡」
「このゾンビえろ過ぎる!!!どうして!!!拙者が天才なばかりに……!?!?」
「お手を拝借……♡」
「キャーーーーーッ(高い声)おおおおおおっおっ……♡ワッやわらかッッッ♡♡アッアッ♡♡♡セクハラですすすすすす!!!!!(号泣)助けてくださいッッッ!!!僕は無実!!!やってません!!!あばばばばばば(大号泣)」
イデアはものすごい情緒不安定になりながら魅惑のおっぱいから両手をばっと離し、人生で初めて、自分の部屋から出ることに全力を尽くした。腰にまとわりつくもちふわの女体を意識しないよう、とにかく外を目指した。この部屋のドアさえ開けられれば、イデアも性欲超減退薬とやらを服薬できるに違いない。
「オルトォーッッッ!どこにいるのオルトォ!!!」
『兄さん!』
「あっ!オルトっ!たすけて!ってあれ、なんで通信?」
『ボク、薬が効かないでしょ?ボディがあったら監督生さんをメチャクチャにしちゃうと思って自主的にボディと意識のリンクをカットしたんだ。アンドロイド流パイプカット!ナンチャッテ!(笑)』
「いちばんヤバいの僕の弟だったんだけど!!!」
『嗅覚の受容体パーツで監督生さんのフェロモンをしっかり受容できたんだ、やっぱり兄さんの作ったボディはすごいや!』
「この世に救いはないのか……?」
「せーんぱい♡ガマンしなくっていいんですよ……?♡」
「どこにもない……!!!」
イデアは大変に優しい男であった。どんな間違いがあったとしても、どんな誘惑があったとしても、恋人でもない乙女に無体を働くわけにはいかないと鋼鉄の理性があった。
まるで外界を不潔と思っているかのように陽圧処理された部屋のドアロックをむりやり開こうとする。が、引きこもりの貧弱な体では到底無理だったので大人しくドアのすぐそばにあるドアロック解除ボタンに指先を必死で伸ばす。
しかし、貧弱なイデアと違って日々1年生の間で流行っているドロケイで鍛えている乙女はイデアを決して離さなかった。
「ねえどうしてそんなに嫌なの……?先輩、わたしのこと嫌いですか……?」
「嫌いじゃないです!」
「おっぱい大きいほうですよ?」
「ありがとうございます!」
「わたしとイチャイチャして!」
「ンアーッ後悔するって絶対!やめときなよ!!!それに、正気に戻った君に後悔されたら拙者あまりのしんどさに自殺するしかなくなるんだってぇ!!!」
「後悔しない!」
「する!バカ!すんだよ!!!」
「しないもん〜!先輩となら後悔しないもん〜!」
「拙者なんてね!学園でいちばん後悔する相手といっても過言ではないんだよ!こんな陰キャに処女捧げたなんて君のキラキラ人生にあってはならないことなの!!!運命の女神に見放されすぎィ!!!」
「処女……?そこまでしてなんて言ってない……」
「ヒゥワッ(吸)死にます」
「なんだかとっても寂しくて……みんなわたしを避けるし、寂しくって寂しくって……だからイチャイチャしてほしいだけなんです……」
「ハ?それどんな罰ゲーム?拙者そんな惨い目に遭わなきゃいけないほどの大罪を犯してた?」
「ギュ、としてください……それだけでいいんです……」
「無理ィ〜〜〜逆に無理ィ〜〜〜!!!エッ迫られてるうちは断固拒否できたのに、エロいことできないって言われた途端に絶対にエロいことしたくなってくるの何なん一体どういうバグ〜〜〜!?!?!?」
「ウ・ソ♡♡♡」
「アッ無理、こ、これで拙者を殴り殺してこの部屋から逃げてくだされ……!!!」
「これは……バールのようなもの!」
「あ、拙者ちょっと特許とか持ちまくってて突然死ぬと世界全体が困ること色々あるから遺書だけ書かせてすぐ済むから……『エロすぎる後輩女子に迫られて童貞捨てたい人生でした(五七五七七)』アッ最悪の辞世の句詠んじゃったこんなの後世に遺すなバカ!!!」
イデアは頭を抱える。こんな様子だが実のところ、魅惑のユウちゃんのスーパーフェロモンを吸いすぎて、脳みそはもう既に半熟くらいには茹だっているし、ジャージの股座はなんだか濡れていた。
「わ、分かった!じゃあアレだ、あの、えっとその、!」
「ごまかそうとして!観念しなさい!♡太ももはどうだ!」
「も、もうホントに勘弁してぇ……!」
「んも〜先輩ったら天才のくせに鈍感系主人公だからヒントあげますね♡わたしがどうして先輩のお部屋にいるのか考えてみて……?♡」
「え?」
イデアの腰に抱きついたユウちゃんは、彼の茹だった顔を覗き込んでにこにこ笑った。大きなお目目がハートになっている。同じくハートのお目目をしたイデアは喉を鳴らした。
「こんなことになっちゃったのはびっくりだし、グロッキーなみんなに避けられて寂しいのもほんとう。でもわたしね、自分がどうなっちゃったのかちゃんと教えてもらってからワンチャン狙ってここに来ました……♡予想通りです♡先輩がお外大嫌いで良かった♡」
「え、ァ……あ?」
「ねえ先輩、逃げられないね……♡」
「ヒュ」
「わたしのこと嫌いじゃないんでしょう?イチャイチャ……シたくないですか?♡」
ユウちゃんはたしかに異世界から来た魔法も使えないひ弱な女の子。しかし、れっきとした、NRCの馬車の迎えがあった人間なのであった。
イデアは濡れた股座をそおっと撫でてきた白魚の手に大きな体をビクッと震わせて、観念したように、眉根を寄せて答えた。
「けっ、けけ結婚前提になるけどいい……ッ!?」
ユウちゃんはそのちょっとズレた答えにぱあっと顔を明るくして、それを見たイデアがキュン!とする。もしかして、本当に!?彼女はまるで恋する乙女の表情で言うのだった。
「責任とります!♡」