恋はメレンゲ 本日の冒険者殿は、冒険を一時お休みして、クラフターのお仕事に精を出すことにしたらしい。
アパルトメントのベッドの上で、サンクレッドは目を覚ました。自室ではない。恋人である、冒険者の部屋の中だ。まだ眠っていた自分のためにカーテンを開けなかったのだろう、未だ薄暗い部屋の奥、ベッドの対極に近いところで、冒険者は小さな灯りを頼りに、何かの作業をしていた。
しばたたくたび、心地好い靄が、惜しいながらも晴れていく。男の手にある器具はどうやら、刺繍枠と針のようだ。ちらちらと揺れる灯りだけでは、作業も心許ないだろうに、それでも出来を落とさない自信が、確かにあるのだろう。一心不乱に針を動かす様子は、たいそう目を引いた。
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