涙風真玲太は泣かない人かと問われれば、そうではないと七ツ森は即答するだろう。風真の泣き顔はとても綺麗だけれど、とても切ない。それを知っている位には何度も見た。
今日も風真は涙を流していた。
大学からそのまま七ツ森の部屋に来た風真は、チャイムを鳴らした後、合鍵で鍵を開けて入って来た。チャイムが鳴ったと同時にガキを開ける音がしたので、七ツ森はそれが風真だと気付き、玄関に迎えに行こうかと腰をあげたが直ぐに元の場所に押し戻された。何故なら、部屋に入った風真が七ツ森にダイブするかのように抱き着いて来たから。
元々七ツ森はベットの上で壁を背凭れにしながらスマホを見ていたので、結果的にはベットの上に七ツ森が腰かけて風真が乗り上げて抱き着かれている状態。風真はそのまま、顔も上げずにしがみ付いたまま、時間が経過している最中。
風真がこうなるのは、泣いている時だ。
ふぅと小さく息を吐き、抱きやすい体勢に少しだけ動かす。
風真は何も言わない。嗚咽も聞こえない。たまにスンと鼻をすする音が聞こえる。今日は厚手の服を着ているのでわからないけど、多分七ツ森の服は少し濡れているのだろう。
風真の髪を梳きながら、七ツ森はスマホを見るのを再開した。初めて風真がこうなった時は驚いたし慰めの言葉も羅列したけれども、風真がそれを必要としていないことは直ぐに理解できた。だから風真が泣く時は何も言わずに彼を撫でる。
風真が求めているのは慰めの言葉では無く、ただ泣きたい場なのだ。
部屋の中は静かだ。今日は音楽を聴いていなかったから、音を鳴らすものが何も無い。窓も開いていないので外からの音も微量。そんな静かな中でも風真の泣き声は聞こえない。だけど、七ツ森にしがみ付きながら風真は泣き続けているのが事実。だから、ここにいるよという想いを込めて風真の頭を撫で続ける。
風真は声を上げて泣く事は殆ど無い。今日のように抱き着いて泣く事もあれば、泣いている自覚が無いかのようにまっすぐ前を見てハラハラと涙をこぼす事もある。どちらだとしても、風真が声を出さずに静かに泣く。だから七ツ森も無言のまま彼の頭を撫で背中を撫でながら、傍に居る。
高校の頃の彼なら、泣く時は一人の部屋を選んだだろう。それがこうして七ツ森の部屋に来ることが、無意識に頼られているようで、風真の秘密を共有できているかのようで、単純に嬉しかった。
一人で泣かせたくない。泣き終わった後まで一人ぼっちで悲しい思いをしてほしくない。だから七ツ森はいつも何も言わずに、自分の存在が傍にある事だけを伝え続ける。
「ここにいるから」
小さく声を掛けたら、風真の頭がピクリと揺れた。どうやら落ち着いてきたらしい。そんな頃合いだろうと思って声を掛けたのだが正解だったようだ。風真はもぞもぞと動きながらも顔をあげない。泣いた後の彼は恥ずかしがってすぐに顔を見せてくれないのだ。
スマホをベット脇に置き、両手で風真を抱きしめる。髪にキスをすれば風真はピクリと反応する。
「泣くのは俺の腕の中だけで…って言ったら良いのかな」
「…気障な台詞…ってやつか?」
「かもね。でも本音だよ」
少し鼻声な風真とポツポツと会話を始める。暫くして風真は「ありがとう」と言いながら離れようとしたけれども、七ツ森は抱きしめる力は緩めなかった。そうすれば風真はまた凭れ掛かってくる。泣いた後に甘えたくなるのは人としてよくある事だろう。風真も例に漏れず、というのも知っているから。だからまだ、甘やかしの時間。
「…七ツ森は優しすぎる」
「そっかな」
「俺を甘やかしすぎる」
「甘やかすのダイスキ」
「俺がダメになる」
「ダメにならないよカザマは」
風真には優しくしたいし甘やかすのも好き。だけど、だからといって風真がダメになることなんてあり得なそう。もし何かが原因で風真が自暴自棄になったとしても、七ツ森は助けに行きたいし何があっても傍に居たい。それをそのまま伝えると、風真はクスっと笑って身体を離した。目元には泣いた名残がしっかり残っている。それでも今の表情は悲しくなさそうでホッとする。
風真は七ツ森の頬に手で触れ、優しく撫で始めた。嬉しいのとくすぐったいのとで目を細めたら、また風真が笑った。
「俺がまともでいれるのは、七ツ森のおかげだよ」
そう言いながら風真は頬から手を離し七ツ森の胸を伝ってシャツの裾へ。そこから手を中に入れてゆっくりと服をたくし上げた。クスクス笑いながらされるがままに。
肌に触れていた手が押すように力を込めたので、お望みのままにとベットに押し倒される。風真が上に乗ってキスをくれる。後頭部に手を回してキスを受け入れながら、七ツ森も風真の服の中に手を入れる。お互いに弄りながら熱を高めていく。
風真が泣いた後はいつもこう。
泣き疲れた身体を、熱で癒す。