「…寒い」
「マジでソレな」
早朝、二人はげんなりとした様子で歩く。七ツ森の家から駅までの道は、大した距離はないが日陰になっている場所が多く、殊更にそう感じる。歩くたびに霜柱がざくざくと砕かれる音は心地よく嫌いではないが、寒さを助長させる要因には違いない。
「はぁ…」
風真が手を擦り合わせて、そこに自身の息を吹きかける。指先がほんのりと赤く染まっていた。
「あれ?珍しい手袋してないんだ」
「…昨日はそんなに寒くなかったから」
「あー…、ゴメンね。急に泊まらせちゃって」
「いや、俺も、」
「うん…」
それきり二人は黙り込んでしまう。
昨晩、さよならをするのが何だか嫌で、夕飯を一緒に、もう少しだけ話を、ほんのちょっとだけ触れ合いたい、そんな可愛らしい欲を互いに受け入れた。七ツ森の部屋で唇を重ねたその瞬間、たが外れたように求め合い、終電を逃して外堀を埋められてからようやく『もう帰れないな』と笑ったのはどっちだったか。
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