たくさんのおめでとうをキミにおかしいな、とは思った。
6月10日の朝、寮の食堂でおばちゃんに、次いで同級生や先輩からも、何なら研究室の助教にまで
「誕生日おめでとう、岩泉」
と口々に祝われた。
「岩泉君これおまけの揚げ出し豆腐」
「めちゃくちゃ嬉しいッス」
「今度メシ行こうぜ1杯目奢っちゃる」
「マジかよ忘れんなよ」
「これイチオシのプロテインバー良かったらもらって」
「ありがとうございます!」
「誰かアイス買い行け〜全員ダッツでいいぞ」
「あざーっす! けど俺今日はスイカバーの気分なんで」
岩泉そういうとこ…!と研究室総員膝から崩れ落ちた段階でようやく疑問を口にした。
「て言うか、なんで俺の誕生日知ってるんスか」
俺にしてみれば至極当然の疑問だったんだが総員首を傾げる。おお、息合ってんな。
「は? それはお前」
「もしかして岩泉君ってインスタやってない?」
「? ッス」
それだ!と顔を見合わせた同期と先輩。助教がポケットからスマホを取り出してスイスイと画面を開き俺に見せてくれたそこには…
「は?」
牛島若利
『岩泉、誕生日おめでとう』
小さなケーキに蝋燭が1本。それを見つめる牛島の写真と共にそんなコメントが添えられていた。
ご丁寧に0時ちょうどに上がったらしいそれには見知った名前のコメントが続く。
Oikawa
『ちょっと! なんでウシワカが岩ちゃんの誕生日知ってんのさ!』
影山飛雄
『俺も牛島さんに聞いて初めて知りました。岩泉さんおめでとうございます』
Oikawa
『飛雄ちゃんには聞いてないし! そもそもこんな時間にケーキとか食事管理どうなってんの』
牛島若利
『大切な人の誕生日だと告げたら許可がおりた』
影山飛雄
『牛島さんのおかげで今日の寮の夕食には全員ケーキがついてました! 俺は温玉のほうが良かったです』
牛島若利
『それはすまない』
Oikawa
『そうじゃないだろ! まさかこの写真上げる許可もおりたの? ADどうなってんの』
牛島若利
『? 何か問題があるのか?』
Oikawa
『大有りだろ!!』
影山飛雄
『あ、さっき広報の人がほどほどにな、って。ほどほどって何スか』
Oikawa
『広報さんこんな時期に仕事させてんな!! あと飛雄は日本語勉強しろ!!』
花
『あー、岩泉インスタやってないだろ意味なくね?』
牛島若利
『そうなのか』
松
『まぁ周りのヤツが気付いて伝えるかもよ』
Oikawa
『マッキー! まっつん! 俺のインスタにはコメントくれないのに』
牛島若利
『ならばこの投稿を見た岩泉を知る者に頼みたい。岩泉に誕生日おめでとうと伝えてくれ。お前に出会えて俺はより一層強くなる道を選んだ。感謝している』
思わず口元を手で覆った。なんだこれ、なんだコイツ、昨夜は電話の1本も寄越さないから俺はてっきり忘れてるんだとばかり
「そんなわけでこれを見て、ってだけじゃないけど」
「ていうか日本の大砲候補とどういう繋がり?」
「岩泉もインスタやって、SNSの使い方ちゃんと学んだほうがいいかもね」
「ッス」
「とりあえず、アイス買ってきてやってー」
ニヤニヤする助教の言葉に弾かれるように誰かが出て行く。自覚できるほど赤くなった顔はアイスでも冷めないだろう。帰ったらすぐに連絡しようと決めた。