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    sleepwell12h

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    🤟にパンケーキをご馳走する🛸

    #Renkyotto
    Renkyotto<3

    「美味しい?」
     耳元へまとわりつくような甘ったるい声の問いかけに、キョウはせっせと手を動かしながら首を横に振る。行儀の悪さを自覚しながらも、手当たり次第に糖蜜やチョコレートソースを皿の上へぶちまけた。
     母星が違えば味覚も異なるのだろうか。供されたパンケーキはやけに味気ない。苦心しながら咀嚼するキョウに、レンは凝っと喰い入るような視線を注いでいた。居心地が悪いからやめてほしいとキョウが訴えても、レンは上機嫌に微笑むばかりで意に介さない。そのうえ食事を中断させてまで、逐一感想を求めてくる。何しろ相手は気心の知れた間柄だ。見えすいた追従を連ねる理由もない。不味い、舌触りが悪いと文句を言いながらも完食したのは、ようやく得た友を失いたくない思いが勝ったためか。たとえ相手が人並みならざる存在だとしても。
     腹がくちくなると、思い出したように眠気を覚える。せわしなく目を瞬かせながら端末を操作するキョウに、レンはいっそう笑みを深めた。
    「眠ければここで寝ても構わないよ。朝になったら部屋に帰ればいい」
     キョウは頑なにかぶりを振るも、瞼は今にも閉じてしまいそうに重たげだ。見かねたレンが自分のベッドへ運び込む頃には、もはや噛みつく気力さえ残ってはいなかった。
    「おやすみ、キョウ。また明日」
     筋張った長い指がコンフォータを肩まで引き上げ、髪を撫でつける。俺は赤ん坊じゃない、と抗議する声は、間もなく安らかな寝息に取ってかわった。キョウの意識がはっきりとしている間は、レンも強いて物理的な接触をはかろうとはしない。そのかわり、友好的に自由を奪ったうえで手を触れる一連の立ち回りは、いかにも侵略者らしい周到さに思われた。 
     友人として信頼は寄せている。そうでなければ、わざわざ他人の部屋にまで足を運んだりしない。ましてや人前で食事をとったり転寝をしたりする日が来るなど、以前のキョウであれば想像も及ばなかった。それほどまでに気を許した相手であろうと、キョウの骨身に染みついたある種の諦念のようなものを払拭するには至らない。どれだけ真摯な想いも、祈りも、ある日突然潰えてしまうことを、キョウは経験として知っていた。あたかも命そのものが斯くあるように。
     何より、相手の熱と輪郭を感じ取れば、翻って自身の躰を意識せざるを得なくなる。あるいは身体的な負い目を持たぬ者には理解しがたい感覚なのかもしれなかった。
    「またいつでも遊びにおいで。待ってるよ」
     朝になれば、レンは平生と変わらぬにこやかな顔でキョウを送り出す。部屋の主を差し置いてベッドを占領したキョウは、若干のばつの悪さを感じながらも頷いた。
     あれだけ淡泊に感じていた食事も、食べつけるうちに舌へ馴染んでしまったらしい。ついこの間まで当たり前のように口にしていたはずの食べものが、却ってくどく感じるくらいだ。学食のランチをはじめ、購買で売っているパンやスナック菓子の類も、ほとんど喉を通らなくなってしまう。とはいえ、食欲そのものが失せたわけではない。空腹のあまり授業にも身が入らない日が続いた。そんな折、キョウの鞄や制服のポケットの中に、クッキーやマドレーヌのような小振りの菓子がたびたび紛れ込むようになる。誰の仕業かはすぐにわかった。突き返そうとしたものの、いよいよ飢餓感が募り、一枚のクッキーを頬張る。たちまち空腹が紛れ、霞がかったように朦朧としていた意識もはっきりした。
     寮へ戻り、制服から部屋着のTシャツとハーフパンツに着替える。端末にはレンからのメッセージが届いていた。今夜も彼の部屋で落ち合う約束だ。部屋を出る前に、腹拵えをしようと思い立った。顔を合わせるたびに食事をたかるのでは流石に忍びない。買い置きのインスタントヌードルを引っ張り出し、電気ケトルのスイッチを入れた。祈るような気持ちでフォークを口へ運ぶ。食べものとは思えないひどい味に思わず吐き出してしまった。口の中に残る後味だけでも気分が悪くなる。みるみる膨れ上がる不快感を必死に堪えていると、見計らったかのようなタイミングでノックの音が響いた。
    「キョウ、入るよ」
     来るな、と声を上げる前にドアが開く。床に落ちた食べさしの皿と、青い顔で口元をおさえるキョウを見て、レンは血相を変えて部屋に飛び込んだ。
    「具合が悪いの? 保健室に行こうか」
     椅子の上でぐったりしたまま身動きのとれないキョウを抱き上げる。キョウは力なく首を横に振り、浅い呼吸に胸を喘がせながら口を開く。
    「……は……」
    「は?」
    「……腹減った」
     絞り出すような声を耳にするなり、レンは弾けるような笑い声を上げた。いかにも不服そうに眉根を寄せるキョウの体を、ゆっくりとベッドへ下ろす。
    「言ってくれれば用意したのに。何が食べたい?」
     レンはまだ制服に袖を通していた。校舎からキョウの部屋まで直接足を運んだのかもしれない。鞄から飲料水のボトルを取り出し、その場で封を切る。差し出されたそれを、キョウは受け取らずに突き返した。
    「惚けるなよ」
     戸惑いをあらわに首を傾げるレンを、キョウは仰臥したまま睨みあげる。
    「お前のせいなんだろ」
     吐き捨てるように告げた途端、レンの顔から芝居ががった表情が消え、得体の知れない薄笑いにすり替わった。身軽くベッドに乗り上げる。マットレスが沈み、キョウの体もわずかに波打った。
    「俺はキョウが好きなんだ。どこにも行かないで、ずっと一緒にいてほしい」
     今更どこに行くっていうんだよ。喉まで出かかった言葉は、息が詰まるほどの力強い抱擁により遮られる。
    「キョウは友だちだから、俺の願いを叶えてくれるよね」
     耳打ちされた言葉に、キョウは否とも応とも答えられなかった。逡巡の後に、抱きしめ返そうと背中へ回しかけた腕を下ろしてしまう。病床で繰り返し読んだ絵本の内容が頭をよぎった。どうしてこんなに当たり前のことを忘れていたのだろう。
     おとぎ話の怪物は得てして好奇心が強いくせに臆病で、孤独な子どもを好んで拐かすものだ。
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