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    鈴(すず)

    @gkm_126

    字書きの途中経過など。
    書く⇒尾月。
    読む⇒興味が湧いたCPなら何でも。
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    鈴(すず)

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    ‪☆11/28更新

    2023/1/8 COMIC CITY 大阪、尾月プチオンリー《百夜の月影》に合わせて出す本のサンプルです。
    『救いの手を、君に』A5版、74ページ(予定)
    支部の再録+全年齢書き下ろし(約2万字)+R18書き下ろし(約8000字)。
    こちらは全年齢書き下ろしサンプル。
    以前より少し増やして掲載しています。
    尾月の出会い編です。

    はじまり、この先 尾形との出会いは職場だった。
     当時、主任になったばかりの月島の部署に新入社員として配属されてきたのが尾形だ。
    「尾形百之助です」
     と低い声で自己紹介した彼の初対面の印象は、“目が笑ってない”だった。黒くて大きな印象深い目なのに、そこに光は無く、周囲の景色も人も、何も映していないように見えた。
     それは仕事に対しても同じで、物覚えは良いし何事もソツなくこなす。なのに、誰に対してもキッパリとした一線を引いていて、ここから先には誰も入るなと無言で主張していた。たまに空気が読めずに踏み込もうとした人間には、影に日向に皮肉と嫌味。しかもそれが巧みに相手を打ち負かす正論なのだから、言われた方はひとたまりもない。入社して数ヶ月経つ頃には、尾形は若手の同僚たちから遠巻きにされるようになっていた。要するに、月島のような上職から見たら、仕事“だけ”出来る問題児以外の何者でもない。
    「月島主任、何とかしてくださいよ」
     尾形のOJTを担当していた部下から、相談があると泣きつかれた。
    「仕事は良いんです、仕事は。営業先じゃ別人みたいに振舞ってるし、一人で得意先を回ることも、ノーアポでの訪問も、契約をとってくることも出来ます。でも、問題はそれ以外です。協調性が壊滅的に無い。仕事が出来ることは大事です。でも会社に所属する人間である以上、周りとの円滑な関係の構築も大事なはずです。それが欠落している奴は、申し訳ありませんが僕の手には負えません」
     部下にそこまで言われると、月島が動かざるを得なかった。
    「今日から俺が一緒に回ることになったから」
     月島がそう言うと、尾形は一瞬目を見開いたあと、ニヤっと笑った。確か昔読んだ童話にこんな風に笑う猫が出てきたな、と月島はぼんやり考える。
    「へえ、そうなんですか。月島主任は営業成績もトップだったと聞いてますし、お手並み拝見させていただきます」
    「はいはい、それはどうも」
     皮肉めいた尾形の言葉を右から左へ受け流しながら、「面倒くさい……」と心の中で呟いた。
     
    「あれっ、月島さんじゃないですか‼︎」
     営業先の社員が月島の顔を見て嬉しそうに大声を出すと、他の社員までが次々に「え、月島さん?」「お久しぶりです」と顔を出し、挨拶をする。社員だけでなく、パートと思われる事務員や受付、掃除の人まで。営業先の会社では老若男女、職種を問わず皆が月島を知っていた。商談室で話をしている間でも、お茶を出しに来た人まで交えて雑談に花が咲く。ある種異様な雰囲気に、隣に座っている尾形は目を白黒させているしか出来なかった。
    「一体、何なんですか、あんた」
     三件の営業先をまわり終えて社用車に戻った時、尾形が口を開いた。
    「何とは?」
    「どこの営業先もこぞって月島さん月島さんって。何か変わった営業方法でもしてたんですか?」
    「いや、至って普通だと思うがなあ」
    「普通にやってて、あんなに有名になります?掃除のおばちゃんまであんたのこと知ってたんだぞ」
    「ああー、岩崎さん。一人でたくさんのゴミ袋を運んでたから持ってあげたことがあるな」
    「……事務の人は?」
    「松井さんか。お茶を運んできた時に盛大に零して恐縮してたから、一緒に床掃除した」
    「それ、営業の仕事じゃないですよね」
    「まあそうだけど。でも、ほっとけないだろ?」
     あっけらかんと言い放つ月島を、尾形は怪訝な顔をして見遣る。
    「尾形はさっき、変わった営業方法でもやってたかって聞いたけど、俺にとってはこれが普通。仕事は関係なく、普通だと思ってやっただけ。お前にとっては変わってるだろうけどな。でも有難いことに、俺の普通が営業成績に繋がってくれたのも事実」
    「だから俺を見習えって? そういうことですか?」
     尾形の声が刺々しくなる。
    「そうじゃない。尾形は尾形なりの方法を見つけたら良い。ただ、その方法は一人で居るより、他人と関わった方が見つけやすいぞ」
    「……」
    「まあ、ゆっくりやっていったら良いさ。時間はたっぷりある」
     綺麗にオールバックにセットしてある尾形の頭をぽむぽむと撫でる。しまった、嫌がられるか……?と咄嗟に思ったが、撫でてしまった事実は取り消せない。だが、意外にも尾形は何も言わなかった。
    「さあ、昼も過ぎたし、飯食いに行くか。美味い定食屋があるんだ」
     
     次の日も、その次の日も月島と尾形は共に外回りをした。尾形は初日のように突っかかってくることはなかった。黙って月島の後について営業先を回り、じっと月島のやり方を凝視している。朝に出発してから夕方に帰社するまで穴が開くほど観察されるため、大層やりにくい部分はあったが、尾形が何か考えているようだったので月島は何も口出しはしないよう気を付けた。
    「何だか黒猫に見張られてる気分だな……」
     いつも暗めの色のスーツな上、黒髪と大きな漆黒の瞳が黒猫のイメージと重なった。猫を飼ったことはないけれど。
     月島と営業先を回るようになって一ヶ月が経った。その日は内勤日で、班内のメンバーは各々資料作りや溜まったメールの返信に勤しんでいる。
    「あの、プレゼン資料の確認をして欲しいんですが」
     尾形が声を掛けたのは、OJTをしていた先輩社員だった。
    「え?お、俺?」
    「はい。お願いします」
     声を掛けられた先輩社員も、周囲の席の者も、信じられないものを見る目で尾形を見つめている。先輩社員が戸惑い、助けを求めるように月島の方を見たので、「確認してやれ」と目で合図した。
     後から聞いたところによると、尾形は修正箇所を指示されても「分かりました。ありがとうございます」と素直に応じたらしい。「主任、一体どうやって尾形を変えたんですか⁉︎」と聞かれたが、具体的なことは何もしていないので「さあな」と言うしかなかった。
     
     休憩室に尾形が一人でいるのを発見して、月島はそっとドアを開けた。
    「お疲れ」
     自販機で買った缶コーヒーを尾形に渡し、自分も隣に座ってプルタップを開ける。
    「みんな驚いてたな。俺も驚いたけど。どんな心境の変化があったか聞いても良いか?」
    「……そんな語るようなものじゃないです。ただ、月島さんのやり方って言うか、他人に対する時のスタンスみたいな部分は少し見習おうかと思って」
     月島は心底驚いた。確かに一ヶ月ずっと観察はされていたが、本当に自分が見本にされるとは露ほども思っていなかったからだ。
    「自分の意見はさておいて相手の言うことをひとまず全部口を挟まずに聞くこととか、商談の相手だけじゃなくて周りのことにも常に目配りしておくだとか。俺はそういったところは考えもつかなかったし、逆にウザいとすら思ってましたけど、周りの反応を見たらその方が良いんだって分かりましたから」
    「お、俺、そんなことやってたか……?」
    「やってました。見てましたから」
     自分でも意識してなかった部分を面と向かって言葉にされ、尚且つそれを「見習う」と言われるのがこんなに恥ずかしいことだったとは……。
    「あー……分かった。ありがとう。でも尾形にだって良いところはあるんだから、それは無くすなよ?」
     少し照れながらしながらそう言うと、
    「良いところ?」
     と尾形が聞き返してきた。
    「俺の良いところって、どこです?」
     心底わからないといった感じで、月島のことをじっと見つめながら尾形が聞く。謙遜してる訳でもなく、本気で分かっていない顔だ。
    「そうだな、誰に対してもはっきりものが言えるところかな。物怖じしないし、言いにくいことも言える。それはある意味、長所だろ?」
     ふむ、と尾形は一瞬考える顔をした後、「月島さんが言うならそうなのかもしれません」と返した。
    「そうやって聞き入れられるところも長所だよ」
     案外、自分のことは分からんもんだな、と先程の自分自身にも言えることを口にした。
    「そろそろ会議が始まるから、先に行くな」
     立ち上がって空き缶をゴミ箱に入れた時、尾形が「月島さん」と呼びかけた。
    「この前の、頭ぽんぽんってやつ、もう一回やって貰えませんか」
     意外な申し出にぽかんとする。驚いて動けない月島に対し、「駄目ですかね?」と尾形は尚も聞いてくる。
    「いや……、良いけど」
     逆に良いのか? と聞きたくなる。何が嬉しくておっさん上司に頭撫でられたいんだ。「じゃあお願いします」なんて素直に頭を出されて戸惑った。逡巡しながらも尾形の黒髪の上に手を乗せ、よしよしと撫でてやる。細くしなやかで柔らかい髪の毛の触感が心地良かった。
    「こんな感じで良かったか?」
     気恥ずかしくなってきて、さっと手を引っ込めた。自分の顔が赤くなっているような気がして、尾形の顔を見られない。目線をそらせたまま「お前もそろそろ仕事戻れよ」とそそくさと休憩室を出て行こうとすると「月島さん」と呼び止められた。
    「ありがとうございました」
     振り向くと、尾形が笑っていた。いつもの人を食ったような笑い方でなく、柔らかく嬉しそうな。何も映していなかった瞳にいま映っているのは、紛れもない自分だ。
     心臓がドキリと大きな音を立てる。
     自分の反応の意味も分からず、「ああ」とも「おう」ともつかない曖昧な返事を残して月島はふらふらと会議室へと急いだ。
     
     会議が終わり、参加者たちがそれぞれの職場へと戻っていく中、月島は大きなため息をついていた。
     重要な資料をデスクに忘れ、発表時に椅子を蹴倒した上に全く違うスライドショーを映し、発言内容を噛みまくった。普段は誰もが知る仕事の鬼の意外な姿に、月島自身は元よりその場にいた誰もが混乱したらしく、上役から口々に「大丈夫か?具合が悪いんじゃないか?」と声を掛けられ、顔から火が出そうだった。
     動揺の原因が明らかなだけに、しかし動揺した理由は自分でも不明なことに、再度大きなため息が出た。
    「つ・き・し・ま」
    「うわぁっ‼︎……あ、鶴見部長」
     そうっと月島の後ろに近付き、声を掛けてきたのは営業部長の鶴見篤四郎だった。
    「心臓に悪いんで至近距離で名前を呼ぶのやめてもらえませんか」
    「いやあ、月島が全然気付かないから、つい」
     ダンディな口髭を蓄えた美貌でにっこり笑われると、何も言えなくなる。
    「聞いたぞ、聞かん気の強かった野良猫を手懐けたんだってな」
    「野良……? ああ、尾形ですか」
     名前を口に出してまたドキッとした。何か気取られなかったかと心配になったが、特に鶴見は気にしていないようだった。
    「部下のことを動物に例えるなんて、パワハラで訴えられますよ」
    「そうだな、悪かった悪かった。さすが月島だと褒めたかっただけだ」
    「はあ、そうですか」
    「昔の自分を思い出したんじゃないのか」
    「うっ……」
    「お前も新入社員の頃は跳ねっ返りだったものなあ。今のお前は私の教育の賜物だな。いやあ、嬉しい」
     尾形ほどではなかったものの、入社時には今と正反対に反抗的で周囲に馴染めなかった月島を文字通り教育してくれたのは、当時係長職だった鶴見だった。
    「あの頃のことは思い出させないでくださいっ」
    「まあまあ。あれはあれで可愛かったぞぉ。私自身はあのままでも良いと思っていたんだがな」
     “可愛い”なんて表現は何の冗談かと月島は思った。しかも、まるで良い思い出のようににこにこ笑いながら言っているが、実際はかなりのスパルタ矯正だったのだ。それはまた別の話。
    「何にせよ、丸く収めたのはお手柄だ。何せ、尾形は花沢幸次郎議員の長男だからな」
    「……は⁉︎」
     前置きもなしに爆弾を落とされて驚愕する。花沢幸次郎議員は現在は官房長官、現職の総理大臣が退けば次期総理の座はほぼ確実と噂されている政界の中心人物だ。
    「議員の落とし胤として界隈では有名だそうだ。本人は政治家になる気はないと言っているようだがね」
    「社員のプライベート、しかもそんなスキャンダラスな内容をこんな場所でペラペラ喋って良いんですか」
    「ここには私と月島しかいないことは確認している。それに月島にとっては直接の部下だ。耳に入れておいた方が良いだろう?」
    「俺は……」
     確かに先輩で上職だが。
    「尾形に関することは尾形の口から聞きます! 失礼します!」
     足音荒く会議室を後にした。残された鶴見は「おーお、跳ねっ返りの再来だ」と少し嬉しそうに呟いた。
     
     廊下を歩きながら鶴見に聞いたことを反芻する。
     何の目的で月島へその内容を明かしたのかは計り知れないが、鶴見のことだから何か目的があってのことだろう。しかし内容が内容なので、月島の一存で胸にしまっておくことにした。“界隈”というからには、上役の人たちには周知の事実なのかもしれない。
     しかし、末端の自分達には関係ない。
     やっと上手く班が回るようになってきた時に、余計な波風は立てない方が良いに決まっている。
     
     そして凪いだままの期間が三年過ぎた。
     
     ◆

    「鯉登音之進です。よろしくお願いします‼︎」
     鶴見から「来月、キャリア候補の中途採用社員が来る。良かったな、人員が一人増えるぞ」とは聞いていた。留学帰りの秀才だから期待しておけと告げた鶴見の顔は、何かを企んでいるような含みがあったもののの、こちらから事情を聞けば「何だと思う?当ててみろ」となぞなぞ合戦のような面倒臭い事態になりかねない。この春、係長になった月島は「とりあえず人員が増えるのは単純にありがたい」と受け流すことにした。
     そして、中途採用者の初出勤日。現れた顔に驚愕した。相手は、月島を見てぱああっと顔を輝かせる。
    「月島ぁぁぁ!ワイと一緒に働けるとは、オイは嬉しいぞ‼︎」
     絶叫が室内に響き、他の部署の者まで何事かと振り返った。
     すらりとした長身にサラサラとした髪、特徴的ではあるが凛々しい眉。仕立ての良い濃いネイビースーツがよく似合っている。そんな顔面凶器、かつ、自分よりも15cmは身長の高い鯉登にガバッと抱きしめられて、月島は慌てる。
    「鯉登さんっ! ここは職場なので、ちょっと離れてくださいっ‼︎」
    「会いたかったぞ、月島ぁ! 月島と一緒に働きとうて、おやっどと鶴見どんに協力してもろたんじゃ! これからよろしくな、月……」
     いきなり目の前に分厚いファイルが現れ、鯉登は驚いて言葉を止めた。ファイルを持っている手の先を見ると、黒髪オールバックの目つきの悪い男が睨んでいる。
    「何だお前は」
    「月島さんが困ってんだろが。このボンボン」
     この三年で尾形の皮肉屋で反抗的な態度は社内ではかなり形を潜めたが、ふとした時に出現することがある。今がそれだ。
    「再会のハグの何が悪い?親愛の情を示しているまでだが」
    「だーかーら、ここは職場だって言ってるだろ?ハグする文化が欲しいなら一人で欧米にでも行きな」
     一触即発。
     ピリッとした空気が流れ、周囲も息を飲んで緊張する。
    「いい加減にしろ‼︎」
     響いた怒号に窓ガラスまでがビリビリと振動した、ような気がした。
    「挨拶が終わったら鯉登さんは研修‼︎ 必要なものをまとめてミーティング室へ直行‼︎ 尾形は、朝のメールチェックは終わってるのか⁉︎」
    「……とっくに終わってます」
    「ん。じゃあ、鯉登さんと一緒にミーティング室集合」
    「え⁉︎ 何でです⁉︎」
    「鯉登さんのOJT担当、お前だからだ」
    「「はああ⁉︎ 何でこんな奴と‼︎」」
     鯉登と尾形の声が、まるで旧知の中であるかのように綺麗にハモった。
     

    【サンプルここまで】
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