「聞いたかい、仁武! 桜がずいぶん綺麗だそうだよ!」
ノックもないまま、ガンと音を立てて扉が開いた。きゅっと口角を上げた玖苑と目が合う。瞬きをすると小首が傾いだ。
胸元のダンベルが降りていく。同じように、玖苑の眉尻もじわじわ下がっていった。
「仁武は、興味なかったかな」
えくぼが浮かぶ。けれど、視線は仁武の胸元に落ちた。
「ノックくらいしろ、玖苑。とりあえず入れよ」
一度見開かれた碧眼が弧を描く。開けられたときと同じように勢いよく閉められた扉が、再びバン、と音を立てる。
はあ、とひとつ溜め息をつき、ダンベルを机の上に転がした。脇に置いていた椅子に手を伸ばす。指が枠に触れたとき、物静かで上品に座る碧壱がよぎって動きが止まった。
1704