霊とか相談所の出納帳には〇〇の項目がある? 霊幻さんが自分の弟子であるモブくんのことを特別可愛がっているのは、お仕掛け秘書として通い出してから、よりハッキリとわかるようになった。
あれで隠してるつもりなのかも知れないけど、霊幻さんはモブくんがバイトに来る日だけ、少し良いお菓子を用意するし、寒い時期はたこ焼きや今川焼きなんか買ってくる。
私と芹沢さんしか居ない日は「おかしのまちおか」の店頭に出てるセール品か、一箱150円のチョコダイジェスティブビスケットなのに。
モブくんに初めて会ったとき、霊能力者の仕事の手伝いをしてるって聞いて「それ絶対に利用されてるじゃん!ていうか中学生に何させてんだ、やべー大人だ。最低〜」と、霊幻さんの印象は最悪だった。
それもあって、UFOのために大晦日に泥舟山まで車出してもらったりしてくうちに
「なんだ、この人って思ってたよりいい人なんじゃん?」
と、評価は自動的に右肩上がりになったし、怖いもの知らずだった私がヤバい目に遭ったときも助けてくれたし、実はすでに頭上がらないってとこある。
調子のりそうだから、わざとなんもわかってないガキの態度で相変わらずワチャワチャさせてもらってるけど、モブくんが信頼してるだけあって、あの人がなかなかの人物だってことは私にもわかってる。
とはいえ時給300円にはびっくりしたわ。
芹沢さんまでその時給だって言うから私も値上げ交渉できないし。違法じゃん。
でも実際、そんな儲かってないぽいのもわかってきたのよね…。
マッサージのお客さんが単価3800円にプラス税、私の知る限りだと平日はそれが2件に常連さんのカウンセリング3件が平均。カウンセリングは一番安いAコースで済ませちゃうお客さんがほとんどだから一人二千円。
心霊案件が無いと、この相談所って一日の売上が二万もいかないのが普通なのよね。そこから相談所の家賃と光熱費を引いたら、所長である霊幻さんの生活費だけでもカツカツてとこなんじゃ……え?てかやってけてんの?
「ねえ、モブくん、霊幻さんて実家太いの?」
「え、太いって…家に細いとか太いとかあるんですか?」
「あー…ごめんなさい、実家がお金持ちかどうかってこと」
「師匠の実家の話…は、あまり聞いたことがないですね。お姉さんがいることくらいしか…。トメさんはなんで師匠の実家がお金持ちかもって思ったんですか?」
「あ、違うの。ぜんぜんお金持ちの家の人に見えたとかじゃないけど、ほら、ここって全然儲かってるように見えないから、一体どうしてんのかしらって思って」
「たしかに…たまにすごくヒマな時には『だが食えん!』って叫んでから営業しに行ったりしてますね。でもよくオヤツ買ってくれてるし、ラーメンも食べさせてくれるし、そんなにカツカツでもないんじゃないですか?」
「そうねえ…実は投資とか、サイドビジネスとかしてるのかしら…?」
「あ、あと時々、除霊の仕事で依頼者の人から料金と別で謝礼金を渡されることありますね」
「なるほど!そうよね、ここの料金って安すぎだし、本当に困ってる人からしたらモブくんたちに除霊してもらって助かった人の中には、もっとお礼がしたいって人もいるわよね!そういう臨時収入で収支を賄ってるのかしら」
「いえ、そういう時は師匠が『ボーナスだ!』っ言って、僕と芹沢さんを焼肉とかに連れてってくれます。税金対策とも言ってたかも」
「え、なにそれ、私そんなの奢ってもらったことないわよ…あ!前にオヤツに、いつもと違うシュークリームが置いてあった!あれ凄い美味しかった!もしかしてアレ…?」
「あ、それは常連の金餅さんが時々差し入れてくれるやつじゃないかな…あれ美味しいですよね」
あれはボーナスおやつとちゃうんかーい!…まあ私は除霊できないからボーナスなくて当然だし、それはいいんだけど…。
モブくんの話を聞く限りじゃ、この相談所の収支がどうなってんのか見当がつかない。やっぱり霊幻さんが陰でサイドビジネスとか、内職とかしてるのかも。
時給上げてもらうかシフト増やしてもらってお小遣いにしたいなと思ってたけど、無理そうだし、今の3h×週2日のまま、別のバイト探す方がいいか…。
それにシフト入れてない日でお客さんいないタイミングなら、ユメたちと遊びに来てもお茶とか駄菓子出してくれるから、ぶっちゃけファミレスとかに行かないで済んでかなりお財布が助かってるし…
あれ…?ていうか…
「なんかこの相談所の経費って、『餌付け代』がかなりを占めてそうね…」
私が自嘲気味に小さくそう言うと、モブくんはさっき霊幻さんが買ってきたヨーロピアンシュガーコーンをかじりながら、キョトンと私を見上げて首を傾げた。
おわり