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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。タイトルそのまま。タグを見かけて書いたものです。

    ##TF主ルチ

    どちらかをビンタしないと出られない部屋 目が覚めたら、真っ白な部屋の中にいた。ぼんやりした頭で身体を起こし、室内の様子を確かめる。見慣れたその内装は、いつも見ているものと同じだった。白で覆い尽くされた部屋の中に、大きなモニターが取り付けられている。
     隣を見ると、ルチアーノが身体を起こしていた。乱れた服を整えてから、同じように周囲の様子を確認する。最後に僕に視線を向けると、小さな声で呟いた。
    「また、この部屋かよ」
     彼の発言はもっともだ。僕たちは、これまでにも何度もこの白い部屋に閉じ込められている。面倒なことに、この部屋は外部から鍵をかけられてしまう上に、ルチアーノの力も作用しないのだ。脱出するには、おとなしく条件を聞き入れるしかなかった。
    「今度は、なんだろうね」
     ルチアーノと目を合わせてから、僕も小さな声で答える。声が小さくなってしまうのは、出されるお題に不安があるからだ。この手の部屋は決まって変なお題ばかり出してくる。簡易的なものだから難しいことは求められないだろうが、怖いものは怖かった。
    「また、変なこと言われるんじゃないだろうな。とっとと教えろよ」
     ルチアーノが画面に向かって言うと、見計らったかのようにモニターが点滅した。僕たちの会話を聞いていたかのような、絶妙なタイミングだった。いや、実際に、僕たちの声は聞こえているのだろう。監視されていると思うと、あまりいい気はしなかった。
     ノイズの走ったモニターの中に、黒い文字が浮かび上がる。そこにかかれていた文章は、このようなものだった。

    ──どちらかがビンタされないと出られない部屋

    「はあ?」
     僕の隣で、ルチアーノが呆れた声を上げる。僕もぽかんと口を開けたまま、目の前の画面を見つめていた。ビンタというのは、あのビンタなのだろうか。思考を巡らせていると、画面は新しい文字を映し出した。

    ──この部屋の解錠条件は、どちらかの頬をビンタすることです。どちらかが、どちらかの頬を叩いてください。ビンタが成立していれば、どちらの頬を叩いても構いません。それでは、脱出目指して頑張ってください。

     一方的に説明を済ませると、画面はフェードアウトするように消えていく。部屋の中には、呆然とした表情の僕たちだけが残された。
     真っ白に染まった画面を眺めてから、僕はルチアーノの方に視線を向ける。ルチアーノも、戸惑ったような表情で僕を見ていた。真っ直ぐにに視線を交わしながら、僕たちは一瞬だけ沈黙する。先に口を開いたのは僕の方だった。
    「えっと、どうする?」
    「どうするも、こうするも、ビンタするしかないだろ。それ以外で部屋は開かないんだから」
     僕の問いに、ルチアーノは淡々とした声で答える。彼の言うことはもっともなのだが、問題はそこではなかった。ビンタをするということは、どちらかが叩かれなければいけないのだ。僕は痛いのは好きではないし、ルチアーノだって嫌だろう。
    「そうなんだけど、どっちがビンタをするの? 僕かルチアーノか、どっちかが叩かれるんだよ」
     思ったままに尋ねると、彼は呆れたような表情を浮かべた。当たり前だとでも言うように、ため息混じりの言葉を吐く。
    「そんなの、君が叩かれる方に決まってるじゃないか」
    「えっ」
     当然のように告げられて、僕は言葉を失ってしまう。何がどうしたら、僕がビンタをされることに決まるのだろうか。納得がいかなかった。
    「どうして僕なの? ルチアーノの方が、力も防御力も高いのに」
    「君は、僕をビンタするつもりなのかい? 大人の身体なのに、子供の身体の僕を?」
    「……あ」
     そう言われて、僕はようやく気がついた。すっかり忘れていたが、ルチアーノは子供の姿をしているのだ。大人である僕が彼の頬を叩くのは、見た目の面で問題があるだろう。
    「ようやく気づいたみたいだね。そうだよ。君が僕を叩いたら、君は児童虐待の現行犯になるんだ」
    「くっ…………」
     そんなことを言われたら、もうビンタなんてできない。悔しさに唇を噛むしかなかった。
    「ここから脱出したいなら、おとなしく頬を出しな」
     そんな僕を見て、ルチアーノはにやにやと笑みを浮かべる。明らかに僕をからかっているような、意地悪な笑い方だった。彼は、最初から僕をビンタするつもりだったのだろう。意地悪な男の子だ。
    「分かったよ。その代わり、手加減はしてね」
     もう後には引けないから、仕方なく顔を近づける。ルチアーノの小さな手のひらが、僕の頬に触れた。燃えるような熱が伝わって、頬がじわりと熱くなる。心臓がドクドクと鳴っているのは、これから起きることへの緊張からだろう。心の準備をすると、震えながらその時を待つ。
    「じゃあ、やるよ」
     僕の目の前で、ルチアーノが口を開いた。次の瞬間には、手のひらが頬から離れている。風を切る音と共に、それは僕の頬へと近づいてきた。物理的な恐怖には逆らえなくて、反射的に目を閉じてしまう。
     乾いた音を響かせながら、ルチアーノの手のひらが僕の頬を叩いた。頬から伝わった衝撃が、顔全体に響いて頭を揺らす。手加減してと言ったのに、結構本気で叩いたみたいだ。頬がじんじんと熱いし、痺れるような痛みが伝わってくる。
    「ちょっと、手加減してって言ったでしょ」
     抗議の声を漏らすと、ルチアーノはきひひと笑い声を上げた。にやにやと笑みを浮かべながら、楽しそうな声で語る。
    「手加減はしてるぜ。僕が本気で叩いたら、人間の首くらい簡単に飛ぶんだから」
     からかっているような語調だが、僕は背筋が冷たくなっていた。相変わらず、恐ろしいことを言う子だ。そんなの、いつでも殺せると言ってるようなものじゃないか。
    「命に関わらなくても、痛いものは痛いんだよ。もっと手加減してくれなくちゃ」
     そうこうしているうちに、モニターがチカチカと点滅する。白い画面の中に、『mission clear』の文字が浮かび上がった。それと同時に、背後から鍵が開く音がする。後ろを振り返ると、ルチアーノが僕の手を取った。
    「ほら、行くよ」
     ルチアーノに引っ張られて、僕は出口へと向かっていく。強引に話を切られたから、それ以上は何も言えなかった。子供のように膨れ面をしながら、引きずられるままに出口へと向かう。そんな僕を見て、彼は大きくため息をついた。
    「なに膨れてるんだよ。子供みたいだぜ」
    「ルチアーノが手加減してくれないからでしょ」
     子供のように拗ねて見せると、彼は再びため息をつく。子供を困らせるなんて保護者失格な気もするが、これは譲れなかったのだ。僕のことを大切に思ってくれるなら、少しは優しくしてくれると思ったのに。
    「これでも、手加減はしたんだよ。機嫌直しな」
     隣から聞こえてくるのは、困ったような呆れたような声だった。こうしていると、どちらが子供なのか分からない。それもそうだ。ルチアーノより年上の身体をしていても、僕はまだ未成年なのだ。嫌なものは嫌だった。
    「嫌だよ」
     中身の無い会話を続けながら、僕たちは外へと続く通路を歩いていく。喧嘩のような言葉を吐きながらも、握られた手は振り払わなかった。ルチアーノの方も、僕を離そうとはしない。二人で肩を並べたまま、僕たちは外の世界へと足を踏み出した。
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