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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。寒くなってきた明け方にTF主くんがルチを抱き枕にする話。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    抱き枕 気がついたら、真っ白な空間に立っていた。
     周囲を見渡してみるが、近くに人の気配はない。それどころか、色彩を放つ物質の姿すら見えなかった。辺り一面が真っ白に染まっていて、一切の色が失われているのだ。視界を焼くような目映い光が、僕の瞳を貫いている。
     光から瞳を逸らすように、僕は自分の手元に視線を向けた。視界に入ったものを見て、僕は悲鳴をあげてしまう。そこにあるはずの僕の身体は、真っ黒な影に染まっていたのだ。身体と服の境界線さえも、黒に溶け込んで分からなくなっている。
     言い様の無い恐怖を感じて、僕はその場に座り込んだ。背筋に冷たいものが走って、身体が小刻みに震える。しかし、僕の身体が震えているのは、恐怖のためだけではなかったのだ。この真っ白な空間は、鳥肌が立つほどに肌寒かった。
     なんとか腰を上げると、僕は前へと歩を進めた。明確な理由があるわけではなかったが、そうすることが正しいと思ったからだ。空間の奥へと歩いていれば、きっと色彩を取り戻せる。第六感のような曖昧な感覚で、僕はそう確信していた。
     歩いても歩いても、視界に広がるのは真っ白な空間だ。冷気はじわじわと僕を蝕んで、心を凍りつかせていった。ずいぶん長い間歩いている気がするけれど、どれくらい進んだかは分からなかった。
     僕が絶望を感じ始めていると、視界の端に何かが映った。一切の色彩を持たない空間の中で、そこだけが色を灯している。不安に苛まれた僕にとって、その光は救いの光のように感じた。
     視界に光を捉えると、僕は前へと足を踏み出す。一歩ずつ距離が近づくに連れて、それは鮮やかになっていった。空間を覆う白を塗りつぶすように、色彩が空間を満たしていく。足取りは少しずつ早くなり、やがては駆け足へと変わっていった。
     色彩の中心にあったのは、虹色の綿のようなものだった。色彩を失った世界の中で、それだけがキラキラと輝いている。目の前に立っているだけなのに、ほのかな温もりが伝わってきた。きっと、この不思議な物質が、世界の色彩を取り戻す鍵なのだ。そう確信すると、僕はそれに手を伸ばした。
     虹色の物質は、わたあめのように柔らかかった。日だまりのように優しい温もりが、手のひらから身体に伝わってくる。それはゆっくりと全身に広がり、凍えていた身体を溶かしていった。もっと温もりに触れようと、僕はその物質を抱き締める。
     しかし、僕が腕の中に収めた途端に、その物質は暴れ始めた。じたばたともがくように動き回って、僕の腕から逃れようとする。せっかく見つけた鍵なのだから、僕だって簡単に手放すわけにはいかない。腕に力を込めると、しっかりとそれを抱え込んだ。
     両手に抱え込んだ虹色の綿が、抵抗するように光を発する。眩い光に照らされた僕の身体から、黒い影が飛び散っていった。不思議に思って視線を向けると、身体に色彩が戻っている。元の身体に戻るために、僕は全身で綿を抱き締めた。
     虹色の綿の抵抗は、さっきよりもさらに激しくなる。手足のようなものが伸びると、僕の身体を叩き始めた。足に当たる位置にあるパーツは、僕を蹴り飛ばそうとする。容赦のない全力の殴打が、僕の身体へと飛んできて……

     そこで、僕は目を覚ました。
     一面に広がる暗闇が、僕の視界を多い尽くしている。さっきまでの眩しさとのコントラストで、周囲の光景は何も見えなかった。身体にかかる布団の感触で、辛うじてベッドの上であることが分かる。一度大きく深呼吸をしてから、周囲の様子を確かめた。
    「おい、起きたのかよ」
     ルチアーノの冷めきった声が、僕の隣から聞こえてくる。いつもと変わらない彼の声だが、発生源は妙に近かった。状況が理解できなくて、僕はぱちくりとまばたきをする。少し間を開けてから、腹部に衝撃が響いてきた。
    「ほら、とっととその手を離しな」
     骨に響くような鈍い痛みで、僕は状況を理解する。腕の中にいるルチアーノが、僕に肘鉄を食らわせてきたのだ。どうやら、眠っているうちにルチアーノを抱き締めていたようである。拘束に機嫌を損ねたルチアーノが、僕を引き剥がそうと叩き起こしてきたのだろう。
    「えっと、ごめん」
     急いで彼から手を離すと、僕は布団の中で距離を取る。少し後ろに下がった時に、僅かな違和感を感じた。片手を布団から出したところで、僕の予想は確信に変わる。僕たちを包む布団の中は、数日前よりも寒くなっていたのだ。
    「全く。上司を抱き枕にするなんてさ。少しは遠慮したらどうだい?」
     ルチアーノのトゲを含んだ声が、僕の耳へと突き刺さってくる。しかし、それを上回るくらいに、室内の肌寒さが気になってしまった。つい最近まで夏だったはずなのに、いつの間に秋になったのだろう。夏用の薄い布団では、この寒さは凌げない。
    「ごめん。急に肌寒くなったから、無意識にくっついちゃったみたい。ほら、ルチアーノの身体って、ポカポカしてて温かいから」
     寝惚けた頭で答えると、彼は不満そうに鼻を鳴らした。間髪いれずに、鋭い声が返ってくる。
    「誰が子供体温だって? 君は失礼なやつだな」
    「そこまでは言ってないよ」
     弁明するように答えてから、僕は布団の中で身体を抱き締める。このまま眠ってしまうには、室内の温度は冷たかったのだ。日が登れば暖かくもなるのだろうが、もうしばらく先になるだろう。それまでの数時間は、なんとかして凌がなければならない。
     今から布団を抜け出して、毛布か上着を持ってこようか。しかし、そんなことをしていたら、確実に目が覚めてしまうだろう。なら、このまま肌寒い部屋の中で、日が登るのを待つべきだろうか。そんなことをしていたら、風邪を引いてしまうかもしれない。
     ぼんやりと思考を巡らせていると、鼻の奥がむずむずしてきた。布団の中で身体を曲げると、僕は大きなくしゃみをする。いつの間にか鼻が詰まっていたようで、少し息が吸いやすくなった。
    「なんだよ。寒いのか? おとなしく新しい布団を持ってきな」
     隣に横たわっていたルチアーノが、呆れたように言葉を吐く。いつもの彼らしい、突き放すような物言いだった。そんな彼を横目で眺めると、僕は少しずつ距離を詰めていく。ルチアーノの隣に張りつくと、背後から手を回した。
    「何するんだよ。離れろって言っただろ」
     ルチアーノの不満そうな声が、僕の目の前から聞こえてくる。僕の腕の中に、柔らかな温もりが広がってきた。機械であるルチアーノの体温は、人間よりも少し高いのだ。こうして全身で抱き締めると、その熱は湯たんぽの変わりになる。
    「だって、こうした方が温かいんだもん。すぐに朝になるんだし、少しくらいいいでしょ」
     僕が言うと、彼は不満そうに鼻を鳴らした。嫌々という体を示したいのか、僕の手首に手をかけている。しかし、いくら時間が経っても、その手が動く気配はなかった。
    「何も良くないだろ。君に身体を固定されてたら、僕は身動きが取れなくなっちまう。急な任務ができたらどうするんだ」
    「その時は、僕を引き剥がせばいいでしょ。ルチアーノの力なら、それくらい余裕なんだから」
     僕が言い返すと、彼は静かに口を閉じる。何だかんだ言ってはいるものの、抱き締められること自体は嫌ではないのだろう。彼は僕が思っているよりも甘えたがりで、人の温もりを求めているのだ。こうして口実を与えてあげれば、振り払ったりはしないだろう。
     ルチアーノの温もりを感じながら、僕はそっと目を閉じる。しばらく思考を空にしていると、意識が微睡みの中に溶けていった。ベッドの上にある僕の身体が、ふわりと宙に浮く感触がする。眠りの世界に入り込んでも、もう変な夢を見ることはなかった。
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