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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ハロウィンの夜に繁華街に行く2人の話。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    ハロウィン 季節が秋へと移り始め、半袖では肌寒くなってくると、ハロウィンの季節がやってくる。町はかぼちゃやダークなモチーフで溢れ、至るところでイベントの広告を見かけるようになるのだ。雑貨屋は部屋に飾るアイテムを前面に並べ、スーパーはオレンジや紫に彩られたファミリーパックのお菓子を並べる。どこもかしこもハロウィン一色だから、嫌でも季節の変化を意識させられた。
     そんな季節が来ると、僕はどうしても考えてしまうのだ。今年のハロウィンは、どんなことをして過ごそうか、と。せっかくルチアーノと一緒にいられるのだから、なにもせずに終わらせてしまうのは勿体ない。でも、子供らしい仮装やイベントの参加を提示すると、彼は話も聞かずに拒絶するのだ。
     いいアイデアが思い付かなくて、僕は端末を立ち上げる。インターネットを開くと、検索窓にハロウィンに関する言葉を打ち込んだ。世界の雑多な情報を眺めていれば、何か思い付くかもしれないと思ったのだ。画面に溢れる情報を眺めながら、僕は目に止まるものをメモしていく。
     やはり、世間の人々の関心を集めているのは、シティ繁華街での仮装集会だった。中央に位置する広場を中心に、仮装した老若男女が群れを成して集うらしいのだ。集会というのも名ばかりで、現地に集うのは噂を聞いてきた周辺市民ばかりである。統率の取れないその集団は年を重ねるほどに数を増し、今ではセキュリティが出動する事態になっているのだそうだ。
     それほどの規模の集いとなれば、繁華街の光景は圧巻だ。写真に撮られた街の中心部は、仮装した人々で溢れていたのだ。広場は人で埋め尽くされ、周囲の道路にまで人の波が押し寄せている。彼らの間でキラキラと輝いているのは、誘導するセキュリティたちの持つライトだった。
     端末の画面を操作して、僕は別の写真を表示した。そこに映っているのは、別の角度から撮ったシティの写真である。そこでは封鎖された大通りの車道の上を、仮装した人間の群れが覆い尽くしていた。ビル軍の前を化物が闊歩する光景は、僕に非日常を感じさせた。
     この光景を間近で見ることができたら、どれだけ面白いだろう。何枚かの写真を見ていくうちに、僕はそう思うようになった。以前に住んでいた町は郊外に近かったから、ハロウィンに人が集まることなどなかったのだ。せっかく都会に引っ越してきたのなら、一度はハロウィンを満喫してみたい。
     端末の電源を落とすと、僕はゆっくりと席を立った。町に出るなら、仮装の用意をしなければいけない。頭の中でアイデアをまとめながら、僕は繁華街へと繰り出した。

    「今年のハロウィンは、町に出てみない?」
     思いきって声をかけると、ルチアーノは怪訝そうな顔で僕を見た。猫のように目を細めて、眉をハの字に歪めている。一瞬だけ間を置くと、彼は甲高い声で問いを返した。
    「はあ? 町? ハロウィンの夜にか?」
    「そうだよ。毎年ハロウィンの夜になると、繁華街は歩行者天国になるんだ。仮装した人がたくさん集まって、町中がゴーストタウンになるんだよ」
     僕が説明すると、ルチアーノは呆れたようにため息をつく。わざとらしく視線を逸らすと、淡々とした声色で呟いた。
    「それくらい知ってるよ。毎年ハロウィンの夜になると、セキュリティを警備に取られるからな。僕が言いたいのは、なんでわざわざそんなところに行きたがるのかって話だ」
     感情を抑えた平淡な言葉だが、僕には彼の拒絶が伝わってきた。繁華街と聞いた時点で、既に面倒臭いと思っていたのだろう。彼は目立つことを嫌がるし、そもそも人込みが好きではないのだ。嘘をついても無駄だから、僕は素直な言葉を返した。
    「だって、面白そうでしょう。普段は働く人たちで埋め尽くされている繁華街が、ハロウィンだけはお化けの町になるんだよ。自分もそのお化けの一員になれるなんて、楽しそうだと思わない?」
    「思わねーよ。シティのハロウィンなんか、何千人もの人間が集まるんだぜ。それだけの人数が好き勝手やったら、絶対に手に終えなくなるだろ」
     正面から否定の言葉を返され、僕は言葉に詰まってしまう。確かに、彼の指摘した通りに、来訪者のマナー問題は起きているのだ。町中に大量のゴミが捨てられていたり、すし詰めになった人たちがトラブルを起こしたりするらしい。セキュリティが対処に当たってはいるが、なかなか追い付いていないようなのだ。
    「でも、今年のハロウィンは、前よりましになってるはずだよ。見回りのセキュリティも増えたみたいだし、歩行者の交通制限もするみたいなんだ」
     なんとか説得しようと試みるが、思い付いたのはこれくらいだった。自分でも説得力の無さを感じて、曖昧な苦笑いを浮かべてしまう。案の定、ルチアーノも突き放すような言葉を返した。
    「その程度で改善するわけないだろ。とにかく、僕は嫌だからな。行くなら、君一人で行ってこいよ」
    「そっか。寂しいけど、一人で行ってくることにするよ。ルチアーノも、別でハロウィンを楽しんでね」
     ルチアーノから視線を逸らすと、僕は小さな声で答える。そこまではっきりと拒絶されたら、ついてきてとは言えなかった。仕方がないから、僕一人で行くことにする。まあ、町をぐるりと一周して、気が向いた時に帰ってくればいい。
     しかし、僕がおとなしく引き下がったことで、ルチアーノの中に迷いが生まれたようだった。窺うように視線を上げると、僕の周りを彷徨わせる。
    「でも、君がどうしてもって言うなら、ついていってやってもいいぞ。僕は慈悲の心を知ってるんだ。部下に寂しい思いはさせないさ」
     迷いを残したような歯切れの悪い声で、ルチアーノはそんなことを呟く。僕のためとでも言いたげな言葉選びだが、彼が寂しくなっただけだろう。イベントで僕が彼を置いて行ったことなど、これまでに一度もなかったのだから。
    「本当? それなら、一緒に来てくれると嬉しいな。一人で人混みに行くのは、迷子になりそうで怖かったから」
     気づかない振りをして言葉を重ねると、彼はにやにやと笑みを浮かべた。僕に視線を向けると、いつもの調子に戻った声で言う。
    「全く、君はどうしようもない寂しがり屋だな。繁華街にも一人で行けないなんて、子供みたいだぜ」

     それからしばらくして、ハロウィン当日がやって来た。世間の人々は浮かれモードに入っていて、各々の仮装で町に繰り出している。テレビでは、ハロウィンの準備をする繁華街の様子を、午後の情報番組が特集していた。まだ日が高く上っている時間だというのに、周囲のの車道は封鎖されている。
     ルチアーノが僕の家に来たのは、太陽が建物の影に隠れ始めた頃だった。任務で忙しいルチアーノは、ハロウィンの日も働いていたようである。僕の目の前で布地を揺らすと、堂々とした態度で言った。
    「遅くなって悪かったな。本当はもっと早く終わるつもりだったんだけど、相手が必要以上に抵抗してきたんだ」
    「大丈夫だよ。シティのハロウィンが始まるのは、日が暮れてからだから」
     無難な返事を返すと、僕はカーテンの前へと歩を進める。窓の上を滑るレールの上には、いくつかのハンガーがかけられていた。僕がルチアーノのために用意した、今年のハロウィンの仮装である。音を立てながらハンガーを外す僕を見て、彼は呆れたように呟いた。
    「また、新しい服を用意したのかよ。相変わらず、君はイベントが好きだな」
    「今回の衣装は、全部が新しいわけじゃないよ。よく見て。これには見覚えがあるでしょ」
     彼の言葉に答えながらも、僕は片手のハンガーを差し出す。そこにかけられているのは、ブラウスとベストだった。もう片方の手にかけられているのは、ハーフパンツとマントである。後は白い靴下を組み合わせれば、小さな吸血鬼の完成だ。
    「ああ、そういえば、前に君が買ってきてたな。……ハーツパンツなんて、子供みたいで嫌なんだけどさ」
     ぶつぶつと文句を流しながらも、彼はおとなしく受け取ってくれる。一緒に行くと口にしてしまった以上、今さら嫌だとは言えないのだろう。それに同行を拒否したところで、待っているのはひとりぼっちの留守番だ。寂しがりな彼にとっては、それもそれで嫌なのだろう。
    「僕は洗面所で着替えてくるぜ。……絶対に覗くなよ」
     小さな声で呟いてから、ルチアーノはリビングを後にする。何度も裸体を見せあっているのに、未だに着替えを見られるのは嫌がるのだ。スキンシップで見せる裸と生活で見せる裸では、羞恥心の方向が違うのだろう。僕も変なところで羞恥心を感じるから、全く分からないわけではない。
     ルチアーノの姿を見送ると、僕は自分の着替えに手を伸ばした。シンプルなスーツに身を包むと、その上からマントを被る。僕もルチアーノとお揃いで、正装の吸血鬼にしたのだ。あまり派手な仮装をしたら、ルチアーノは同行を嫌がるからだ。
     着替えを終えて待っていると、洗面所からルチアーノが出てきた。予想通り、黒のベストとハーツパンツは、彼の身体によく似合っている。肩から覗くブラウスの白は、靴下と同じくらい透き通っている。赤い髪を靡かせたその姿は、男装の少女のようにも見えた。
    「すごい似合ってるよ。後は、マントをかければ完成だね」
     彼の側まで歩み寄ると、僕は手に持っていたマントを受け取る。しかし、対するルチアーノは、恥ずかしそうに頬を染めていた。ちらりと僕に視線を向けると、すぐに足元に視線を向ける。
    「なあ、本当にこの格好で行くのかよ。いつものスラックスじゃ駄目なのか?」
    「ダメだよ。今日のルチアーノは子供の振りをするんだから。それに、足を出すような格好なら、スカートを履いた時にしてたでしょ」
    「それとこれとは別なんだよ」
     なんとか足を隠そうとするルチアーノを宥めながら、僕は彼の背中にマントをかけた。襟が綺麗に出るように整えてから、首の前でボタンを留める。左右に縫い付けられていたリボンを引っ張ると、ボタンを隠すように丁寧に結んだ。
     仮装の準備が整うと、僕はルチアーノの服から手を離す。少し嫌そうな顔をしながらも、自分の足元を眺めていた。彼の意識は着せられた服に向いていて、僕の方には見向きもしない。少し悔しくなって、自分から感想を催促した。
    「ねえ、僕の仮装はどう?」
    「へ? まあ、それなりにいいんじゃないか」
     しかし、返ってくるのは、そんな適当な返事だけだった。僕はルチアーノの仮装を褒めてあげたのに、なんだか釣り合ってない気がする。とはいえ、ここで言い争いをしている場合ではないから、おとなしく引き下がることにした。
    「そっか。じゃあ、そろそろ出かけるよ」
     ルチアーノに声をかけると、僕は玄関へと向かった。今日は町を歩く人が多いから、ルチアーノのワープ機能は使わないことにしたのだ。彼曰く、少しくらい見られても問題はないそうなのだが、できるだけ面倒事は避けておきたい。それに、今日は仮装してのシティ探索なのだ。歩いて行った方が楽しいだろう。
     家の外へ出ると、僕はシティを目指して歩を進める。ここは静かな住宅街だから、あまり人の通りは多くなかった。人目につかないのをいいことに、僕は黙ってルチアーノの手を握る。彼も満更でもないのか、拒んだりはしなかった。
     町へと続く大通りに差し掛かると、人の量は一気に増していった。大通りの歩道を埋め尽くすように、仮装した人々がひしめいているのだ。ここはまだ歩行者天国ではないから、人々は狭い歩道に身を寄せている。繁華街へと雪崩れ込む人々を、ランプを掲げたセキュリティが誘導していた。
    「本当にここを行くのかよ。既にすごい人だぜ」
     人の波に視線を向けると、ルチアーノは呆れたように言う。提案した僕でも怯んでしまいそうなほどの、密集した人混みだった。引き返したくなってしまうが、ここで諦めたら意味がない。覚悟を決めると、僕はルチアーノの手を握りしめた。
    「行くよ。そのために来たんだから」
     喉の奥から声を出すと、彼の手を引いて足を踏み出す。人と人の隙間を見極めると、身体を捻って身を滑らせた。ルチアーノは僕よりも身軽なようで、涼しい顔で隣を歩いている。さすがに、小学生にしか見えない子供だからか、周りの人も気を遣ってくれているらしい。おかげで、繁華街へと向かう道中は、それなりに楽に進むことができた。セキュリティの案内に従って、僕たちは町の中心部に向かう。
     しかし、僕は甘く見ていたのだ。ハロウィンの夜のネオドミノシティの、若者の喧騒というものを。歩行者天国へと踏み込んだ僕たちの耳に聞こえてきたのは、浮かれた若者たちの大声だった。びっくりして視線を向けると、思い思いの仮装に身を包んだ若者たちが、各地で集団を形成している。彼らはジュースやお菓子を片手に、大声で笑い声を上げていた。それはひとつのグループだけでなく、どのグループも同じだったのだ。
     耳をつんざく歓声に圧倒されて、僕は思わず顔をしかめる。若い女の子たちの甲高い声は、ルチアーノのそれとは全く違っていた。脳味噌を掴んで揺すぶるような、痛みを感じる声なのである。心配になって隣のルチアーノを見るが、彼は平然と周囲を見回していた。
    「ねえ、ルチアーノ。大丈夫?」
     僕が尋ねると、ルチアーノはちらりとこちらに視線を向ける。怯えた様子の僕を見ると、呆れたように言葉を返した。
    「どうしたんだよ。ブルドックみたいな顔して」
     奇妙な例えだったが、彼の言わんとしていることは理解できる。彼を見つめる僕の顔は、眉間に皺がよっているのだろう。ルチアーノの視点からでは、相当滑稽な顔に見えているはずである。少し唇を尖らせると、僕は彼の耳元で答えた。
    「そんな顔してないよ。周りの声が大きいから、ルチアーノは大丈夫かなって思ったんだ」
    「僕は平気だよ。内部で音量を調整してるからな」
     平然とした声で言うと、ルチアーノは周囲の若者グループを眺める。すぐに視線を戻すと、僕の耳元で囁いた。
    「それにしても、相当浮かれた人間どもだな。煩くて敵わないぜ」
     あまり大きな声を出してはいないのに、彼の声ははっきりと聞こえてくる。こういう時だけは、彼の人間離れした能力が羨ましく感じた。こんな状態では、ゆっくり観察を楽しむことなどできそうにない。ルチアーノの手を取ると、僕は順路に向かって歩き始めた。
    「とりあえず、もう少し奥に行こうよ。ここだとうるさすぎるから」
     僕の発した声は、彼の耳に届かなかったようである。少し離れたところから、ルチアーノの怪訝そうな声が聞こえてきた。
    「は? なんだって?」 
    「もう少し奥に行こうって言ったの!」
     大きな声で言い直してから、僕は看板の示す先に進んでいく。混雑と混乱の緩和のために、広場周辺の道路は一方通行になっているのだ。つまり、看板の示す先に歩いていけば、中心部から離れることができる。そこなら、もう少し余裕を持って仮装を楽しめるだろう。
     しかし、そんな僕の計画も、思い通りにはいかなかった。広場の奥の歩行者天国は、さらに多くの人で溢れていたのだ。順路に添って進もうと思っても、人につっかえて足が止まってしまう。無理矢理掻き分けて進もうとすると、周囲の人間に押し潰されそうになるのだ。
     人々の喧騒と熱気に囲まれて、僕たちは町の中央で足を止める。四方から人間に押し出されて、僕は転んでしまいそうになった。バランスを崩して倒れかけた僕を、ルチアーノの腕が引っ張り上げる。なんとか体勢を立て直すと、ルチアーノの耳元に口を近づけた。
    「ありがとう。助かったよ」
    「気を付けろよ。君は、ただでさえ人混みに弱いんだから」
     素っ気ない態度で答えると、彼はすぐに顔を逸らす。視線の先にあるのは、団子状に固まった人間たちだ。僕には隙間ひとつ無いように見えるのだが、彼にとってはそうではないらしい。人混みの間を睨み付けると、唇を結んで僕の手を引っ張る。
    「こっちだ。行くぞ」
     早くここから抜け出したかったから、僕は引っ張られるままに先へと進んだ。ルチアーノを守るつもりで来たというのに、逆に僕が守られてしまっている。しかし、人混みを抜ける技術においては、ルチアーノの方が幾分も上なのだ。ここは彼に任せるべきだろう。
     人々の隙間をすり抜けながら、僕たちはゆっくりと前に進む。人の熱気に温められて、秋なのに汗が噴き出してきた。ハンカチで首筋を拭いながら、長袖を着てきたことを後悔する。都会のハロウィンというものは、本当に恐ろしいものだと思った。
     それからしばらくして、僕たちはようやく中心部から抜け出した。押しくら饅頭から解放されて、周囲の喧騒が遠ざかっていく。誘導するセキュリティから離れると、僕は大きく息をついた。秋の夜の風に吹かれて、身体の温度が下がっていく。
    「うぅ……。死ぬかと思った……」
     小さな声で呟くと、ルチアーノが呆れたように僕を見た。涼しげな表情を浮かべたまま、冷たい声で言葉を発する。
    「だから言っただろ。何千人もの人間が好き勝手したら、セキュリティの手には終えなくなるって」
     ごもっともな言い分に、僕は何も言い返せなくなってしまった。彼は始めから、町に出ることを嫌がっていたのだ。それを無理矢理説得して、この地に連れてきたのは僕なのである。ルチアーノからしたら、いい迷惑だったことだろう。
     そこまで考えた時、僕の脳裏に疑問が浮かんだ。そこまで嫌がっていたというのに、どうして彼はついてきてくれたのだろう。仮にも感性は大人なのだから、寂しかったからだけが理由ではないはずだ。何か別の理由があるのだと思った。
    「ねえ、ルチアーノはどうして、こんなところについてきてくれたの?」
     尋ねると、彼は真っ直ぐにこちらに視線を向けた。鋭い瞳を僕に向けると、真面目な表情で答える。
    「そんなの、心配だからに決まってるだろ。君を一人で人混みに放り出したら、人間に押し潰されて死んじまうからな」
     つまり、彼が僕への同行を認めてくれたのは、僕の無事を見届けるためだったのだ。僕が一人で都会に行っても、人混みに呑まれるだけだと分かっていたようである。でも、わざわざついてきてくれるなんて、彼も丸くなったものだ。
    「そうだったんだ。ルチアーノは優しいね」
     小さな声で呟くと、彼は大きく目を瞳を見開いた。慌てた様子で視線を逸らすと、頬をほんのりと染めながら言う。
    「そんなんじゃねーよ。君が死んだら、僕が困るからだ」
     それが建前でしかないことも、僕にははっきりと分かっていた。あまり突っ込むと痛い目に遭うから、この辺りで引いておくことにする。
    「そうだね。ひとりぼっちだと、大会にも出られないからね」
     僕が答えると、ルチアーノは乱暴な仕草で手を繋いだ。強い力で僕の手を引っ張ると、突き放すような声で言う。
    「ほら、帰るぞ」
     二人で肩を並べながら、僕たちは家を目指して歩き始める。腕時計に視線を向けると、まだ七時を過ぎたばかりだった。ハロウィンの夜のお祭り騒ぎは、きっとこれからが本番なのだろう。改めて、僕にはついていけない世界だと思った。
    「家に帰ったら、一緒にお菓子を食べようか。今日のために、いろいろ用意しておいたんだよ」
     郊外へと続く角を曲がると、僕はルチアーノに声をかける。隣から返事は返ってこなかったが、嫌がるような素振りも見えなかった。僕たちのハロウィンも、まだ始まったばかりなのだ。家に帰ってから、二人でゆっくり過ごせばい。
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