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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。TF主くんがルチへのお土産にいちご大福を買う話。

    ##TF主ルチ

    いちご大福 ショッピングビルの一階に降りると、フロアの隅に人が集まっているのが見えた。通路を通り抜けていく人々が、同じ場所で足を止めている。彼らが視線を向けているのは、机を二つ並べただけの販売スペースだ。隣に立つポールにくくりつけられた旗には、墨で書いたようなフォントで店名が印刷されている。
     人の流れに釣られるように、僕はそのスペースへと近づいていった。学校にあるような細長い机には、色とりどりの和菓子が並んでいる。シンプルな白い大福が並べられたトレイもあれば、どら焼きや羊羹が並ぶショーケースも取り付けられている。お花見の季節が近づいているからか、桜餅やお団子のコーナーもあった。
     人の間をすり抜けて前に出ると、僕はショーケースの中身を吟味する。せっかく買い物に来ているのだから、お土産を買っていくのもいいと思ったのだ。店内のポップを見る限り、このお店はなかなかに有名店らしい。それに、専門店の和菓子を食べる機会なんて、口実ができたときくらいしかないのだ。
     そんなことを考えながら売り場を眺めて、僕は不意に足を止める。ただでさえ彩りに満ちたショーケースの中に、一際目を引く和菓子があったのだ。口を開けるように切られたお餅の間から、こしあんと苺の先が覗いている。ケースの中で存在感を放つ独特な形状は、この季節にしか見られないいちご大福だった。
     ケースの目の前まで近づくと、手前に並べられたポップを見る。大きな苺を贅沢に使った大福は、そこそこにいいお値段がつけられていた。最近は果物も値上げが続いているから、この手のお店も値上げせざるを得ないのだろう。とはいえ、二人分を買って帰ろうと思うと、すぐに決められる価格ではなかった。
     ポップといちご大福を交互に眺めると、僕はその場で考える。せっかく出張販売にに巡り会ったのだから、何かを買わなければもったいないだろう。しかし、いちご大福を二つ買おうと思うと、出費はワンコインでは済まなくなる。だからといって普通の大福で済ませてしまうのも、それはそれで違うような気がした。
     数分の間悩みに悩んでから、僕は販売員の女性に声をかける。ショーケースの中を指差しながら、お目当ての和菓子の名前を伝えた。慣れた手つきでトングを動かすと、女性は和菓子を包んでくれる。昔ながらのトレイで代金を支払うと、包みを手にショッピングビルを出た。
     袋を抱えるように両手で持つと、僕は家路を目指して歩を進める。ルチアーノに和菓子を買って帰るのは、僕たちの間では珍しいことだった。僕が買うのは大抵が洋菓子や焼き菓子で、和風の生物は滅多に買わないのだ。今回はちょっといいお店のものだから、彼も納得する味わいのものだろう。
     包みを傾けないように気を付けながら、足早に大通りを歩いていく。ルチアーノにお菓子を見せるのが楽しみで、足取りが早くなってしまうのだ。いくら俗世の知識に詳しい彼でも、実物を見るのは初めてだろう。どのような反応を見せるのかと考えると、楽しみで仕方なかった。

     夕食を終え、使った食器を全て片付けると、僕は食品棚に手を伸ばした。観音開きの扉を開けると、扉の影に隠していた包みを取り出す。別に隠しておく必要はなかったのだが、ついつい仕舞い込んでしまったのだ。先に見つけられてしまったら、ルチアーノの新鮮な反応は見られない。
     傾けないように丁寧に包みを抱えると、僕は机の方へと向かう。大福が二つも入った包みは、見た目以上にずっしりしていた。慎重に机の上に乗せると、微かに重みのかかる音がする。包装紙のテープを剥がすと、僕はソファに座るルチアーノに視線を向けた。
    「今日はデザートを買ってきたんだ。よかったら、ルチアーノも一緒に食べない?」
     僕の声を聞くと、彼はくるりとこちらを振り向く。手元にある包みに視線を落とすと、怪訝そうな動きで目を細めた。光を湛えた緑の瞳が、真っ直ぐに包装紙を捉えている。
    「デザート? その包みがか?」
     包みを剥がしている僕を眺めながら、彼は訝しそうな声で言う。警戒するような態度を見せているのは、見慣れないものが置かれているからだろう。和菓子の包みを見ること自体が、彼にとっては初めてかもしれないのだ。こっそりと反応を窺いながら、ゆっくりと包装紙を剥がしていく。
     包みの中に入っていたのは、よくあるプラスチックのケースだった。大きめの大福を崩さずに詰めるために、底の深い形に作られている。蓋を止めている輪ゴムを外すと、ルチアーノに見えるように蓋を外した。
    「見て。いちご大福だよ。出張販売を見つけたから買っちゃったんだ」
     可愛らしい色合いの大福を見ながら、僕は弾んだ声で言う。しかし、浮かれている僕に対して、ルチアーノは冷静なままだった。乗り出していた身体を引っ込めると、興味を失ったようにソファに腰を下ろす。
    「なんだ。ただの大福か。君は本当に甘いものが好きだよな」
    「ただの大福じゃないよ。これは、苺入りの大福なんだ。あんこの甘さだけじゃなくて、苺の酸っぱさも味わえるんだよ」
     乗り気ではない彼を引き留めるように、僕は慌てて声をかける。彼が興味を失ったことも、分かると言えば分かるのだ。そもそも、ルチアーノは大人びた好みをしているから、甘いものはあまり好きではない。なんとかして食べてもらうためには、真剣に説得する必要があるだろう。
    「それくらい分かってるよ。全く、人間は変なものを考えるよな。苺一粒をまるごと包んだら、食べづらくて敵わないじゃないか」
     頭だけでこちらを振り向くと、彼は呆れた声で言う。彼の冷静な発言も、言われてみれば一理あった。いちご大福ほどのサイズのある食べ物は、一口ではなかなか食べられない。だからといって、具材を別にしてしまうのは、あまりにも風情がないだろう。
    「そんなこと言わないでよ。食べづらくても、その分美味しくて華やかなんだから」
     その場凌ぎのように言葉を並べると、僕は大福に手を伸ばす。まだ柔らかい牛皮の生地を、指先で摘まんで持ち上げた。外側は薄めに作られているのか、指先には中の苺の感触が伝わってくる。わざとルチアーノに見せるように持つと、僕は再び声をかけた。
    「ほら、美味しそうだよ。ルチアーノも食べよう」
    「…………分かったよ。食えばいいんだろ」
     度重なる説得を面倒に思ったのか、彼はゆっくりとソファから立ち上がる。背凭れを跨ぐように乗り越えると、机の方へと歩いてきた。ケースの中に詰められている大福を、少し冷めた視線で見下ろす。しばらくにらめっこをした後に、片手でわしづかみにして持ち上げた。
    「ふーん。これがいちご大福か。本物も滑稽な形なんだな」
     手を動かして大福を眺めると、彼は納得したように呟く。やはり、知識として存在を知っているだけで、実物を見るのは初めてなのだろう。このいちご大福はスタンダードな形をしているから、彼の知識とも一致するはずだ。人間の世界で暮らしていくという面でも、実際に食べてみる意味はあるだろう。
     探るように何度も角度を変えると、彼はようやくそれを口に運んだ。大福からはみ出していた苺の先端を、恐る恐る口で齧り取る。小動物のように口を動かすと、表情をほとんど変えずに呟いた。
    「ただの苺だな」
    「それは、苺しか食べてないからでしょ」
     子供のような行動を取るルチアーノを見て、僕は隣からツッコミを入れる。彼の手に握られた大福には、手付かずの餡と餅が残っていたのだ。苺も少しは残っているみたいだが、半分はなくなっているだろう。一緒に食べてくれないと、いちご大福である意味がないのだ
    「仕方ないだろ。食べづらいんだから」
     頬を膨らましながら答えると、彼は大福を口に運ぶ。今度は中の苺と一緒に、あんこと大福も齧り取った。一気に半分ほどを口に入れたから、頬は食べ物でパンパンになっている。口の中のものを咀嚼すると、彼は再び呟いた。
    「甘いな」
     シンプルかつ的確な感想に、僕は思わず笑いそうになってしまう。砂糖がたっぷり入っているのだから、あんこは甘くて当然だろう。僕が彼から聞き出したかったのは、そんな単純な言葉ではないのだ。口の端に苦笑いを浮かべながらも、さらに具体的な言葉を催促する。
    「確かに甘いかもしれないけど、ただ甘いだけじゃないでしょ。苺と一緒に食べたら、甘酸っぱくていい感じにならない?」
     しかし、僕がここまで誘導しても、ルチアーノは興味を持ってくれないようだった。怪訝そうに顔をしかめると、どうでもよさそうな声で答える。
    「そんなもの、砂糖の味しかしねーよ。人間の食べ物っていうのは、どれもこれも味をつけすぎなんだ」
     吐き捨てるように言葉を吐いてから、彼は残りの大福を口に運んだ。ここまで容赦なく言われてしまったら、これ以上の感想は望めないだろう。とりあえず、食べてもらうという目的は果たしたのだから、今日はよしとするべきだろう。彼が食べきったのを見届けてから、僕も手に持っていた大福を口に運ぶ。
     苺をまるごと挟んでいる大福は、ルチアーノの言う通り食べづらかった。できるだけ大きく口を開けると、食べやすそうな場所を狙ってかぶりつく。苺と餡と餅を一緒に咀嚼すると、甘酸っぱい風味が口に広がった。
    「そっか。ルチアーノには甘すぎたんだね。……僕にはちょうどいいんだけど」
     季節の風物詩を感じながら、僕はしみじみと言葉を発する。久しぶりに食べたいちご大福は、どこか懐かしい味がしたのだ。家族揃って住んでいた頃には、母さんが買い物のお土産に買ってきてくれたはずだ。昔を思い出して懐かしくなっていると、ルチアーノが冷めた声で呟いた。
    「君は相当の甘党だからな。世間一般の男は、ここまで甘いものは食わないだろ」
    「そんなことないでしょ。男の人でも、甘党な人は甘党なんだよ」
     反論の言葉を返すと、僕は残りの大福を口に入れる。ずっと指先で摘まんでいたから、触れていた部分はぬるくなっていた。苺の下半分は酸味が強いから、甘いあんことよく合っている。しっかりと餅を噛み砕くと、一気に喉の奥に流し込んだ。
    「美味しかったね。今度は、何を買って来ようかな」
     広げたままのトレイを片付けながら、僕はルチアーノに向かって呟く。急に話を振られた彼は、心底呆れたように僕を見上げた。
    「僕の分は要らないからな。一人分だけ買ってこいよ」
     投げ捨てるように言葉を返すと、再びソファの方へと戻っていく。音を立てながら腰を下ろすと、つけっぱなしだったテレビへと視線を向けた。口では突き放すようなことを言っているが、次も僕が彼の分の食べ物を買ってきたら食べてくれるのだろう。そんなことを考えながら、僕は片付けのためにキッチンへと向かった。
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