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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチと映画館に行く話です。ルチに騙されてからかわれたいという願望の話でもあります。

    ##TF主ルチ

    映画館「なあ、映画館に行かないか?」
     テレビ画面を眺めながら、ルチアーノは唐突にそう言った。
    「映画館?」
     僕は繰り返してしまう。彼が映画館という場所に興味があるなんて、思いもよらなかったのだ。
    「映画館は、大画面で映画を見られるんだろ? いつもはDVDを見るだけだからさ、興味があるんだ」
     意外だった。ルチアーノは、人間の娯楽なんて好まないと思っていたのだ。彼は口癖のように退屈を連呼し、退屈そうに日々を過ごす。映画館に行きたいと思っているなんて、思いもしなかった。
     でも、考えてみれば、彼は映画を好んでいた気がする。多々ある映画の中でも、血の流れるスプラッタ系だけを好むのだ。DVDを渡してあげると、嬉々として再生機器にセットする。流れる血みどろな殺人風景を見て、楽しそうに笑うのだ。
     今も、画面の中では殺人鬼が大暴れしている。年齢制限のあるものらしく、その死体は生々しい。直視しないように目を反らしながら、ルチアーノへの返事を考える。
    「なんか、意外だな。ルチアーノが映画に興味を持つなんて」
     僕が言うと、彼は不満そうに口を尖らせた。真っ直ぐに画面を見つめながら、拗ねた声で言う。
    「僕だって、優秀な娯楽くらいは認めてやるさ。退屈しのぎにはなるだろ」
     ルチアーノにとって、人生は退屈の積み重ねなのだろう。その退屈を紛らわせるのなら、映画館くらいはどうということはない。
    「なあ、映画館に行こうぜ。どうせ明日も暇なんだろ?」
     ルチアーノが甘えるように誘う。いつもからは考えられないお誘いに、少し引っ掛かることがあった。
    「確かに、用事はないけど」
     僕が口ごもると、彼は間髪入れずに言葉を続ける。
    「じゃあ、決まりな。忘れるなよ」
     強引に予定を決められてしまった。ルチアーノの嬉しそうな響きを込めた声を聞いて、なんだか嫌な予感がした。

     翌日、僕はルチアーノに手を引かれていた。行き先は、繁華街の片隅に位置する大型ショッピングモールだ。この施設の中には、町で一番大きい映画館があった。
     ルチアーノは、朝からご機嫌だった。映画館に行けることが、そんなに嬉しいのだろうか。にやにやと笑いながら、僕の手を振り回す。
     映画館に入ると、周りの空気が変わった。絨毯の床を踏みしめながら、カウンターへと向かう。珍しく、ルチアーノが視線を彷徨わせた。
     カウンターの上には、電光掲示板が並んでいた。映画のタイトルと上映時間、空席情報などが示されている。そういえば、僕は映画のタイトルを知らないのだ。
    「ルチアーノは、どの映画が見たいの?」
     尋ねると、彼は掲示板のひとつを指差した。いかにもホラー映画という印象の、おどろおどろしいタイトルだった。上映時間は、今から十五分後だ。
    「この映画を、高校生が一枚と小学生が一枚でお願いします」
     カウンターに立ち寄り、チケットを買う。その様子を、ルチアーノが隣から覗き込んでいた。
    「映画館と言ったら、ポップコーンとジュースだよね。買いに行こうか」
     ルチアーノの手を引いて、フードカウンターへと向かう。
    「別に、そんなのいらないよ」
     冷たい返事が帰ってくるが、僕は知らんぷりをする。ポップコーンなんて、映画を見る時にしか食べないのだ。この機会を逃すなんてもったいないと思った。
    「ポップコーンのペアセットを、塩とキャラメルでお願いします」
     注文を告げると、カウンターの女性はメニューの片隅を指差した。
    「ドリンクはこちらから選んでください」
    「僕はコーラで。……ルチアーノは?」
     視線を向けると、ルチアーノはメニューを覗き込んだ。目線で文字を追って、中のひとつを指差す。
    「ぶどうジュース」
     会計を済ませると、女性はマシンの方へと向かった。ポップコーンを掬い上げ、ジュースとカップに注ぐ。
    「ポップコーンとジュースに千円なんて、ぼったくりだろ」
     カウンターから離れると、ルチアーノは小声で言った。僕を見つめる表情が、冷めた目をしている。
    「こういうものはシチュエーションを楽しむものだから、いいんだよ」
     答えながら、僕は椅子のある方へと向かった。ポップコーンを置いて、チケットを取り出す。片方をルチアーノに渡した。
    「小学生、か」
     印刷されている文字を見て、ルチアーノは不満そうに言う。彼は、子供扱いが嫌いなのだ。
     とはいっても、彼はどう見ても小学生だ。大人料金を払うメリットは無いし、逆に不審がられてしまうだろう。
    「建前だけだから、我慢してね」
     チケットを手に取ると、ポップコーンのトレイを持ち上げた。入り口でチケットを提示して、館内へと入っていく。
    「奥の五番シアターですね」
     入り口のスタッフが、進行方向を教えてくれた。示された通りに進んで、目的の部屋を見つける。入り口に飾られたポスターは、斧を抱えた血塗れの大男だった。PG12という但し書きも不安を煽る。
    「これって、どんな映画なの?」
     尋ねると、ルチアーノは面白そうににやりと笑った。当たり前のことを言うように答える。
    「見れば分かるだろ。ホラー映画だよ」
    「びっくりするような演出は、無いよね?」
     一番の不安を突きつけると、彼はひひっと声を上げて笑った。意地悪に笑いながら、はぐらかすように言う。
    「どうだろうな」
     なんだか、嫌な予感がする。ルチアーノが妙に乗り気だったことも、僕の中では引っ掛かっていたのだ。彼は、絶対に良からぬことを企んでいる。
    「いいから、とっとと入ろうぜ」
     服の裾を掴まれて、シアターへと入る。嫌な予感は、なかなか消えてくれなかった。
     結構広いシアターだった。平日の昼間であるこの時間帯は、ちらほらとしか席が埋まっていないが、それなりに人気のある映画なのかもしれない。
     僕たちは、後ろ側の中央の席に座った。スクリーンがよく見える位置だ。ここからなら、場内の様子も見える。
     座席に腰を掛け、ポップコーンとジュースを二人の間に置いた。スクリーンでは、映画の予告が流れている。
    「これが、映画館か。やっぱり、画面がでかいな」
     感心したようにルチアーノは呟く。席から身を乗り出すと、興味深そうに人々の様子を眺めていた。
     こんなルチアーノの姿を見るのは、いつ以来だろうか。彼が人間の文化に興味を示すところなんて、ほとんど見たことが無い。少し嬉しかった。
     ポップコーンを食べながら、上映開始を待つ。入ってくる人たちは大人ばかりで、子供の姿はルチアーノひとりしかなかった。
     しばらくすると、場内が暗くなった。マナー喚起の映像と広告が流れ、本編が始まる。冒頭のシーンが流れ出した。
     映し出されたのは、嵐の夜だった。雷が鳴り響く真っ暗な森の映像が、1分ほど続く。ドーンと音を立てて雷が落ちると、光が、ひとりの男の姿を照らし出した。ポスターに写っていた殺人鬼だ。返り血を浴び、血に濡れた斧を引きずっている。
    「ひっ……!」
     思わず声を上げそうになって、慌てて口を塞いだ。僕は、こういうびっくり系の映画が苦手なのだ。
     隣を見ると、ルチアーノがにやにやと笑っていた。やっぱりだ。嫌な予感は、的中していたのだ。
    「ルチアーノ、これって、びっくりさせるタイプの映画でしょ」
     小声で囁くと、ルチアーノは唇に指を当てた。にやにやと笑いながら、意地悪を言うように囁く。
    「映画館では静かにしろよ」
     やられた。あれほど映画を見たがっていたのは、僕を怖がらせるためだったのだ。甘えるような素振りを見せれば、僕が付いてくると思ったのだろう。
     要するに、僕は騙されたのだ。僕は彼の策にはまり、のこのこと映画館まで付いてきてしまった。
     そこから先は地獄だった。映画の中では、神出鬼没の殺人鬼が人々を狙っている。殺人鬼が現れる度に、おどろおどろしい音楽が流れ、画面におぞましい姿が映し出されるのだ。さすがに血糊はそこまでリアルではないが、音と演出はどうしようもない。僕は耳を塞ぎ、目を半分だけ開きながら、恐る恐る画面を見ていた。
     そうなれば、もうポップコーンどころじゃない。隣で楽しそうに笑うルチアーノを薄目で睨みながら、ただ時が過ぎるのを待った。

    「それにしても、最高だったな。君の反応」
     ショッピングモールのフードコートの片隅、賑やかな声に囲まれたファミリー席で、ルチアーノは僕にそう言った。
    「全然笑えないよ。本当に、心臓が止まるかと思ったんだから!」
     ポップコーンをつまみながら、僕は抗議する。紙の容器の中は、全然減っていなかった。
    「でも、いい経験ができただろ」
     ルチアーノはきひひと笑う。心から僕の反応を楽しんでいるようだ。
    「映画に行きたがってたのって、僕をからかうためだったんでしょ。意地悪だなぁ」
     非難するように言うと、ルチアーノは笑うのをやめた。不機嫌そうに鼻を鳴らして僕を見る。
    「確かに面白そうとは思ったけどさ。それだけじゃないんだぜ。映画を見たいと思ったのは本当さ」
    「だったら、ひとりで見に行けばよかったでしょ」
     僕が大人げない言葉を投げると、ルチアーノは僕の足を踏みつけた。ローラースケートが食い込む。あまりの痛さに悲鳴を上げてしまう。
    「僕は、君と映画を見たかったんだ! 悪いかよ!」
     拗ねたような、怒ったような声で言うルチアーノは、嘘を吐いているようには見えなかった。不満そうに頬を膨らませながら、真っ直ぐに僕を見ている。
    「ごめん」
     僕は謝った。せっかくルチアーノが誘ってくれたのに、疑ってしまうなんて恋人失格だ。彼は、僕だから誘ってくれたのに。
    「分かればいいんだよ」
     鼻を鳴らして、彼はそっぽを向く。ルチアーノに諭されるなんて、僕もまだまだ子供だ。もっと大人にならなくてはと思った。
    「せっかくだから、何か食べていこうか。何がいい?」
    「たこ焼き」
     リクエストを聞いて、僕は席を立つ。映画デートは、まだ終わっていないのだ。これから、たくさん楽しめばいい。
     叶うなら、もう一度映画を見に来たい。次に来るときは、映画の感想を語り合うのだ。僕の見れるホラー映画は少ないと思うけど、その辺は頑張って探せばいい。
     次は、いつ映画館に来れるだろうか。そんなことを考えて、僕はにこりと笑った。
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