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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。ルチがTF主くんの卒業文集を見てショックを受ける話です。

    ##TF主ルチ

    文集 人間は、アルバムというものを作るらしい。自身や周囲の人間の写真を撮影し、本に貼り付けて保存するのだ。中には、ポストカードや映画の半券、子供の絵を入れる人間もいるらしい。それは思い出と呼ばれ、大切にしまわれているのだ。
     僕には、その目的が分からなかった。自分の体験した記録なのに、どうしてものにして保存する必要があるのだろうか。記憶として思い出すだけではだめなのだろうか。
     そう尋ねると、彼は優しく微笑んで答えた。
    「人間の記憶は永遠じゃないんだよ。いずれ風化して、忘れてしまう。赤ちゃんの時のことなんて、ほとんどの人は覚えていないんだ。だから、記録として保存するんだよ」
     なるほどと思った。僕たちは、記憶の風化というものを知らない。一度刻まれた記憶はメモリーに保存され、何年経とうと薄れることが無いのだ。風化するという感覚は新鮮だった。
     確かに、彼の部屋にはたくさんのアルバムがある。赤ん坊の写真ばかりが貼られた大きなアルバムに、学校の卒業アルバムが二冊、ホルダーに写真を挟んだだけの、アルバム言うには簡素な冊子も、本棚の隅に何冊もしまわれている。何度か中身を見ようとしたが、彼は恥ずかしがって隠してしまった。
     人間にとって、自分の記憶にない記録というものは恥ずかしいものなのだろうか。だとしたら、彼が隠したがっている秘密を暴いてみたいと思った。
     機会ならいくらでもあった。彼が風呂に入っている間に、僕は彼の部屋の本棚を探った。小学校の卒業アルバムを引っ張り出し、中の写真を見る。今よりもかなりあどけない顔をしているが、確かに彼だと分かる少年の姿が、名前の上に印刷されている。表情が妙に間抜けで、ついつい笑ってしまった。
     ページを捲り、彼の記録を追う。運動会の集合写真に映る姿、修学旅行のページで友達とポーズをとっている姿、学園祭の演劇で主要キャラを演じている姿、卒業式の集合写真…………。
     それは、僕の知らない彼の姿だった。見ようと思えばいつでも覗ける、でも、今という時代からは記録となってしまった彼の姿。いずれ風化して、彼すらも忘れてしまう彼の姿だった。
     アルバムの後ろの方には、モノクロ印刷された薄い用紙のページがが挟まれていた。広げてみると、活字印刷された拙い文章が並んでいる。ひとつに目を通すと、将来の夢についての話が綴られていた。どうやら、クラスの文集のようだった。
     僕はにやりと笑った。ここには、、小学生の頃の彼が書いた文章が記録されているのだ。子供の書いた文章なんて、面白いに決まっている。からかいのネタになりそうだと思った。
     僕はページを捲った。子供たちの名前の中から、彼のものを探す。見慣れた名前を見つけると、嬉々として文章に目を走らせた。

    『僕の将来の夢は、プロのDホイーラーになることです。テレビに出ているデュエリストみたいに、見ている人みんなに笑顔になってもらえるような、そんなデュエルがしたいです。そのためにネオドミノシティに出て、デュエルの勉強をしたいです。…………』

     息が詰まるような思いがした。彼の将来の夢は、真っ当なデュエリストだったのた。僕と一緒にいては絶対に叶わないような、キラキラした存在だったのだ。
     彼と出会った時のことを思い出す。彼は、この町に来てすぐに遊星たちと親しくなったのだという。僕は、彼が不動遊星と関わったのはデュエリストとの縁を作るためだと思っていたが、どうやら違っているらしいのだ。
     彼は、遊星のデュエリストとしての資質に惹かれているのではないだろうか。カードを信じ、真っ直ぐに戦い、奇跡を起こすデュエリストである不動遊星を、彼は美しいと思ったのではないだろうか。それは、僕とは正反対の姿勢だった。
     アルバムを閉じ、呆然と表紙を眺める。校舎の写真と、卒業生らしい子供たちの写真が映っている。そこに並ぶ幼い彼は、純粋な瞳をしていた。
     不意に、背後から足音がした。部屋の入口から、青年が姿を現す。僕の手元にあるアルバムを見て、非難するような声を上げた。
    「ちょっと、勝手に見ないでよ。恥ずかしいでしょ」
     いつもなら、ここで何かを言い返しているだろう。本棚などという目に付きやすいところにアルバムを置いているのだから、見られても仕方がない。でも、あの文章を見た後では、言い返す気など起きなかった。
     彼はアルバムを取り上げた。何も反応のない僕を訝しんでいるのか、そっと顔を覗き込む。その瞳は子供のように純粋で、イリアステルという組織には、少しもそぐわなかった。
    「君は、良かったのかよ」
     僕は呟いた。彼が、不思議そうに僕を見つめる。視線が合わないように目を反らして、僕はアルバムを見つめた。僕の視線を追って、彼が納得したような顔つきをする。
    「イリアステルに荷担したら、真っ当なデュエリストにはなれない。君の夢は、そこで潰えることになるんだ。君は、それでいいのかよ」
    「いいよ」
     彼は答えた。即答だった。
    「確かに、僕の将来の夢はプロのDホイーラーになることだった。でも、今はそうじゃないんだ。ルチアーノのことを好きになった時から、僕の夢は変わったんだよ。ルチアーノとずっと一緒にいることが、今の僕の夢なんだ」
     彼は語る。まるで、当たり前のことを言うような態度に、少しだけ面食らってしまう。この男は、 どこまでも僕の理解を越えていた。
    「君って、本当に変なやつだよな」
     この男は、変だ。普通では選ばないような選択を自分の意志で選び取ってしまう。せっかく手に入れた有名人とのコネを、簡単に捨ててしまうくらいに、僕のことを信じているのだ。
    「ありがとう」
     僕の言葉を聞いて、なぜか彼はお礼を言った。褒め言葉だとでも思ったのだろうか。だとしたら、本当に変なやつだ。
     僕は、この男の思考を理解できない。なぜ、彼はここまで僕を好きになってくれるのだろうか。全知全能を知るこの身にとって、分からないということは何よりも怖かった。
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