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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。TF主くんが遊星と関わることにけじめをつける話。TF主くんの思考フェイズとルチとの喧嘩フェイズが無駄に長いです。

    ##TF主ルチ

    けじめ 僕は、遊星の元を尋ねていた。Dホイールの調整をするのに、アドバイスを貰おうと思ったのだ。遊星はDホイールに詳しい。遊星号は自分で作ったものらしいし、仲間のDホイールのメンテナンスもしているのだという。遊星に聞けば、大抵のことは教えてもらえた。
     僕とルチアーノは、ライディングデュエルの大会に出場することになった。アマチュアの非公式大会だが、大会であることには変わりない。Dボードを披露するために、ルチアーノがエントリーしてきたのだ。
     僕のDホイールは、大会向けではない。性能の面で、規約から外れているところがあるのだ。元々貰い物で、元の持ち主は趣味で使っていたらしいから、持ち主の好みが反映されているのだろう。そこを直さなくては、大会に出ることすらできない。そこで、遊星に相談したのだ。
     Dホイールを持っていくと、彼は快くメンテナンスに応じてくれた。なかなか見ない仕様なのか、珍しげに内部をいじっている。
     一通り内部を検分すると、遊星は顔を上げて額の汗を拭った。コンピューターを起動すると、内部構造を表示させる。
    「Dホイールの改善点についてだが、エンジンの交換と機体の縮小から手をつける必要があるな」
     モニターを指し示しながら、遊星は問題点を説明する。僕には、何がなんだか分からなかった。Dホイールのことは、僕にはさっぱりなのだ。エンジンの構造を見せられても、入り組んだシステムであることしか分からない。
     僕の様子を見かねたのか、彼は手書きのリストを作り始めた。さらさらとペンを動かして、文字列を書き上げていく。
    「改善が必要な点については、俺の方でまとめておく。お前は、必要なパーツを買ってきてくれ」
     手渡されたメモを見て、僕はびっくりしてしまった。そこには、商品名とメーカー、販売店舗に及ぶまでが綺麗にまとめられていたのだ。こんな短時間で必要なものをまとめられるなんて、さすが天才メカニックだ。
    「すごいね。見ただけで必要なものが分かるなんて」
    「まだ、全て分かっているわけではない。これから必要になるものは、おいおい買っていこう」
    「ありがとう。助かるよ」
     遊星に調査を任せて、僕は買い物に出ることにした。リストを鞄に詰めて、建物を出る。
     店の場所は知っていた。遊星と買い物に出掛けたときに、何度か立ち寄っていたのだ。店内看板を見ながら、目的のアイテムを探す。いつもは遊星が案内してくれるから、探すのに手間取ってしまった。なんとか見つけ出して、次のパーツに移る。
     遊星は、僕がなんのためにDホイールを整備しているのか理解しているのだろう。敵に塩を送ることになると分かった上で、僕に協力してくれているのだろうか。だとしたら、彼はなんてお人好しなのだろう。
     僕がルチアーノとパートナーを組んでいることは、ネオドミノシティのデュエリストなら大半が知っている。彼と組むようになってからそれなりの時間が経っているし、今のルチアーノは有名チームのメンバーなのだ。僕の存在はインターネットで噂になっているらしいし、遊星たちも把握しているはずだった。
     遊星とルチアーノは敵対している。ルチアーノにとって、シグナーは彼らの目的を阻止する邪魔者らしい。詳しいことは分からないが、ルチアーノの所属する組織は、この町の秩序を脅かそうとしているらしい。
     遊星は、この町を守ろうとしている。町を愛する遊星にとって、ルチアーノたちの計画は見過ごせない悪なのだろう。当たり前だ。自分の守るべき町の秩序を乱して、人々に危害を加えようとしているのだから。
     でも、僕には、ルチアーノが悪いことを企んでいるようには見えなかった。確かに、彼は恐ろしい男の子だ。平気で人に危害を加えるし、鋭い言葉で敵意を剥き出しにする。僕だって、最初は彼が怖かったくらいだ。ただ、それは表面上のものでしかなかったのだ。
     ルチアーノはずっと真剣なのだ。神と崇める存在の目的のために、ただ一心に任務をこなしている。真面目に働くその姿は、悪い人には見えないのだ。
     だから、遊星は僕とルチアーノの交流を黙認しているのだろう。他のシグナーたちはルチアーノを見ると嫌な顔をするけれど、遊星だけは普通に受け入れてくれる。彼も分かっているのだ。ルチアーノの本質が悪ではないということを。
     でも、どうして遊星は受け入れてくれるのだろうか。彼にとってもルチアーノは敵のはずである。敵を友人の友人として受け入れるなんて、なかなかできることではない。彼の育ちがそうさせるのだろうか。
     考えているうちに、よく分からなくなってきた。僕は、このまま遊星と友達でいてもいいのだろうか。イリアステルとしてのけじめを、明確につけるべきだろうか。僕はもう引き返せないところまで来ているのだ。このまま、遊星に頼ってばかりではいられない。
     気がついたら、目的のアイテムは揃っていた。考えていても仕方ない。今は、約束をきちんと果たすだけだ。
     買い物を終えると、歩いてポッポタイムへと向かった。いつの間にか、すっかり日が暮れていた。時間を忘れてしまっていたのだ。
     遊星は、まだコンピューターに向かっていた。真剣な顔で、画面の中の設計図を眺めている。
    「遊星」
     声をかけるが、聞こえていないようだった。手を目の前にかざしてから、肩を軽く叩く。
    「遊星、買ってきたよ」
     彼は、ようやくこちらを振り向いた。買い物袋を手渡す。
    「ああ、ありがとう」
    「お礼を言うのはこっちの方だよ。…………解析は順調?」
    「いいペースで進んでいる。明日には終わるだろう」
     さすがは遊星だ。こんな短時間でDホイールのシステムを理解してしまうとは。
     でも、僕の用事に時間を使わせてしまうのは申し訳ない。僕は、彼の敵に当たるのだから。
    「遊星だって大会に出るんだから、無理に僕のお願いを優先しなくてもいいからね」
     僕が言うと、遊星は神妙な顔でこちらを見た。いつもよりも明るい語調で答える。
    「いや、やらせてくれ。こんなDホイールのメンテナンスをする機会なんて、めったにないからな」
     僕のDホイールは、そんなに面白いシステムなのだろうか。自分ではよく分からなかった。
    「それならいいけど……」
     なんだか釈然としないが、遊星が納得しているなら良しとしよう。大事なのは本人の意思なのだから。
    「ところで、こっちの袋はなんだ?」
     遊星が持ち上げたのは、レジ袋だった。中には惣菜やカップ麺が入っている。
    「そっちは、僕からの差し入れだよ。メンテナンスをしてもらったお礼」
     袋の中を確かめると、遊星は申し訳なさそうな顔をした。
    「悪いな」
    「気にしないでよ。いつもお世話になってるから、お礼がしたいんだ」
     遊星は、袋から惣菜を取り出すと、テーブルの上に並べた。カップ麺は、ジャックのコレクションの中に加える。棚から箸を取り出すと、僕に声をかけた。
    「良かったら、一緒に食べていかないか?」
     実を言うと、僕はこれで御暇しようと思っていた。いつもなら、ルチアーノが家に来ている時間帯だ。帰りが遅くなったら、何を言われるか分からない。
     しかも、相手は遊星なのだ。ルチアーノは遊星を敵視している。修羅場は避けられないだろう。
    「僕は、そろそろ帰ろうと思うんだけど……」
    「そう言わずに、食べていってくれ。Dホイールについて話したいこともあるんだ。」
     遊星が食い下がるなんて珍しい。よほど重要な話をするのだろうか。そう思って、食事に応じることにした。
    「分かったよ。詳しく聞かせて」
     遊星は、Dホイールの細部までを細かく調べてくれたらしい。彼いわく、僕のDホイールはエンジンが独特な仕様になっているらしい。機体もかなり大きく、大会の規定に合わせるには、エンジンの交換から始める必要があるそうだ。
    「この大きさなら、終わるまでに三日はかかるだろうな。終わったら連絡するから、取りに来てくれ」
    「ありがとう。また、差し入れを持ってくるね」
     お礼を告げて、ポッポタイムを後にする。辺りはすっかり暗くなって、夜真っ盛りになっていた。
     遊星の元を尋ねることは、ルチアーノには告げていない。彼は嫌がると思ったし、絶対に止めに来ると思ったのだ。でも、僕は遊星にDホイールを預けたかった。僕は遊星のことを信頼していたし、大切なものなのだからこそ、大切な友達に託したかったのだ。
     家に帰ると、ルチアーノが待ち構えていた。僕の前に立ち塞がって、真っ直ぐな視線で睨み付ける。背筋に冷や汗が流れ、嫌な予感がした。
    「お帰り。ずいぶん遅かったじゃないか」
     とげの刺さった声で、ルチアーノは言う。背筋が凍るほどに冷たい声だった。思わず、唾を飲み込む。
    「ちょっと用事があってね。いろいろやってたら、遅くなっちゃったんだ」
     僕は答えた。今、遊星のことを話すのは得策ではない。そう思って、ぼかした答えにした。
     ルチアーノは冷たい瞳で僕を射抜く。心臓がどくんと鳴り、嫌な汗が流れた。
    「そうか。それは、僕に言えないようなことなんだな」
     かなりまずい状況だ。ルチアーノの怒りは頂点に達しているらしい。言葉から、怒りと圧が滲み出ている。絶体絶命だった。
    「知ってるんだぜ。君が僕に内緒で不動遊星と密会してたことくらい。Dホイールのメンテナンスを依頼して、一緒に食事をしたそうじゃないか。さぞかし楽しかったんだろうね」
     問い詰めるような口調で、ルチアーノは僕を追い詰める。冷や汗が止まらなかった。発信器をつけられている以上、彼から逃れることは不可能なのだ。
    「遊星に会ってたって言っても、遊びじゃないよ。Dホイールの整備を頼んだのは、大会のためなんだ」
    「君は、敵に大切なDホイールを託したのかい? いずれ戦うかもしれない相手に、Dホイーラーの魂とも言えるものを?」
    「ルチアーノにとっては、そうかもしれないね。でも、僕と遊星は友達なんだ。信頼してるからこそ、託したんだよ」
    「そんなこと言って、万が一細工でもされたらどうするんだよ」
     ルチアーノの言葉は、僕の逆鱗に触れてしまった。怒りで、顔が熱くなる。思わず、強い語調で言い返してしまった。
    「遊星は、そんなことなんてしない!」
     口に出してから、しまったと思った。ルチアーノが顔を歪める。怒っているようで、泣いているような、奇妙な表情だった。
    「何で、不動遊星なんだよ!なんで、あいつなんかに大切なDホイールを預けたんだよ!いつもいつもいつも、君は遊星ばっかりだ! 僕は、君のパートナーなのに! 僕にだって、Dホイールの整備くらいできるのに!」
     その言葉で、ようやく僕は気がついた。彼が何に怒っているのかを。僕が、彼に対して何をしてしまったのかを。
     ルチアーノはイリアステルの幹部で、アンドロイドだ。身体は機械でできているし、機械のことにも詳しい。Dホイールのメンテナンスくらい朝飯前なのだろう。
     彼は、信じていたのだ。Dホイールを託されるのは、パートナーである自分だと。
     僕は、本当に馬鹿だ。こんなに近くに頼れるパートナーが居たのに、その事に気づけなかったのだから。僕は、恋人失格だ。謝っても、許されないことをしてしまった。
    「ごめん」
     謝ると、ルチアーノは鋭い視線で僕を見た。顔を歪めたまま、怒りに任せて僕を睨む。
    「謝ったって、許してやらないからな」
    「本当に、ごめんね」
    「何回言わせるんだよ。許さないって」
    「本当に、気づかなかったんだ。お仕置きなら受けるから、許してくれる?」
     たぶん、彼は頷かないだろう。だって、僕はあまりにもひどいことをしてしまったのだから。
    「ひとつだけ、条件がある」
     しばらく黙った後で、ルチアーノは口を開いた。瞳は冷たい光を宿し、口元は狂気に歪んでいる。
    「それを飲むなら、許してやってもいいぜ」
     嫌な予感がした。また、無理難題を押し付けられるのだろうか。痛いことをされるのかもしれない。
    「条件は、何?」
     尋ねると、ルチアーノはゆっくりと口を開いた。単語を噛み締めるように、言葉を告げる。
    「不動遊星と絶縁しろ」
     僕は、心臓が凍りつく思いだった。遊星は、僕の恩人だ。絶縁なんてできなかった。
    「それはできないよ」
     僕は答える。その言葉を聞いて、ルチアーノが寂しそうな顔をした。心底気づついた顔で、床に視線を落とす。
    「やっぱり、君はシグナーの味方だったんだな」
    「そうじゃないよ。」
     僕の交遊関係は、僕が決めることだ。彼の要件を飲むことはできない。でも、このままではいられないことくらい、馬鹿な僕にも分かるのだ。
    「僕の友達は僕が決めることだから、遊星と絶縁することはできない。でも、ちゃんとけじめはつけるから」
     遊星とルチアーノは敵対している。それは、僕が彼らと出会った時から決まっていたことだった。遊星はルチアーノを敵視してはいないが、ルチアーノの所属する組織と対立している。そして、当のルチアーノは、遊星という存在を嫌っているのだ。
     僕は、ずっと曖昧な立場だった。遊星との交流を続けながら、ルチアーノとパートナー関係を結んでしまったのだ。どっちつかずでも許されるのをいいことに、現状を改善しようとしなかった。
     でも、それではダメなのだ。これから、戦いが始まる。そうしたら、僕と遊星は敵同士になる。いつまでも、仲の良い友達ではいられないのだ。
    「僕は、もう中途半端にはならないよ。イリアステルとして、ルチアーノと一緒に戦う。ちゃんと、けじめをつける」
     そう言うと、ルチアーノは少しだけ表情を緩めた。口元をにやりと歪めて、突きつけるように言う。
    「その言葉、メモリーに刻んでやったからな。忘れるなよ」
     僕は、もう後戻りできないのだ。遊星たちの敵として、彼らと戦わなくてはいけない。それが、僕にとってどれだけ辛いことになるかは、想像したくなかった。
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