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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチが子供限定の特典をもらって複雑な気持ちになる話です。

    ##TF主ルチ

    ボーナスパック 外に出ると、驚くほど人が多かった。繁華街は人の海に染まり、子供の手を引いた大人たちが、駅から溢れるように飛び出してくる。ショッピングビルが並ぶ大通りは、若者の姿で溢れていた。
     僕はルチアーノの手を取った。人が多くて、はぐれてしまいそうだったのだ。彼も同じことを考えていたのか、人前でも大人しく僕に手を引かれている。人の隙間を通り抜けながら、カードショップの建つ路地へと入った。
     路地は、大通りほど人がいなかった。路地に並んでいるのは、小さなカードショップや飲食店ばかりだ。子供が行くようなところではないのだろう。
    「すごい人だね。何かイベントでもあるのかな?」
     僕はルチアーノに声をかけた。ここには、大通りの喧騒は届かない。普通に話しかけても、声は届いてくれた。
    「何って、世間の子供たちは夏休みってやつなんだろ? 子供が溢れていても、何もおかしくはないせ」
     そう言われて、僕はようやく思い出した。七月の終わりになると、学校は夏休みに入るのだ。学業から解放された子供たちが、親と共に遊びに来ていてもおかしくはなかった。
    「そっか。もうそんな季節か」
     僕は呟く。自分もつい数年前まで夏休みに一喜一憂していたはずなのに、すっかり忘れていたのだ。
    「なんで忘れるんだよ。君だって学生だったんだろ?」
     ルチアーノは呆れた声で言う。ごもっともな意見に、何も反論ができなかった。
     階段を登って、目的の店舗へと上がっていく。ここのお店は、価格設定が他のお店よりも安い穴場なのだ。必要なカードを集めるために、時々利用するお店だった。
     入り口を入ると、最新パックのポスターが視界に入った。そういえば、今日は最新弾の発売日だ。せっかくだから、一箱買っていくことにする。
    「君って、しょっちゅうパックを買ってるよな。そんなに集めて、全部使うのかよ」
     購入用の札を手に取る僕を見て、ルチアーノが呆れたように言う。
    「カードには、そのカードだけの使い道があるんだよ。持ってると、いつかは使う時が来るかもしれないんだ」
     ルチアーノのデッキは、神が授けたものなのだと言う。構築済みのデッキで戦ってきた彼には、デッキのカードを変えるという発想がないのだろう。この町の住人はほとんどがシンクロモンスターを使うし、それで困ることはなかったのだ。
    「ふーん」
     彼は気の抜けた返事をした。あまり興味がないのだろう。その話はそこで終わりにすることにした。
     シングルカードとダミーの札を手に取ると、レジへと並んだ。隣には、ルチアーノが付いてきている。いつもなら先に外に出ているのに、珍しい行動だった。
     会計済ませると、お店の人が何かを取り出した。印刷面の表記を確認すると、ボックスの上に乗せてこちらに示す。よく見ると、黄色いカードパックであるようだった。
    「こちらは、中学生以下のお子さまにお配りしているカードパックになります」
     そう言うと、店員さんはカードとボックスを袋に入れた。
     僕はルチアーノの方に視線を向けた。彼も、同じように僕に視線を向ける。一瞬だけ視線が噛み合った。
    「こちらが商品になります」
     レジ袋の持ち手を差し出されて、慌てて受け取った。店員さんにお礼を言うと、ルチアーノを引き連れて外へ出る。路地裏へ出ると、受け取ったばかりのレジ袋の中を見た。
    「何かもらったね」
     そう言って、袋から黄色のパックを取り出した。袋には、キャンペーンの名前が書かれている。
    「デュエルモンスターズ購入特典第四弾? なんだよ、これ」
     隣でルチアーノが呟いた。カードパックを買うことが無いからか、こういう知識には疎いらしい。
     僕は端末を起動すると、デュエルモンスターズのサイトを開いた。イベントの項目を開いて、パックに書かれているキャンペーンを探す。
    「これだね」
     端末を差し出すと、ルチアーノにキャンペーンの詳細を見せた。見出しには、中学生以下のお子さまにボーナスパックをプレゼント、と書かれている。
     どうやら、このキャンペーンは今日から始まったものらしい。中学生以下の子供かその親がパックを購入すると、特典のボーナスパックをもらえるようなのだ。夏休みを意識したイベントだった。
    「中学生以下、か」
     画面を見ながら、ルチアーノが呟いた。少し刺を含んでいるところを見ると、複雑な気持ちなのだろう。
    「ルチアーノは、子供の見た目をしてるからね。仕方ないと思うよ」
     僕は言う。ルチアーノの精神は子供ではないが、その姿は子供そのものなのだ。少女のように愛らしい顔も、筋肉の少ないしなやかな身体も、凹凸のない細い手足も、未成熟な人間特有のものだった。
    「なんだよ。君も僕のことを子供だって言うのかい? 君の方がずいぶん子供な癖に」
     不満そうに言うと、ルチアーノは唇を尖らせた。僕から顔を背けると、スタスタと歩き始める。パックを袋にしまうと、慌ててその後を追った。
    「カードパックは要らないの?」
    「そんなもの、僕には不要だよ。僕には、神から授かったデッキがあるんだから」
     そう語るルチアーノは、どことなく自慢気だった。神様の話をする時、彼はいつも誇らしげな顔をするのだ。彼にとって、神は絶対的で神聖な存在なのだろう。
    「そう。なら、僕がもらおうかな」
     パックにどんなカードが入っているかは分からないが、ボーナスパックというくらいだから、特別なカードなのだろう。何かの記念にはなりそうだった。
     それよりも、僕にはひとつ気になることがあったのだ。ホームページには、パックを購入した中学生以下のお子さまか、パックを購入した方の中学生以下のご家族の方と書かれている。つまりは、店員さんから見て家族に見えるグループが、このパックをもらっていることになるのだ。
     店員さんは、何の質問もなく僕たちにパックを渡してくれた。僕たちは外見も似ていないし、親子には見えない歳の差だ。それなのに、僕たちはパックをもらえたのだ。作業的に渡しているだけなのかもしれないが、ルチアーノと家族だと思ってもらえたみたいで、少しだけ嬉しかったのだ。
    「何にやにやしてるんだよ。気持ち悪いな」
     いつも間にか僕の隣にいたルチアーノが、少し引いているような声を出した。視線を前に向けたまま、黙って僕の手を取る。
    「ちょっと、嬉しくてさ」
     答えると、僕はしっかりとルチアーノの手を握り返した。この路地裏を抜けたら、人で溢れる繁華街に戻るのだ。はぐれてしまってはいけないから、そばにいる必要があった。
     帰ったら、一番にボーナスパックを開けよう。そう思いながら、僕たちは次の目的地に向かったのだった。
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