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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチが帰り道にTF主くんと会って一緒に帰る話。過去に書いたけど上げてなかったものの供養です。

    ##TF主ルチ

    帰る場所 治安維持局の外に出ると、空が赤く染まっていた。まだ五時前だというのに、日が暮れようとしているのだ。太陽は高層ビルに隠されていて、ここからでは少しも見えない。吹き付ける風の冷たさが、季節の移り変わりを感じさせた。
     すっかり遅くなってしまった。予定通りであれば、日が陰る前には用事を済ませることができたのに。手際の悪い人間がもたもたしているうちに、いつの間にか景色が変わっていた。通りは学生やサラリーマンの姿で埋め尽くされ、賑やかな声が聞こえている。楽しそうに練り歩くスーツ姿の集団は、飲み会へ向かっているのだろうか。それほど時間が経たないうちに、この町は夜に染まってしまう。
     夜が嫌いだった。真っ暗で、冷たくて、寂しさを感じさせる空気が。夜の空気というものは、この身に植え付けられた絶望を思い出させる。かつて一人で彷徨った世界は、夜のように暗くて冷たかった。
     僕は、繁華街を横切るように歩きだした。町を歩いていく大人たちが、ちらりと僕に視線を向ける。迷子と思われて声をかけられるかと思ったが、そのような人間は一人もいなかった。
     制服姿の二人の子供が、僕の隣を通りすぎた。大きい声で笑いながら、スカートの裾を揺らしている。隣を歩く女が抱えるのは、大きなぬいぐるみだ。近くにゲームセンターがあるから、そこで取ったのだろう。向こうから歩いてくるのは、スーツ姿のサラリーマンだ。耳に電話を当てて、何かを話している。小走りで走っているのは、急ぎの用事だろうか。
     角を曲がると、大学生らしき男の群れにぶつかりそうになった。一番端にいた男が、慌てた様子で身を引いている。一瞬だけ僕を見ると、大声で話しながら仲間の後を追った。
     彼らは、これから家へと帰るのだろう。家族にただいまを告げて、家族の作った食事を食べて、一家団欒を楽しむのだ。彼らの顔は晴れやかで、少しだけ輝いて見えた。
     誰もが、自分の帰る場所へと帰っていく。温かい家庭に。自分を愛してくれて、愛している人の元に。僕にはない、暖かな光の中に。
     気がついたら、小さな公園へと辿り着いていた。僕がたまに訪れる、人気の無い忘れ去られた公園だ。いつの間にか、日は完全に暮れていて、黒色が周囲を覆っている。街頭がひとつもないから、園内は真っ暗だった。
     僕は、ブランコに腰をかけた。暗闇に身を委ねて、小さく息を吐く。
     この場所の空気は、似ている。かつて僕が生きていた、破滅の未来に。人類が死に絶え、壊滅した世界の空気に。
     その世界で、『僕』は転々と旅をしていた。襲撃から生き延びた人々と徒党を組み、町から町を渡って食糧や武器を得ていたのだ。その中で訪れた公園に、ここはそっくりだった。
     町の片隅を切り裂いたような小さな園内。砂地ばかりで何もない、無の象徴のような土地に、一つだけ添えられているブランコ。運良く襲撃から生き残ったであろうその場所は、生きているのに死んでいるみたいだった。
     この場所にいると、僕は思い出してしまう。両親を失った悲しみを。たった一人で生き延びた孤独を。その頃の『僕』は、死んだような顔で日々を生きていた。僕には帰る場所なんて無かったし、迎えてくれる家族もいない。この世で一人きりになったような気持ちだったのだ。
     空虚に襲われながら、僕はブランコを漕いだ。両足が宙に浮かび、身体が前後に揺れる。冷たい風が、身体の横を通り抜けた。
     帰りたくないと思った。僕には、帰る場所が無いのだ。温かい家も無ければ、迎えてくれる家族もいない。あるのは、僕らの拠点である玉座の間だけだ。二人の、仲間と言えるのかも分からない存在が座っているだけの、無機質な空間。そんなところに帰っても、却って気を使うだけだ。
     いや、本当は、ひとつだけあるのだ。僕を受け入れてくれる場所が。そこは常に光に満ちていて、優しい暖かさで僕を包み込んでくれる。僕を愛してくれる存在が、帰りを待っていてくれるのだ。
     だから、この気持ちは孤独を恐れているのではない。僕には帰る場所があって、そこに行けば、僕は町を行く人間たちのように温もりに触れることができるのだ。これまでのように孤独を恐れることは無いし、拒む必要もない。僕は、今までの僕とは違うのだ。
     それなら、僕は何を恐れているのだろう。
     その答えは、どこにもなかった。しばらくすると、僕はブランコから立ち上がる。あまり遅くまで外を出歩いていると、ただの子供と勘違いした人間から補導を受けるのだ。そんな不快感を味わうくらいなら、とっとと町を去ろうと思った。
     公園から出ると、気まぐれに繁華街へと向かう。特に目的は無いと言いたいところだが、本当は一つだけあるような気がした。さっきよりも人の増えた町を当てもなく歩いて、その人物がいないかを探してみる。
    「ルチアーノ」
     背後から聞こえたのは、聞き慣れた青年の声だった。僕のタッグパートナーであり、自称恋人という、物好きの極みのような人間である。彼は恐怖すら感じるほどに僕を愛していて、こうして姿を見つけると声をかけて来るのだ。
    「なんだよ」
     答えると、彼は嬉しそうに笑った。僕の隣に並ぶと、足並みを揃えて歩き始める。
    「今、帰り?」
    「そうだけど」
    「じゃあ、一緒に帰ろうか」
     言いながら、彼は僕の手を握った。流れるような手付きに、少し心がざわつく。初めて手を繋いできた時にはあんなに挙動不審だったのに、いつの間にここまで慣れたのだろう。
     しっかりと手を握って、僕たちは彼の家へと向かっていく。ワープを使えば一瞬なのだが、そんな気持ちにはならなかった。
     町は、相変わらず家路を急ぐ人々で溢れ返っていた。時刻も遅くなって、酔っぱらいやサラリーマンの姿が目立つようになっている。制服姿の子供たちは帰った後なのか、あまり姿を見かけない。その代わり、大学生くらいの若者たちが増えていた。
    そういえば、今日は金曜日の夜なのだ。一週間の労働が終わり、二日の休みが始まる楽しい晩なのだろう。
     繁華街を出ると、辺りは一気に静かになった。静寂に身を委ねながら、黙って家へと向かっていく。下ばかり向いているのも味気なくて、視線を上に向けてみた。
     そこには、一面の星空が広がっていた。雲は一つも見当たらなくて、遮るものは何もない。キラキラと輝く点々だけが、そこで光を発していた。
    「おい、見ろよ」
     彼の手を引くと、天空に指先を向ける。彼も、同じように空を見上げた。
    「星だ。綺麗だね」
     チープな褒め言葉を発して、彼は足を止める。仕方ないから、僕も並んで足を止めた。
    「見えるか、あの赤い星は、火星なんだ。遥か昔から、宇宙人が居ると言われている惑星だな」
     説明すると、彼は興味深そうに空を見る。そのまま、いくつか星の名前を上げていった。
    「すごいね。ルチアーノは物知りだ」
    「これくらいは、データがあれば誰にでも分かるだろ」
     答えながら、僕は再び歩を進める。少し遅れて、彼が僕の後を追ってきた。しっかりと手を繋いで、町行く人々と同じように家路を急ぐ。
     もう、虚しさは感じなかった。柔らかい温もりだけが、ただ、僕の胸を満たしていた。
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