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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。今日は節分でしたねという話です。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    節分 繁華街の広場から、賑やかな声が聞こえてきた。視線を向けると、広場の中央に子供たちが集まっている。上の方に見える看板には、『節分』『鬼退治』という文字が並べられている。そういえば、今日は節分だったと、今さらになって思い出した。
     ルチアーノの手を引くと、子供たちの輪に近づいていく。そこでは節分にちなんだイベントが開催されているようだった。鬼の着ぐるみを来た大人たちに、子供が豆を模した柔らかいボールを投げつけている。参加した子供には、小さなお菓子がもらえるみたいだった。
     着ぐるみも中身は人間なのだが、子供たちはそんなことなどお構いなしにボールを投げつける。あまりの勢いに、入場管理のスタッフが『強く投げないでください』と声をかけていた。しかし、子供には対して効果が無いようで、バシバシと痛そうな音が続くばかりだ。
     着ぐるみは大変そうだと思いながら隣を見ると、ルチアーノが広場に視線を向けていた。彼にしては珍しく、興味深そうな表情を浮かべている。ふと思い付いて、その横顔に声をかけた。
    「もしかして、やりたいの?」
     彼は、怪訝そうに眉を潜めた。ちらりと僕を見上げると、不満そうに声を尖らせる。
    「はあ? なんで僕が」
    「だって、広場の方を見てたでしょ。やりたかったら、参加してきていいんだよ」
    「やるわけないだろ。あんなガキっぽいこと」
     ルチアーノは否定するが、僕は聞き入れるつもりなどなかった。人生というものは、何事も経験なのだ。ルチアーノは人間の文化を知らないから、興味を持ったことは何でも経験させてあげたい。彼の手を引っ張ると、広場の中央へと向かった。
    「おい、いいって言ってるだろ」
     耳元で囁きながらも、彼は大人しくついてくる。無理矢理振り払って悪目立ちするよりは、従った方がいいと思ったのだろう。広場の正面へと向かうと、スタッフの男性と目が合った。
    「お次の方、どうぞ」
     にっこりと微笑みながら、男性が僕たちに声をかける。端から見た僕たちは、小学生と付き添いの若者なのだろう。周りは親子連ればかりだから、余計に目立つようだった。
     声をかけられてしまったら、さすがのルチアーノも逃げることはできない。しぶしぶといった態度で僕の元を離れ、スタッフからボールを受け取った。ゆらゆらと揺れている鬼の着ぐるみに、優しい手つきでボールを投げる。
     見事な手加減だった。ゆったりとした動きでボールを投げ、着ぐるみの表面に当てている。僕と遊ぶときは全力投球なのに、いつもの態度が嘘のようだった。
     ボールを全て投げ終えると、お菓子の袋を受け取って戻ってくる。広場から離れると、もらったばかりのお菓子を握らせてきた。
    「これ、やるよ。僕には必要ないからな」
     それは、よくある個包装の豆菓子だった。三角形に膨らんだ袋の中に、二十粒くらいの豆が詰められている。子供が節分に食べるにはちょうどいいサイズだ。
    「ルチアーノは食べないの? 福豆は健康祈願でもあるんだよ」
     声をかけるが、ルチアーノは少しも興味を示さない。真っ直ぐに前を向いたまま、迷いの無い足取りで先へと進む。
    「健康なんか祈願しなくても、僕は体調を崩したりはしないぜ」
     それは一理あるのだが、僕の言いたいことはそうではないのだ。健康祈願というものは神頼みのようなもので、実際に健康になるかどうかは関係ない。でも、それを伝えるには、僕の言葉では足りない気がした。
     結局何も言い返せずに、僕たちは少し離れたところにあるスーパーへと向かった。繁華街に来たのは、夕食を買うためだったのである。
     スーパーの店内も、節分一色に染まっていた。入り口には福豆が並べられ、鬼のお面がぶら下がっている。お惣菜コーナーでは、恵方巻がずらりと並べられていた。
    「せっかくだから、恵方巻を買っていこうか」
     一面に並ぶ巻き寿司を眺めながら、僕はルチアーノに声をかけた。冷蔵ケースに視線を向けたまま、彼は淡々と答える。
    「それなら、僕に選ばせてもらうからな。君が買ってきた恵方巻は、具材が庶民的過ぎたからな」
    「庶民的って…………あれが伝統の味なんだよ」
     僕の言葉を無視して、ルチアーノはケース内を一瞥する。まぐろの巻き寿司を手に取ると、僕の方を振り返った。
    「僕は、これにするぜ」
     ちゃっかり、お値段のするものを選んでいる。出費は大きいが、年に一度のイベントだから多目に見ることにした。
    「いいよ。恵方巻は、節分の日にしか食べないからね」
     巻き寿司をカゴにいれると、僕は自分用にスパゲッティーを手に取った。お寿司に見向きもしない僕に、ルチアーノが不審そうな顔を見せる。
    「君は食べないのかよ。季節のイベントが好きなんじゃないのか?」
    「僕はこっちにするから」
     答えてから、僕はデサートコーナーを指差した。意図が掴めなかったのか、ルチアーノがさらに眉をひそめる。
    「はあ?」
    「いいから、ついてきてよ」
     彼を先導するように、僕はデサートコーナーに向かった。大きな冷蔵ケースの中には、節分のパッケージに彩られたロールケーキが並んでいる。シンプルなプレーンのものもあれば、恵方巻を模したチョコレート味や、全く関係の無いイチゴ味のものもあった。
    「ロールケーキ? この期に及んで甘味かよ」
     隣で、ルチアーノが呆れたような声を上げる。僕が無類の甘党であることは知っているはずだが、恵方巻までデザートにするとは思わなかったのだろう。
    「今時は恵方巻もデザートになるんだよ。大きめのを買うから、半分ずつ食べよう」
    「人間って、食への執着が並外れてるよな。まあ、どうしてもって言うなら食べてやってもいいぜ」
     尊大な返事をするルチアーノを横目に、僕はロールケーキをカゴに入れた。恵方巻らしいココア味の生地に、たくさんのフルーツを挟んだ、期間限定の商品である。普段なら買わないような贅沢なデザートだった。
     必要なものを揃え、レジへ向かおうとすると、ルチアーノに手を引かれた。不思議に思って振り返ると、彼は真面目な声で言う。
    「まだ、豆まきの豆を買ってないだろ。入り口に戻るぞ」
    「豆まきなら、さっきイベントでしたでしょ。豆ももらったし、それでいいんじゃない?」
    「あんなの豆まきのうちに入らないぜ。僕はもっと、全力で鬼退治がしたいんだよ」
     どうやら、彼は全力を出さないと気が済まないらしい。僕も恵方巻に付き合わせてしまっているから、大人しく豆を買うことにした。
    「少しは手加減してよね」
     頼むように言うが、曖昧な笑顔で誤魔化されてしまう。きっと、手加減などする気がないのだろう。
     会計を済ませると、しっかりと手を繋いで外に出た。まだ明るい空の下を、肩を並べて歩いていく。反対側の手には、恵方巻の入ったレジ袋が握られている。恵方巻の重みを感じながら、今年の恵方はどっちだったっけと、頭の隅で考えた。
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