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    tranquillo

    @fragola_fredda

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    tranquillo

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    恥パ後、週末だけ同棲している夜の🐞🍓
    #alldayGF2024 #GF24night

    #ジョルフー
    jorphyr

    あたたかな香り、祝福の温度 ドアを開けると、水気を含んだぬくもりがそっとジョルノの頬を撫ぜた。それまで全身を包んでいた、ひび割れるように乾いた冬の寒さが急速に塗り替えられていく。日々を積み重ねた暮らしが生む、穏やかな空間のにおい。
     血の繋がりがなくても、生きている時間を共有することで愛着と静穏が生まれるのだとジョルノが理解したのは、『彼』と暮らすようになってからだ。
     やわらかな温度を持った空気へ思いを巡らせながら、ジョルノはゆっくりと息を吸い込んだ。


     冬も夜の深い時間になると、革靴の音は石畳にやけに大きく反響する。澄み切った空気に針で穴でも開けるように、コツコツと規則正しい足音が路地の遠くまで響いていた。
     ジョルノは足早に小路を急ぐ。家々の間を縫うように左右へ不規則に折れ曲がる路を進む足に迷いはない。ろうそくの火にも似た街頭はそこかしこに灯っているものの、すでに夜も遅い時間だ。住宅街は静まり返っている。
     学生とギャングのボス、二つの顔を持つジョルノは学業のない週末に大きな仕事をこなすようルーティンを組んでいる。各地の有力者との会談、注視している案件の報告もそうだが、熟慮が必要な決裁事項もそこに含まれていた。どうしても月曜までに考えを固めておきたいことがあり、遅くまで資料と睨み合って執務室に残っていたのだ。結局、送迎の車で本部を出たのは深夜に近くなっていた。
     ギャングのボスになってからも寮の自室を使い続けていたジョルノだったが──無論、組織掌握後に自室へ通じる廊下に並ぶ部屋は権力ですべて空き部屋にした──週末に戻ることはまずない。ジョルノには自室よりも、組織が用意した豪奢な邸宅よりも、もっと大切な帰るべき場所がある。それまでも長期休暇すら実家へ帰ることが無かったジョルノの、密かに加わった新しい習慣だった。
     いまジョルノが歩いているのは、ごみごみと家が立ち並ぶ古い住宅街の路地だ。人間同士ですれ違うのもやっとの幅しかない。ジョルノの大切な『帰るべき場所』まで多少の距離があるのだが、あえて大通りから入ってすぐの地点で無理を言って降車した。迷路のような路地をゆっくりと歩いて目的地へ向かうのだ。
     ジョルノはこの時間が好きだった。──特に冬は。
     南部のネアポリスといえども、冬は降雪こそしないが相応に寒い。ティレニア海に面している恩恵で温暖な気候ではあるが、緯度の高さはニューヨークとそう変わらないのだ。向かい風は身を切るように冷たく、艷やかな毛織物のコートの襟を立てても鼻先や頬が痛くなってくる。
     それでもジョルノは表情一つ変えず淡々と歩いていく。正確には、わずかに微笑みすら浮かべ、沈黙の裡に冬の空気と石畳に耳を澄ます。
     時折思い出したように荒れ狂う風は、路地に舞い込んだ枯れ葉を巻き上げてびゅう、と割れた鳴き声を上げる。冬独特の乾燥した大気の冷ややかさが、鼻の奥を突き刺すようだ。それでも黙々と歩くジョルノの頬に、不意に全く異なった質感が触れる。熱を持って人々が暮らしている、生活の空気。路地に面した家々から、音もなくジョルノの方へ吹き寄せる。特にこの時間は、個性に富んだ石鹸の香りと湿気を含んだぬくもりある空気が好きだった。どの家の人々も、一日を終えてシャワーを浴びているのだろう。ジョルノにはそれが、人間の暮らしの中でもっとも象徴的な、生きる時間を積み重ねている気配に思えた。
     ジョルノがそんな感慨を抱くようになったのは、『彼』と暮らし初めてからだ。そもそも、子供の頃のジョルノは家々の灯りが苦手だった。知らない家の暮らしの気配が、愛情と優しさに満ちた象徴のように映っていたのかもしれない。幼いジョルノには、欲しても届かない全く無縁の世界のように感じていた。
     そんなジョルノが、今では好んで人々の暮らしの空気に身を浸している。ジョルノ自身、歩きながらその不思議な感慨に耽ることこそが好きなのだろうと理解していた。
     そうしてぼんやりと歩いて十分と少し、ジョルノは不意に足を止める。古びて煤けてはいるが、軒先に凝ったギリシア風の彫刻が施されたアパルタメントだ。正面には黒く無骨な鉄格子の共同ゲートが鎮座している。ゲートのすぐ横には部屋ごとへの呼び鈴が並んでいるものの、勝手知ったるとばかりにジョルノはキーケースを取り出して解錠し、さっと身体を滑り込ませる。そして薄暗いホールの奥、階段へ向かうと足取り軽く駆け上がって行った。


     目当ての部屋はアパルタメントの三階、一番奥まった位置にあった。
     建物自体は古びてはいるものの、よく手入れの行き届いた、心地よい部屋がこの扉の向こうにあることをジョルノは知っている。
     扉には本来の鍵穴と、後付けされた厳重な錠前が四つ。ジョルノはキーケースからそれぞれバラバラの鍵を取り出し、慣れた手つきで手際よく開けていく。
     この時間なら、きっと『彼』はシャワーを浴びている頃だろう。いや、ちょうど浴び終わった頃かもしれない。
     そんなことを考えながら、ジョルノは心地よい水のぬくもりを想像する──そのしっとりとした空気に乗って広がる、見知った香りも。こうして鍵を開けている間にも、石造りの建物の廊下は足先から浸食してくるかのように冷え冷えとしている。手袋越しに凍えた手で解錠し、やっとのことで重い扉を開ける。瞬間、ジョルノの予想通り春風にも似た陽気が全身を包みこんだ。
     よく暖められた空気は、感覚を失いかけていた手足にさっと血流の戻る感覚を与えた。外の身を切る寒さが嘘のようだ。外気温と変わらぬ薄暗い廊下とは違い、玄関は日溜まりに似た色で静かに照らされている。そのぬくもりある光に、ジョルノは一気に寒さが遠のいた心地がして微笑みを浮かべた。
     てきぱきと玄関脇のフックにコートとマフラーを掛け、靴を脱いで──『彼』は外の砂埃がついた靴を室内に持ち込むのを嫌がった──ジョルノのために『彼』が用意してくれた室内履きに履き替える。見るからに冬も快適に過ごせそうな、ふわふわしたボア素材だ。
     そこでジョルノはやっと一息ついて、単身者のフラットにしてはやけに長い廊下を進む。すると、不意に水の気配を含んだあたたかな空気が身体を包んだ。ジョルノの右手に位置するドアが開いたのと同時、不意に『彼』が現れる。
     ちょうどシャワーから上がったようで、腰回りを簡単に結ったバスローブ姿だ。軽く羽織っただけのせいか、胸元が大きく開いているが気にした素振りもなく、タオルで髪を拭っている。首筋にはまだ、水気を含んだ髪が幾重にも貼り付いていた。
    「おかえりなさい、今日は寒かったでしょう」
     ジョルノに気がついた『彼』──フーゴは破顔して声を掛けた。
     普段のきっちりと固めた髪型ではない。洗いざらしでさらりと首元に掛かる長さのせいで、幾分幼く見える。絹糸を思わせる髪がフーゴの白面に沿ってうなじを飾り、清々しい繊細さを鮮明にしていた。
     そして何よりも、シャワーから出たばかりのフーゴのまとう空気そものがしっとりとやわらかく、内側から光が溢れるようにみずみずしい。
    「ただいま、パニー。本当に外は寒くて寒くて! ……だから早く、」
     無防備なフーゴの姿にジョルノは微笑みを浮かべ、抱擁を求めてさっと両手を広げる。だが、彼を抱きしめる前に中空でその動きを止めた。
    「……早く君を抱きしめて温まりたいのに、まだ手も洗っていないな」
     の最中のジョルノからは想像できないような、唇を尖らせて率直に不本意を表現する表情に、フーゴは困ったように笑う。
    「じゃあ、手はそのままで。……僕から抱きしめるなら、いいでしょう?」
     言うやいなやフーゴはタオルを首に掛け、制服姿のジョルノに歩み寄る。一歩踏み出すその足にためらいはなく、ごく自然に身を寄せる動作だった。己の首元の水気に注意を払いつつ、ジョルノの腰に手を回してそっと引き寄せる。
     「……ありがとう。君は温かいね。寒さを耐えて帰ってきた甲斐があったな」
     フーゴの素肌がジョルノの制服から覗く胸に触れる。触れ合ったフーゴの胸は、シャワーを浴びたばかりでしっとりとしていた。首元からは、慣れ親しんだシャンプーの香り──二人で真剣に選んだものだ──が立ち上っている。清々しいハーブの香りが中心だが、その下でジョルノ好みの甘いアーモンドが淡く揺らめいている。そして何よりシャワー後独特の、ぬくもりある水気を含んだ空気。紛れもなくフーゴと生活を共にしていることをジョルノは実感する。
    「今日は特別に寒かったですね。最近は夜になると急激に気温が下がるから……ああ、こんなに冷え切って。早くシャワーで暖まって下さい」
     体温が上がっているフーゴの熱を実感しながら、ジョルノは愛おしい彼の首元にゆっくりと顔を寄せ、香りを吸い込む。抱きしめそうになる衝動を堪えた手は、相変わらず中空で静止したままだ。
     「うん、そうするよ。でも少し待って……君と一緒に選んだ香り、何度でも良いな。君によく似合ってる」
     言いながら、うっとりとした様子でジョルノはフーゴから身体を離そうとしない。この香りがフーゴから立ち上るたび、ジョルノは不思議な気持ちが湧き上がるのだ。自分の帰宅を抱擁と共に迎えてくれる存在がいること、生活を共にする他者へこんなにも穏やかな気持を抱く自分がいること。あまりにも幸福で、非現実に感じる瞬間すらある。ジョルノを気に掛け、慈しんで触れる他者が隣にいる世界を、子供の頃には想像すら出来なかった。
    「あなたって人は……仕方ないなァ。手を洗ってシャワーを浴び終わったら、一緒にホットチョコレートを作るのはどうですか?」
     フーゴからの不意の提案に、ジョルノはうっとりと閉じていた瞼をぱちりと開けた。間近にある彼のすみれ色の瞳は楽しそうに輝いている。つややかに濡れたプラチナブロンドの髪と合わせ、飾らないそのままの、清明な姿。折り目正しい昼間のフーゴとは違う、ジョルノだけが知る彼だ。
    「チョコを刻むのと、ヌテッラを入れるのは僕にやらせてくれるかい?」
     相変わらず空中に挙げたままの手でフーゴを抱きしめたい衝動を堪えながら、ジョルノは甘えるように覗き込む。
    「お好きなだけどうぞ。……僕の分はミルクを追加します」
     今日は寒いから仕方ないなァ、とぼやくフーゴも楽しげだ。
     そんな姿を眺め、ジョルノは心の底から穏やかな感慨が湧き上がるのを感じていた。
     いまここで自分がいる空間は、フーゴと積み重ねた時間の上にあるのだ。
     どんな出会い方だったとしても対話を重ねること、毎日を共にできるほどに互いへの信頼を寄せ合うこと。その結果が、相手と自分が共有する香り、温かな暮らしのにおい、心が弾むささやかな甘味なのだ。
     どれだけ外で心の荒む出来事があってもこの部屋でフーゴと過ごすたびに、ささやかで柔らかな『暮らし』を積み重ねる自分になれるのだ。かつて、それを知らなかった子どもであっても。
    「急いでシャワーを浴びて出てくるから、待ってて」
     いつだってフーゴに触れることが出来るはずなのに、離れがたい気持ちや名残惜しさは無くならない。そのことを噛み締めながらジョルノは身体を離すと、さっとバスルームへ踵を返した。シャワーを浴びてお揃いの香りになるのは暮らしを共に積み重ねている証だが、きっとフーゴの香りはわからなくなってしまう。だからこそ、シャワーを終えたら心ゆくまでフーゴを抱きしめようと考えながら。

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