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    二次オリメンバーによる黄昏の森100日サバイバル第二話更新しました。各キャラのアイコン・挿絵付きを楽しみたい方は某所へ。
    書かせてくださった製作者様ありがとうございました!

    【二次オリ】100 Days Twilight part2 黄昏の森ではスタート地点に立った時点で、全てのダンジョンを確認することができる。だがボスモンスターが君臨するダンジョンには特殊な結界が貼られており、それによって攻略ダンジョンの順番があらかじめ定められている。
     そのため攻略者は決まった順番にダンジョンを巡らなければならず、そのために始めのダンジョンであるナーガ神殿に向かうのが定石だ。
     突如サバイバルに巻き込まれたごめんね先生一行は、定められた3つの試練を達成するため先日無事にナーガを討伐し、次のダンジョンである"リッチタワー"へ向かおうとしていた……。

    「え?孔雀扇がリッチタワーに?」
    「そう、中くらいのタワーに孔雀扇がチェストの中に入っている時があるんだって。確率は低いけど、探してみる価値はあるでしょ?」

     その日拠点であるツリーハウスにて、ごめんね先生とミスターパステルはリッチタワーの攻略方法を話し合っていた。その中で試練達成の1つ…"孔雀扇"の入手についての話に変わる。
     孔雀扇は名前の通り孔雀の羽のような美しい扇であり、突風を巻き起こして敵を吹き飛ばしたり、ジャンプの最中に使用することで跳躍力を跳ね上げる道具だ。
     主な入手方法はリッチタワー内のトレジャーチェスト、あるいは亡霊鉱山内の宝箱の中からの入手となるが、黄昏の森の中ではレアアイテムの部類に入るもので……運と気力がなければなかなか見つけられるものではないのだ。

    「うーん…たしかに、孔雀扇はサバイバル達成条件の一つでもあるからね。うん、わかった。じゃあリッチ討伐と一緒に早速探しに行こう!」
    「決まりね!……ところでミスターウィングは?」
    「ミスターウィングなら"ボクはもっと強くならないと“とか言って生垣迷路の方に跳んで行っちゃった。」
    「ミスターモグラは?」
    「慌ててウィングのこと追いかけて行っちゃった。」

     一匹狼気質で己を鍛えることに余念がないミスターウィングは相変わらずのようだ。彼を追いかけたミスターモグラは、初日に伝えられた"1人になってはいけない"を律儀に守っている様子である。
     ……果たしてあの素早いミスターウィングに追いつけるのだろうか?とやや心配になるが、ミスターモグラなら得意の索敵でどうにかなるだろう。

    「……そっか、じゃあ今回は私たちだけね。」
    「大丈夫!2人がいなくても僕たちでリッチ倒して孔雀扇を見つけちゃお!ほら、レアアイテムって見つからないようで案外あっさり見つかっちゃう時もあるし。」
    「それもそうね、じゃあとっとと準備しちゃいましょう!」

    ***

     ………と、意気揚々とダンジョン攻略に向かったごめんね先生とミスターパステルだったが………。

    「ハァ……ハァ……だめ、ぜんっぜん見つからないよー!」
    「はぁ…はぁ…ふぅ、タワー全体を探したはずなんだけど…ここにはないのかしら?」

     リッチタワー…それは魔道士の居城と言ったところか。所々に本が並べれた小部屋のある塔の中には、最上部まで続く螺旋階段か渦を巻いている。その道の先々には様々なモンスターが立ち塞がり、冒険者を妨害し追い詰める。
     タワーに侵入して早2時間。ごめんね先生とミスターパステルは目当てのアイテムが見つからず、また複雑なダンジョン内でのモンスター捌きに苦戦していた。
     くたびれた顔で階段に座り込む2人。ふと額の汗を拭う2人の背後に忍び寄る影が──

    「紙!!!」
    「ごめんねー!!!」

     背後から攻撃を仕掛けようとしたモンスター─死者の書に反応した2人は、咄嗟に武器を取り出して迎撃する。
     死者の書は本来遠距離からの魔法弾により移動速度を低下させる厄介な相手なのだが、悲しきかな精錬された2人の前ではただの無力な紙切れ同然である。
     ばら撒かれた紙や本などを拾い集め、鞄に詰め込む2人。

    「よし、これだけ紙と本があれば本棚作り放題だ。これを持ち帰ればエンチャント台が作れる!それに魔法の羽も落としたからこれで魔法の地図が作れるよ!」
    「ごめんね、私たちにも命がかかってるから…エンチャントで装備や武器を強化するのは大切だもの、許してね……!」

     オーバーワールドのサバイバルでは、武器や装備を強化する面で本は欠かせないものだ。勿論それは黄昏の森でも変わらない。故にエンチャントの道具となるのであれば死に物狂いでかき集めるのも無理もない。
     ちなみにもう一つ落とした魔法の羽は材料を集めればクラフト可能だが、死者の書が時々落とすレアアイテムの一つである。これがあれば魔法の地図というアイテムが作れるので、こちらも必需品である。
     息を整えて再び歩を進める2人。タワーなのでずっと階段を登らなくてはならずこれがなかなかしんどいのだが、足を止めていてもモンスターは倒れてくれないし孔雀扇も現れてくれないのだ。
     立ち塞がるモンスターを薙ぎ倒しつつなんとか最上階にたどり着く。

    「ああ……もうそろそろ最上階だ…」
    「最上階?ってことはいよいよリッチとの戦いね。…ん?もしかして孔雀扇ってリッチが持ってたりして!」
    「それか最上階の隠し部屋とか…!」
    「よしパステル君早速討伐にいきましょう‼︎」

     半ばやけくそだが意地でも奮い立たせなくては勝てるものも勝てない。2人は武器を構え直して最上階へ突入した。

    ***

    「っと……こんなものか。」

     同時刻、早朝から拠点を飛び出したミスターウィングはナーガ神殿に訪れていた。ごめんね先生達が討伐に来たところとは別の場所である。
     目の前に転がっているトロフィーや鱗には目もくれず、ウィングはリボンを振るう。

    「生垣迷路にいた狼と蜘蛛じゃ全然手応えがなかったからな…。」

     二度と失態は犯すまいと、特訓のためにウィングは先程まで生垣迷路に訪れていた。だがそこにいたモンスターは彼が期待していたほどの強さを持っておらず、不完全燃焼でナーガ神殿に1人で突入したのである。
     あの時はバランスを崩して隙を見せてしまったが、今は対処法を覚えたので初戦よりも手こずらずに倒せたが……ミスターウィングはこの程度で満足しない。

    「こんなんじゃまだだめだ。ボクはもっと…今よりも強くならないと。」

     まだ足りない。己を鍛えるために次は先生達が向かったリッチタワーにでも行こうか。そう思いながら空を見上げる。

    「ウィング…ナーガを1人で倒したの?」
    「ん?ああ…このくらい大したことではない。」
    「……やっぱり強いんだ、ミスターウィング。怪我はしてない?手当てする。」
    「少し掠った程度だ。放っておけば治──!?」

     そこまで話してバッと振り返る。そこにはミスターモグラが立っていた。それだけならなんてことないが…

    「ミスターモグラ!お前いつの間に、ってかどうやってここまで…」
    「ウィングのリボンの音が聞こえる方に、地面の中を掘って来た。」
    「……わざわざ潜って来たのか?」
    「走るより早い。…それより、先生に1人になったらだめだって、言われてた。」
    「走るより早いからって地面の中潜ってこれるのお前くらいだろう。」

     実は生垣迷路に着いた時にも着いてきたのだが、早く拠点に戻れとウィングは一足先にナーガ神殿に走ってきていた。その時は諦めて拠点に戻ったのだと思っていたが…まさか先生の言いつけだけでここまで追いつけるとは。
     確かにこの辺りは凹凸が激しく木々が茂っているが、それでも潜ってきた方が早いなどと言えるのはこの男くらいだろう。おまけに誰かの居場所を見つけるのが得意なミスターモグラであれば追いつけるのも納得がいく。

    「……言いたいことは分かってる。けどボクはじっとしていられない。ボクは次のダンジョンに行くからお前は…」
    「一つ、聞きたい。ミスターウィング、何故そこまで、強くなりたい?」

     突然の問いかけに、次の場所に向かおうと歩を進めようとしたウィングは立ち止まる。振り向くとモグラは真っ直ぐにこちらを向いていた。
     ミスターウィングは誰よりも強さを求めている。だがその理由は生徒達はおろか、自身を一瞬で打ち負かしたあのすまない先生にすら話したことがない。

    「………今は言えない。ただ、ボクはどうしても強くならないといけないんだ。」
    「どうしても?」
    「それよりもボクも気になっていたことがある。ミスターモグラ、何故お前がここにいる?」

     この森に飛ばされた時から、ウィングはずっと疑問に抱いていた。今回の100日サバイバル、巻き込まれた者の共通点はすまないスクールの関係者…先生や生徒たちということ。

    「だが…お前は違うんだろう?ミスターモグラ、たしかにお前はボク達と関わりが深い方だが、それだけだ。お前は──」
    「わかってる。すまないスクールの生徒ではない。だから、選ばれた理由は…ぼくにもわからない。」

     ウィングの問いかけにモグラは嫌がることもも顔色ひとつ変えることもなく、静かに答える。彼もまた疑問に抱いていたのだろう。
     ウィングはこれ以上言及することなく……ふと思い出したことを口にする。

    「……お前、ここにくる前に何をしていたか覚えているか?」
    「………廃坑で地上人の手当てをしていた。顔は覚えてない、けど、写真を見せてもらったのは…」
    「写真ってのは、火柱が立つ焼け野原か?」

     写真、と言われて一瞬顔を上げるが、すぐに首を横に振る。そして顎に手を当てて俯いてしまう。

    「………焼け野原、ではなかった。ぼくがみたのは、真っ白なところで、青と緑の塔、だったはず。」

     真っ白なところで青と緑の塔、それがモグラの見た写真だと言う。知らない光景だ。そしてここにくる直前に見た写真…ウィングもまたここに来る前に写真を見ていた。それが先ほど述べた焼け野原だ。
     共通点は写真だろうか?ウィングは思案する。もしその写真がこの世界と関わりがあるのなら、自分たちがここへ飛ばされた理由がわかるかもしれない。この続きは帰ってから先生達に話すべきだろう。
     ふと、視線の先にあるものが目につく。一見荊が張り巡らされたような場所だが、その先の高地に何かが見えた。
     リッチタワーに行こうと思っていたが、この先に強い奴がいるのなら…そう思いながら荊に駆け寄るウィングを、モグラは慌てて追いかけた。

    ***

     近づいてみると、鋭い棘がびっしりと生えた荊が張り巡らされており、人1人通れる隙間もない。無理矢理通り抜けようとすれば確実に皮膚がズタズタに切り裂かれるだろう。だが、通れぬのなら飛び越えれば良いだけだ。
     雨が降っているようだ。ジュワ…ジュワ…と雫が落ちた所から妙な音が聞こえるが…

    「雨が降っているが、まあ飛び越えればまあなんとかなるだろ──」
    「まって」

     雨の中に入ろうとするウィングを止めるモグラ。なんだと振り返るとモグラはウィングを通り越し、降り注ぐ雨に近づく。マスクを外して匂いを確認したモグラは、徐に手袋を外した手を雨に差し出し──

    ジュウゥゥ………

    「……酸の雨。」
    「いや……いや、お前何やってんだ!」

     雨に濡らした手を挙げながらそう言ったモグラを、ウィングは慌てて雨から引き離す。雨に晒した手は爛れ、微かに煙を立たせている。近くの川まで走り水面に触れて普通の水であると確認したウィングは、モグラの手を川に突っ込む。

    「バカかお前は!お前一応匂いだけでもわかるんだろ?酸だって分かってて何故わざわざ手を伸ばした?」
    「言葉で話すよりも、目で見た方が早いと思って。」
    「お前といい先生達といい、ボクをなんだと思ってるんだ…。」

     平然と答えるモグラに、呆れたような顔になるウィング。無茶をするなどいいながらお前も人のこと言えないだろうと、ウィングは胸の内でぼやきながらモグラの腕を洗い流す。
     痛みはないのかと尋ねれば、この程度慣れているとこれまた淡々とした口調で返される。
     お前も人のこと言えないだろうと返そうとした瞬間、不意に振り返ったモグラが一点を見つめる。つられてウィングが振り返ると、先ほどの荊の間から何かが這い出てくる。青い体をした小さなそれはこちらを認識すると、牙を剥いてこちらへ向かってきた。
     すかさずウィングがリボンを取り出しそれに向かって振るう。パァン!とリボンを叩きつけると、叩き飛ばされたそれは慌てて引き返す。

    「っ……青い、ゴブリンか?何故ここに…?」
    「………?何か落とした。」

     モグラが指差すそれをみると、一冊の本がそこに転がっていた。先ほどのモンスターが落としたのだろうか。

    「これは…本か?なんであいつがこんなものを?」
    「なんて書いてある?」

     本を拾ったウィングは早速本を開いて読み始める。だが……

    「………読めない。」

     文字の羅列に固まるウィングを見て、今度はモグラが差し出された本を読もうとするが……

    「……………見えない。」
    「…………」

     2人は黙って文字の羅列を見つめ、そっと本を閉じる。ミスターウィングは冷静沈着で戦闘に長けているが、実は語学が不得意である。助け舟を出そうとしたモグラはモグラで、視力が悪く細かい文字が読めないのである。

    「先生達なら読めるだろう、そろそろ戻るか。」
    「………」
    「……さっきみたいなこと、もうするなよな。」

     爛れた腕に包帯を巻いたモグラには目を向けず、それだけ言って拠点に戻ろうと元来た道を戻ろうとするウィング。モグラからの返事はない。少しだけ気になり、ウィング後ろを振り向いた。

    「あ、にわとり。」
    「…………マイペースか?」

     モグラはその辺の草をむしって刈り取った種で鶏を誘っていた。拠点を作ろうとした時にはさっぱり見かけなかった鶏だが…いたのか、鶏。

    ***

    「ここが最上階ね。なんというか……うん、すごく華やかというか…」
    「絵の主張が強すぎて目が痛いよ〜…!色が濃すぎて見てるだけで落ち着かない…ううっ上手く戦えるかな…?」

     天井に吊るされているのは大きなシャンデリア、壁一面には色とりどりの大きな絵画。まさしく豪華絢爛だが……濃い色が苦手なミスターパステルにはこの空間そのものがダメージとなっているようだ。
     ギラギラした空間に上がり込むと…ガラス張りの中心部に禍々しいオーラを纏った"それ"が現れる。

    「わっ出た!ごめんね先生、これがトワイライトリッチ?」

     見た目は王冠を被った骸骨の魔導士か。いよいよ塔の主のおでましだ。トワイライトリッチは杖を構えてこちらを一瞥すると、先生達目掛けて魔法弾を放つ。
     すかさずかわす2人。だが今度はワープ音を響かせて分裂したのだ。

    「分身した!?」
    「トワイライトリッチは形態が3つあるの。最初は分身して魔法弾を放ってくるのだけどそれだけじゃないわ。」

     そう言ってごめんね先生はネオンシューターを構え、レーザーを放つ。だが、トワイライトリッチが纏う金色の盾がそれを弾いてしまう。

    「こんな風に、第一形態はあらゆる攻撃を跳ね返すの。」
    「跳ね返すって…つまりあのシールドがある限り、どんな攻撃も効かないってこと?」
    「その通り。だけどねパステル君、どんなに強い敵にも対処法は必ずある…そうでしょ?」

     説明している間にトワイライトリッチは魔法弾を放ち続ける。だがそのうちの1発をかわしきれず、ミスターパステルは反射的に杖を振るう。
     すると杖で打ち返された魔法弾は…リッチの分身に被弾し、そのまま消滅した。

    「(魔法弾…シールド…その対処法………そうか!」

     パステルはもう一度杖を構える。残りのリッチを見極めて…放たれた魔法弾を本物のリッチに打ち返す。
     すると被弾した魔法弾が爆発し、リッチの盾が一つ消滅した。間違いないとパステルは確信する。リッチの攻略方法、それはまず第一形態でのシールドを、魔法弾を打ち返して破壊すること。
     続々と放たれる魔法弾を1発ずつはね返すパステルだが、突如先生に庇われるように押し倒される。

    「危ない、避けて!」

     瞬間パステルがいた場所が爆発し、火の粉が散る。衝撃で壁にかけられていた絵画が散らばった。

    「っ、火炎弾…?それにさっきまでの魔法弾と違う…」
    「リッチの魔法弾の中には被弾すると爆発するものもあるから、よく見極めて!」

     先生に抱き起こされたパステルは再び体勢を整え、リッチに向き合う。リッチは嘲笑うように魔法弾を飛ばしてくるが、パステルは冷静にそれらを全てはね返す。
     ごめんね先生も剣を使って魔法弾を撃ち返し、シールドと共に分身も消滅させる。そして…

    「っ、これで最後だ!」

     魔法弾を撃ち返したパステルが、最後のシールドを破壊する。全てのシールドを破壊したことで、リッチにダメージを与えられるようになった。

    「やった!全部のシールドを破壊した!」
    「やったねパステル!けどまだ油断しちゃダメ、シールドを破壊したらすぐに第二形態に入るわ。」

     言い終えると同時に、リッチは先ほどまでとは違う色の杖を取り出して振るう、すると今度は数体のゾンビが召喚され、こちらへ向かってくる。

    「うわっ!今度はゾンビがいっぱい出てきた!」
    「リッチは第二形態になると手下のゾンビを召喚してくるわ。生態は普通のゾンビと同じだけど…。」
    「それにしても一気に来ると厄介だな…ここは上から……」

     単体であればさほど脅威ではないが、複数体で現れると厄介なのがゾンビである。ごめんね先生がネオンシューターでゾンビを倒すが、その都度召喚されるのでキリがない。
     ここは上から攻撃を、と羽根を広げて飛んだパステルだが…

    「っだあ!?」
    「パステル君!大丈夫!?」

     浮遊した勢いでパステルは天井に衝突し、そのままフラフラと落下してしまう。涙目で頭を押さえるパステルに、ごめんね先生が慌てて駆け寄る。

    「っいてて……天井が思ったよりも低いよ……!」
    「まあ酷いわ!パステル君をこんな酷い目に合わせるなんて…絶対に許さないんだから!」

     パステルを支えながらこちらを睨みつけてくるごめんね先生に、いや知らないが!?とでも言うようにリッチは一瞬固まるが、気を取り直したようにもう一度杖を振るいゾンビを召喚する。

    「んむぅ……ゾンビの群れなんてこうしてやる!金ブロックで…くらえ!」

     涙目で睨みつけながら、千変万化の杖に金ブロックをはめる。魔力を込めて杖を振るい、ゾンビ目掛けて強力な雷を放った。
     パステルが持つ千変万化の杖はブロックに応じて様々な能力を引き出す力を持つ。金ブロックは物理攻撃の他このように雷魔法を放つことができるのだ。
     強力な雷を受けたことで、その場にいたゾンビは一瞬で黒焦げになり消え去った。

    「よし!あとはリッチ、お前だけだ!」

     ゾンビを倒したことで再び無防備になったリッチに、パステルは杖を向ける。リッチは暫く佇んでいたが、今度は黄金の剣を取り出してこちらに突進してくる。
     振われた剣を、ごめんね先生が咄嗟に構えていた剣ではじく。

    「っわ!こいつ接近戦もできるの…!?」
    「リッチの最終段階よ。けどここまで来たらあと少し、頑張って!」
    「なるほどね、けど接近戦が得意なのはこっちだって同じだし!」

     距離をとったごめんね先生に下がっててと促すパステル。そしてリッチと再び向かい合い、杖を構える。

    「かかってこい、トワイライトリッチ!」

     パステルの挑発に乗ったリッチは、凄まじいスピードで迫り剣で切りかかる。すかさず杖で受け止めるが一撃一撃が重く、スピードも並のものではない。集中してリッチの動きを捉えるも、じんじんと杖を持つ手に痺れが走り、思わずうめき声を上げてしまう。
     気づけばパステルは壁際に追い込まれ、強い力で押し込まれている。あと少しで顔に刃が触れるところで冷や汗を流すパステルだが、次の瞬間リッチの身体がレーザーで貫かれる。

    「っ、先生…!」
    「ごめんね、本当はこういう真剣勝負に水を差すのは良くないんだけど…。」

     リッチの背後には、ネオンシューターを構えるごめんね先生が立っていた。大切な生徒であるパステルが剣の餌食になるのが、先生として見過ごせなかったのだろう。
     ごめんね先生らしいや、と密かに胸の内で思いながら体勢を崩すリッチから一旦距離を取るパステル。

    「いや、ありがとう先生…さっきは追い込まれちゃったけど…もう大丈夫。次はもうさっきみたいにはならないよ!」

     そして再び剣と杖の打ち合いになり、両者とも鍔迫り合いになる。目にも止まらぬスピードで打ち込まれる剣を受け止め、隙をついて鉄槌のように杖を振り下ろす。
     そして…激しい攻防戦の末、ついにパステルの杖がリッチの剣を弾き、そのままリッチの身体を粉砕する。

    バリィーーーン‼︎

     リッチの体はひび割れ、爆破し消え去った。煙が散りそこに残ったのは、リッチのトロフィーとなる頭部と、いくつかのアイテムだ。

    「よし倒した!僕たちの連携があれば敵無しだね!」
    「はぁ…よかった!これでトロフィーゲットよ、よく頑張ったねパステル!……あら?何か落としてる。」

    「これ、あいつが使ってた杖かな?何かの役に立つかも!持って帰ろ。」
    「この色はゾンビ召喚の杖ね。いざとなればゾンビを召喚して戦ってもらえる杖だわ。」
    「さっきあいつが使ってきた召喚か、確かに仲間になるとすごく頼もしいかも!」

     リッチの杖はゾンビ召喚の他にあと3種類あるのだが、これは後ほど語ることとする。2人は残りのアイテムを回収する。

    「…………ところで孔雀扇は?」
    「あっ…」

    ***

    「…………え?先生、パステル、何があったんだ…?」
    「あの、大丈夫…?」

     ミスターウィングとモグラが帰宅して目にしたのは、テーブルに突っ伏したごめんね先生とパステルの姿だった。何事かと戸惑う2人に、突っ伏したままの2人が沈みきった声で答える。

    「……リッチは無事撃破できたわ。けど…」
    「孔雀扇はなかった……。」

     あまりの落ち込みように流石のウィングも戸惑いを隠せない。見かねたのかモグラが手に持ったそれを見せて2人に声をかける。

    「先生、パステル、にわとり。」
    「鶏ーーーーっ!!?」

     モグラの手に抱かれた鶏にガバッと顔をあげて目を輝かせるごめんね先生の勢いに、隣で伏せていたパステルは思わず飛び起きる。ごめんね先生は焼き鳥が大好物なのだ。
     先生の勢いにビビった鶏がクケェーッ!?と飛び上がり、顔面に体当たりを食らったモグラがうっと声を上げて仰反る。

    「………とりあえず、夕飯にするか。」

    ***

    「なるほど……つまり皆はここに来る前に、黄昏の森の写真を見ていたってわけね?」
    「うん。僕もウィングの話を聞いて思い出した。僕が見たのは赤くて大きな塔だったけど、一面真っ赤で目が痛かったよ…。」

     夕食の串焼きを頬張りながら、今日の出来事について話し合う。今話しているのはウィング達が見たという写真について。どうやら全員ここに来る前に不思議な景色の写真を見ていたようだ。
     まとめると、ミスターウィングが見たのは焼け沼、ミスターモグラはオーロラ宮殿、そしてミスターパステルはダークタワーといったところか。

    「それで、ごめんね先生はどんな写真だった?この流れからすると、先生も見たんだよね?」
    「うん。私が見たのは……白い大きなお城。あれがラストダンジョン──"最後の城"なんだと思う。」
    「大きな城?そんなの聞いたことないけど…新しいダンジョンかな?」

     ごめんね先生は紙に見た景色を書き写す。紙にはファンタジーに出てきそうな城が描かれている。これが最後の城だろう、ネーミング・外見共になんともわかりやすい。

    「確か最後の城は…荊に囲まれたエリアの先にあったはず。」
    「先生、そのことなのですが…今日こんなものを。コボルトが突然現れて、そいつがこれを持っていたんです。」
    「それは…本?どうしてコボルトが?」

     ミスターウィングが一冊の本を差し出す。力試しに遠出した際に見つけたものだ。隣で空の串を回収していたミスターモグラも顔を上げる。本を受け取ったごめんね先生は早速中を開き、ミスターパステルも身を乗り出して中身を読み始める。

    「これは…誰かの研究日誌かしら?酸の雨…そしてエリアの"呪い"……手掛かり……」
    「ふむふむ……ってことはダンジョン攻略はきちんと順番通りに行かないといけないってことかな。そして……」
    「待って、酸の雨?ミスターウィングにモグラ、貴方達どこまで行ってたの?」
    「荊で覆われたエリアでそれを拾いました。荊のエリアに入ろうとしましたが、酸の雨で通れなかったので引き返しました。」
    「それさっき言った荊の大地じゃない!あそこは今の段階ではまだ通れない場所だから、まだ行っちゃダメよ?にしても思ったより近い場所にあるのかな…?念のため聞くけど、2人とも酸を浴びてないわよね?」
    「そのことですが、モグラが手を出して皮膚を焼いてました。」
    「モグラ君今すぐ手を出してくれる?あと2人ともちょっとお話しましょうか?」

    ───ごめんね先生、お説教中───

    「……結局のところ、全てのダンジョンの攻略が最後の城への鍵になるんだね。」
    「そうなるわね。となると、次に向かうダンジョンは…」

     夕食を食べ終えて食器を片付けたところで、改めて本題に戻る4人。荊の向こうに進むためにはどうしても全ダンジョン攻略が鍵となるようだ。となると話題は必然的に次に向かうダンジョンに移ることになる。
     現時点で解放されているのは闇の森にあるゴブリン騎士の拠点、雪の森のイエティの巣、そして沼地のラビリンスの3つとなる。この3つであればどこからでも向かうことができるが…

    「次に討伐するのはゴブリン騎士の拠点のナイトファントム、イエティの巣にいるアルファイエティ、そしてラビリンスのミノッシュルーム。そこから更に順番に次のボスモンスター討伐となるけど…」
    「沼地の先にはヒドラがいる焼け沼があるんだよね?だったら先にラビリンス攻略してそのままヒドラに行きたい所だけど…」

     サバイバルのクリア条件となるヒドラ討伐のためには、ラビリンスのミノッシュルームを討伐することが必要条件となる。幸いミノッシュルームそのものの攻略はさほど難しくはないのだが…問題はラビリンスというダンジョンそのものにある。
     ラビリンスは文字通りの"迷宮"…向かうとなれば念入りに準備しないといけない。食料や装備はもちろん、道に迷わないように目印を用意しなければ最悪ダンジョン内で遭難する恐れもある。

    「迷宮か…迷宮ってなるとボス部屋を探すのも大変だね。うーん…でもラビリンスの地図なんてわからないし、せめて何かボス部屋を特定できる手段があれば…場所の特定?」
    「………!そうよ、うってつけの子がいるじゃない!」

     顔を見合わせた2人は、ある人物の元へ駆け寄る。ミスターモグラだ。食器の片付けをしていたモグラは、突然駆け寄ってきた2人に何事かと首を傾げる。

    「ねえミスターモグラ、君の索敵能力ってどれくらいの範囲まで探れる?」
    「…………今は最大で半径300メートル範囲内、上空は曖昧だけど地底の音は聞こえる……一番近くの洞窟でゾンビのうめき声と鉄靴の音が聞こえるあたりまでなら。」
    「十分よ!お願いモグラ君、次のラビリンス攻略、貴方の力を貸してほしいの。」

     ごめんね先生の提案に、表情は変わらないもののピシリと固まるミスターモグラ。
     ミスターモグラの特技は掘削もあるが、何よりも重要なのが索敵能力だ。長年地中で過ごしてきたミスターモグラは視力が悪いものの、その分人並外れた聴覚と嗅覚を持つ。またその気になれば空気の動きすら読み取れる彼は、誰よりも的確に敵の居場所を察知することができるが…。

    「……索敵はできても、戦いはできません。」
    「大丈夫、戦闘なら私たちがサポートする。…それにもし貴方が望むなら、戦い方も教えられる。どうかな?」

     モグラの言う通り、精鋭揃いのごめんね先生達と比べると彼は戦闘は不慣れで実戦経験がほとんどない。だが逆の見方をすれば、モグラはサポーターとしての能力をふんだんに持ち合わせているのだ。
     そして何より、彼自身が強くなりたいと密かに願っていることも先生は知っている。だからこそこの提案を持ちかけたのである。そんなモグラはごめんね先生の言葉に少し考えるように目を伏せ、やがておずおずと頷く。

    「………できる限りのことはします。」
    「本当?ありがとう!それじゃあ次のダンジョン攻略までの間にきっちり準備しておきましょう!」
    「もし余裕があったら小規模の鉱山とか生垣迷路に行って、ある程度敵の倒し方を身につけておくと良いかも。僕が教えてあげるね!」

     モグラの返事にごめんね先生がにっこりと笑って両手でモグラの手を握り、その横からパステルが親指を立てる。2人の笑顔に安心したのか、モグラの表情が少しだけ緩む。
     一方ミスターウィングは、その3人の輪に混ざろうとせず、ただ静かに一歩離れたところでじっと見つめていた。

     黄昏の森の薄暗い空は、今日も変わらず星が瞬いている。
     残り87日。サバイバルはまだまだこれからだ。
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