はじまり 水族館だという建物の前を通り過ぎ、海の家が立ち並ぶ間を縫うように抜けると、目の前には海が広がっていた。砂浜にスニーカーが埋まる。鼻をつく磯の匂い。そういえば、この匂いがするのは美味しい魚介が取れる場所だけなのだとか。
季節外れの海に、人気はほとんどなかった。きっと夏になれば、この砂浜はカラフルな水着を身に着けた人々で埋まるのだろう。
私は風に髪が乱されるのを手櫛で押さえながら、のんびり海の方へ歩いて行った。途中から、靴は脱いで手に持つことにして、砂の感触を楽しむ。海は思ったより青くなかった。けれど、南国の海というわけではないのだから、仕方のないことなのだろう。
波際まで辿り着く。私は寄せては引いていく波を興味深く眺めつつ、ギリギリ濡れないところを撫でるようにして、さらに足を進めていった。目的地は先ほど目に入った赤いなにかだ。
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