mol高等学校〜モデル始めました〜mol高等学校の噂
(〇現時点:2年生の設定
〇兎畄鈴るぅ 〇森川ともり)
「あ〜、だっる。勉強なんてクソくらえだわ」
隣に座る男が顔をしかめて言った。それにしても声がデカイな、と俺はうんざりする。しかもコレがダチって話、彼女が聞いたら呆れるだろうな、とも思う。
男が八重歯を見せて、低い声でうなる。
「おい。お前、ディスったな?」
「別に?それより授業始まるから、早く準備しろよ。次はともりの”大好きな”数学だろ」
「それはルゥが好きなやつだろーがバカ」
くだらないやり取りに笑ったあと、先生が教室に入ってきた。数秒後、チャイムがなる。
カバンが揺れる。そこからスマホを取り出すと通知が1つ入っていた。
その時は何気なく画面を見つめて、そのまま閉じた。今日も平和で何にもない時間を過ごす…
───はず、だったのだが。
放課後、いつも通りサッカー部の集会に行くと、何故か人混みできていた。
俺はそれが気になって、先輩に声をかけた。
「何すか、これ」
「しーっ!静かに!つーかお前は隠れてろ」
「はぁ?」
慌てた様子で俺を壁の外に追い出し、「女子が消えたら来い、いいな」と言って部室に戻った。意味が分からない。
「…」
とりあえず集まれそうにないので、先輩に言われた通り、人がいなくなるまで待った。
しばらくして、扉の奥から先輩が手招きする。
「もういいぞ」
部室に入り、席に座る。それから、すでに揃っていた面々に状況の説明を求めた。
「さっきの、何だったんですか?」
「ええと、それが……」
「聞いてないのか?お前、学校中で噂になってるぜ。いいや、学校外…日本で注目されてんだぞ」
それを聞いて、俺は唖然とした。
ピロリンと音が鳴り、スマホの通知を見ると、ろくに投稿もしていないモルスタに大量のメッセージが届いていた。
「うわっ!?」
「ビックリさせんなよ!…どうした」
「いや、これモルスタに知らない人から…どういう事ですか?詳しく聞かせてください!」
先輩はしぶい顔をして、部員と顔を見合せた。
ともり:side
昼休みのこと。屋上で寝そべっていると、複数名の女子がオレに話しかけてきた。
突然のことにドギマギしながら、オレは返事をする。
すると、彼女達は口を揃えてこう言った。「ルゥくんの友達だよね?」と。
「え?そうだけど、それがどうかした?」
「やっぱり本当だったんだ!ねぇ、モルスタのアカウント教えてよ」
オレはハッとした。ついにモテ期が来たのではないか!?と。浮かれているのを必死に隠しながら、オレはスマホを操作する。
「へへっ、オレので良ければ…」
「え?違うけど」
「…え?」
「ルゥくんのだけど」
「……あー、うん。だよね!はいはい、分かってるよ…」
虚しい気持ちになりながら、暑い日差しに照らされて茹でたこのような顔になった。
それから帰る時間になって、部活が休みのオレはルゥに連絡したのだが、それがなかなか返ってこない。
気になって部室を見に行くと、人混みができていた。
「おいおいおい、んだよこれは!」
「ともり、キミも来たんだね」
「はぁ?誰?」
オレの肩に手を置いて、悲しそうな顔をする男。いや、全然知らないやつだった。怖い。
「まぁまぁ、普段は教室の隅でひっそり生きてる僕だけど、こんなに騒がしいと行かざるを得ないというか?」
「ごめん、お前のことはどうでもいいけど、これ、なんなワケ?」
「ど、どうでもいい…ゴホン、見ての通りだよ。かの有名なルゥさんがいるだろ?」
「オレの友達だけど、それが?」
「僕が調べたところ、部活の後輩が『先輩かっこいーから、モデルオーディションに応募しちゃえば色んな人からモテるんじゃね?』ってノリでポチったら…」
当選結果を見れば「合格」の通知がきていて、単なる遊びのつもりが日本中に先輩の顔が広まったってさ、と彼は言った。
「…はぁ!?」
「そりゃあ驚くよな。キミの友達だし」
「ふざけんなよ!オレより先にモテてどーすんだよ!バカ!」
「あ、そっち?」
オレは身を乗り出して扉を蹴り、部室に侵入した。背中から悲鳴が聞こえる。
「何してくれてんの、このアホ!」
部員の胸ぐらを掴み、オレは「いくらお前でも許さねーからなぁ!!!」と大きく叫んだ。廊下中に聞こえるほど、その声は響いていた。
ルゥ:side
散々な目にあった。
部活が終わってともりと歩いている時の話だ。靴箱へ向かう途中、階段から大勢の女子(とミーハーな男子)がやってきて俺の手を掴んだ。
「あの、私、見ました!」
「な、何を?」
「某有名モデルサイト。うるべ先輩映ってましたよね?ビックリしました!前からかっこいいなって思ってたけど、凄いですね…」
「おれも感動しました!どけ、握手させろ」
「順番でしょうが!」
だんだん強くなる喧騒と握力に屈して、俺は
「ともり!助けろ!」と叫んだが、そいつは悲しげに俯いて笑うだけだった。
グッ、と親指をあげる。グッ、じゃねぇわ!この役立たず!
そのまま30分くらい握手会をした後、ぐったりしながら下校した。全てはモルスタ…いや、後輩のせいである。あいつらが下手な真似しなければ、こうはならなかった。
「あー、くそ。疲れた」
「ご愁傷さま。はぁ、いいなぁ。オレもモテてー」
「そんな嬉しいもんじゃないぞ。一日中着けられて待ち伏せされて、たまったもんじゃないね」
「それはモテるやつが言うセリフなの!ったく…それで、オーディション受かったワケだけど、これからどうすんの」
家の扉の前で立ち止まり、振り返る。しばらく考えて、俺はこう言った。
「…棄権する」
「はァ!?マジで言ってる?」
「あぁ、大マジだ。別になりたくてなったわけじゃない。馬鹿が勝手にやった事だろ、俺には関係ない」
「冷めてんなぁ…でも、それで通るか?」
「分からない。けどやる気はない」
来年は受験だ。モデルの仕事なんてやってる暇はない。俺は親が望む海外の大学で勉強して、ゆくゆくはアートクリエイターになるつもりだ。
だから、興味のないことに時間を使うほど暇じゃない。
「そうだ、お前がやったらどうだ?」
「オレ?」
「目立つの好きだろ。合ってるんじゃないか」
「いや、まぁ…でもオレだって歴史研究家になりたいし、そんなすぐにモテなくてもいいかなって」
「あと、ルゥと遊んだ方が楽しいしな」
「ふ、同感」
じゃあまた学校で、と別れを告げてベットに横たわる。目を瞑り、憂鬱な今日を終える。
??:side
彼の名前はすぐに覚えた。まぁ、あんなに有名になったんだから、嫌でも覚えるか。
スマホをじっと眺めて頬をつく。欠伸をこぼした。
僕の仕事はマネジメント。モデルやアイドルのサポーターってやつ。高校生になった今、実際に現場につき、勉強しているところだ。
そこで社長から新しい”スター”を探してほしいと頼まれた。僕はそれをすぐに快諾した。
だって、そんなの面白いに決まってるから。
「ルゥさん、ねぇ」
誰もいなくなった教室で、こう思う。
──彼と話してみようか。
ともり:side
「いた!おーい!」
「なぁ、アイツさっきから俺達を呼んでないか」
「ええ?気の所為だって。ほら、行こうぜ」
せっかくの休日なので、ルゥとショッピングモールで遊ぶことにした。めいっぱい楽しみたい…のに、変なやつに後をつけられている。普通に怖い。
「無視?無視しないでよー」
「やっぱり呼んでる…」
「あぁもう、ウザイなぁ
あんた誰?しつこいんですけど」
「僕?一応、こういう者でしてね…」
そう言って彼は名刺を差し出した。深く被っている帽子のつばを上げ、にやりと笑う。
コイツは、確か学校で…
「お前、ルゥの部室の前にいた変なやつ?」
「変なやつとは心外だな。七夜ひちしちだよ。ちゃんと名前があるんだから、そっちで呼んで」
「…変な名前」
ボソリと呟いたルゥに、突然オモチャの銃を突きつけた。なんかキレてる。
「ってのは冗談で…キミに用があるんだよ」
ひちしちという男がルゥを見つめて言った。
「単刀直入に言うけど、ルゥさん。
うちでモデルの仕事しない?」
「……はぁ?」
「まーたそれかよ。悪いけど、できないね。オーディションの件は断ったし、それに進路もあるからさ、暇じゃないんだよ」
「それに関しては大丈夫。スキマ時間にできる簡単な内容だからね」
なんだそれ。釣り広告の売り文句かよ。
ルゥと顔を見合わせる。
「胡散臭くない?」
「うん」
「ちゃんと聞いてくれないかな!?」
オレたちはひちしちを無視して、早歩きで逃げた。こんなやつに時間を奪われてたまるか。
〖①ファッションコーディネート〗
「こんな派手な服、俺に似合うのか?」
「まぁ、着てみなよ」
ともりに背中を叩かれ、試着室に入った。
蛍光色のライン、大きめの紫パーカー、バケットハット(韓国系でよくみるやつ)にチェーンネックレスにカバンに…厚底ブーツ。
まさにイケてる男が着るファッションってやつだ。俺とは程遠いイメージの…
「おー、やっぱ似合うじゃん。オレの判断は正しかったね」
「それ本当に言ってるのか?絶対お前の方が良いって」
「いやいや、こういうのはギャップが大事だし、オレが着ても面白くねーから。元から目つき悪いしさ…ヤンキーになるだろ」
「たしかに」
「頷くなこらッ」
ヤンキーともりは置いといて、せっかくおすすめされたので何着か買っていくことにした。
もちろん、ともりにも着せ替え人形になってもらう。
「コートにワインレッドのワイシャツ…って、大人っぽくない?むしろ大人すぎね?」
「普段より落ち着きがあっていいんじゃないか」
「なんだと…?」
「冗談。進学する前に、初詣行くだろ。その時に着ようぜ」
「じゃ、どっちもお揃いで」
「いや…ペアルックとか恥ずかしくないのか…」
「全然いいと思いますよ。実際にペアルックコーデをする男性のお客様もいらっしゃいますし、それに、二人ともよーくお似合いですとも!」
店員さんがおだててくる。ともりは満更でもなさそうだ。
「じゃあ会計を」
「はーい、かしこまりました」
「…え?」
店員の顔を見る。七夜ひちしちだ。
「なんでここにもいるんだよ!」
「バイト先だから」
「嘘つけ!本職はアイドルプロデュースみたいなやつだろ。勧誘に乗ってたまるか…」
ともりは店員を睨みながら会計を済ませ、すぐに店を出た。
〖②楽しめ!水族館!〗
「なぁ、アイツ。ストーカーだぜ」
「ああ…怖くなってきたな」
「今更かよ。ルゥを狙ってんだろ、断ったのにしつこいっつーの。早く回ろうぜ」
フードコートで生クリーム乗せフルーツジュースを買ってお店を覗く。…すごく甘い。
シューズショップで新作を見て、雑貨屋で買ったキーホルダーをカバンにつけて、モール内にある水族館に入った。
「クラゲ綺麗〜」
「動物園だったらひよこが見れたのにな…」
「水族館に来て何を言ってんだよ。また今度行けばいーだろ。それより、ほら、でっかいサメ」
「うおー、すげぇ。強そう」
「強そうw」
歩いては立ち止まり、水槽を指さす。それを繰り返し、ペンギンショーの会場にやってきた。大勢の観客で賑わっている。
「ペンギン!うわ、うわ…可愛い!」
「ルゥ好きそうだなって思ったけど、はしゃぎすぎ。隣の子供と同じくらいのテンション」
小さい子供が同時に飛び跳ねる。周りの目が痛い。
「ゴホン…それで、どんな技が見れるんだろうな」
「話の逸らし方おもしれー」
すると、ペンギンが宙を舞って半回転した後、勢いよく水に飛び込んだ。手前にいた俺たちと観客が水浸しになる。
ともりが 「うわ、冷た!」と大声で叫んでいる。今度は耳が痛い。
「オリンピックみたいだなぁ。現代のペンギン、まじレベル高い」
「ふはは、なんだそれ。てかめっちゃ楽しいわ」
「俺も」
顔を見合わせて笑う。最近は散々だったけどこいつの隣にいれば元気が出るし、充実した時間を過ごせる。
また時々、こうやって出かけるのも悪くない。卒業まで馬鹿やれたら…
(最高だな)
晴天を仰ぐ。真っ青で眩しくて、暑い。夏の色を雲が運んでくれる。
俺は目を閉じた。空気を吸って、吐き出す。楽しい一日がゆっくりと、暮れていく。
バス停で、すっかり焼けた空を眺めていた。
手元にある写真に目線を落とす。プリクラは一度も撮ったことがなくて、加工された酷い顔を見ると、なんだか気恥しい気持ちになる。
強い風に吹かれて、バスが目の前で止まる。
「じゃあ、帰るか」
「おう〜」
席に座って、外を見つめながら喋る。カバンの中で静かに鳴ったモルスタの通知には、全然気づかなかった。
ともり:side
翌日、またアイツに絡まれた。というか、生徒全員に捕らえられた。
「ふざけんな、離せ!」
「まぁまぁ、暴れるなよ。おれたちは華々しくモデルデビューした二人に話が聞きたいだけだって」
「はぁ!?」
ピタリと動きを止める。
「誰と誰が?」
「お前とルゥ」
「なんで?」
「いや、知らないの?逆になんで?」
絶句した。話が勝手に進められているのだ。しかも本人のいないところで、断りもなく。
「ちゃんと断っただろ。なんで…こう自己中心的が多いんだよ、皆でグルになるのはやめてくれ」
「悪役扱いか?まあ、たしかに僕はフラレたね。でも本当に素質があるんだよ、キミら」
「だからしつこいんだよ!」
突き放そうとして腕を上げる。が、誰かに腕を掴まれる。振り返ると、髭を生やしたおじさんがいた。
「君がともりくんだね。話は聞いてるよ」
ひちしち:side