キス・ザ・おひいさん「うわ……絶対荷物が大変だ……」
「それってジュンの普通では?」
ホールハンズの着信を読んですぐ口から飛び出したのはそれだった。仕事スペースでうるさく打鍵していた茨が口を利き、「うるさい」とも速やかに突っ込んだのだが。
話を聞き出されるハメになって、オレがおひいさんから「キャンプに行ってみたいね!」なんて送られたと知った茨はなぜかナギ先輩と自分も誘って、数ヶ月経って四人で旅行することになった今。荷物を分担できる人がいてくれるのは素直にありがたいが。
おひいさんが身に纏っているのがオレと同じ質素で平凡なハイキング用の服装のくせに、よくもアイドルらしく輝けたものだ。オレを揺らす手は汗の玉すらなくひんやりとしていて、枝先から珠簾のように差し込む木漏れ日が不規則な光の染みで顔を塗り、照らされる痩躯はまるで浮世離れした仙人のように見える。そもそもどうして今回がキャンプなのか聞き忘れたっけ。
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