君のおかげで僕がいる/嵯峨律毎年、先輩の誕生日が近くなると浮足立ってソワソワしてしまう。
何をあげたら喜んでくれるだろう?どうしたら嵯峨先輩が幸せだって思える日に出来るかな…そんなことばかりを考える毎日だ。
「眉間に皺寄ってる。何考えてんの?」
「あ、わ!せ、先輩…!?」
嵯峨先輩の誕生日の事ばかり考えていたから上の空になっていたけど、そういえば今は先輩の家でいつものように
勉強を見て貰ってたんだった。
「で?何考えてたの?」
「え、あ……その……」
「俺には言えない事?」
「ち、違います!」
少し寂しそうに言う嵯峨先輩に慌てて否定する。
「その、今日は先輩の誕生日だなって」
「……それで?」
「先輩は何をしたら喜んでくれるかなって考えてました」
そう言うと嵯峨先輩は一瞬驚いた顔をしてから嬉しそうに笑ってくれた。そして俺の頭を優しく撫でてくれる。
「何でもいーよ。律が俺のために悩んだ時間と、俺の事だけ考えてくれてたって事だけで嬉しいし」
「先輩……」
先輩のためなら何時間だって、何日だって、何ヶ月だって悩んでも良い。
……って言ったら重いかな? でも俺にとってはそれだけ特別な日で、何よりも大切で特別な人の誕生日なんだ。
「じゃあ、俺が先輩のどこを好きになったのか……えっと、たぶん語り始めたら日付変わっちゃうかもしれませんけど、それでも聞いてくれますか?」
俺の言葉に先輩はフッと笑って「何時間語る気だよ。そんなにあんの?俺の好きな所」と少し呆れたように、そして嬉しそうに言った。
「はい!何時間でも何日でも!」
先輩と過ごす時間が増えるほどに好きなところも増えていって、きっと俺の話はいつまでも終わらない。
「じゃあ俺も言う。律の好きなとこ。普段は照れくさくて言えないけど、こーいう時になら言えるだろ」
「あ、俺も……俺もです!」
嬉しくて顔が綻ぶ。先輩も笑っていた。
「じゃあまずは……律の笑った顔が好きだな」
「え……?」
先輩のその言葉にドキッとして思わず動きが止まる。俺の顔を見て先輩はまたフッと笑った。
「俺の言葉で笑ったり、照れて真っ赤になったりする顔とか可愛いと思うし、好きだと思う」
「せ、せんぱ……!」
そんな優しい顔でそんな事言われたらどうして良いか分からない。俺はきっと真っ赤になってるに違いない。だって、だって……!
「あと、一生懸命な所とか、他人思いで優しい所とか、いつも俺の事ばっか考えてるって知ってるから……可愛いって思う」
「せんぱ……っ」
もう先輩の顔なんて見ていられない。心臓がバクバク言って破裂しそうだ。
「律が傍にいてくれると安心出来るし、嬉しいし、幸せな気持ちになれる」
「せ……先輩!も、もう良いです!」
これ以上言われたら嬉しくてどうにかなってしまう。俺は思わず両手で耳を塞いで叫んだ。でも嵯峨先輩は「まだあるから」と俺の両手を掴んで耳から離す。そしてそのまま俺の両手を自分の両手で包み込んだ。
「律のこの手も好きだな。いつも俺に優しく触れてくれるし、俺を安心させてくれる」
「あ、あの……先輩……っ」
「あと、キスする時背伸びしてるのとか可愛いと思うし、キスした後のちょっと照れた顔とかもすごく好きだ」
「せ、先輩!も、もう良いですってば……!」
これ以上言われたら本当にどうにかなってしまう。俺はまた叫んだ。でも先輩はやっぱりそれに気付かないフリをして続けた。
「あと……って、まだあるけど聞きたい?」
「も、もう充分ですっ!せっかくの先輩の誕生日に俺が嬉しい言葉ばかりもらうわけにはいきませんっ」
「だって普段は律が俺にいっぱい言ってくれるじゃん。律は俺の言葉が足りなくても汲んでくれるけど…その優しさに甘えてばっかりじゃダメだなって思って」
嵯峨先輩が俺の事をそんな風に考えてくれていたなんて知らなかった。俺が先輩を好きなのと同じくらい、先輩の俺への想いも深いんだってわかったら嬉し過ぎて言葉にならなくて……
「今日は俺に言わせて。自分の誕生日にいつも律が俺にくれる言葉のお返し」
「せ、先輩……」
先輩が俺の手を包み込んでくれていた手を離して俺の頬へと伸ばす。そして優しく触れてくれた。
「律が俺にかけてくれる言葉ひとつひとつが、俺にとっては宝物なんだ。だから大事にしたいって思うし、この先もずっと一緒に居たいって思う」
嵯峨先輩の誕生日はいつもよりたくさんの大好きを伝えたくて。
でも俺の気持ちはとっくに伝わっているんだって、嬉しくて涙が出た。
「俺も、この先もずっとずっと先輩と一緒にいたいです。毎年誕生日は一番最初におめでとうって言いたいし、伝えきれない好きな気持ちも……これからの時間も全部、先輩と一緒に大事にしたいです」
「……うん。俺も……律とこれから過ごす時間も、好きな気持ちも2人で大事にしていきたい。……ありがとう、律」
そう言って嵯峨先輩にそっと抱きしめられて背中に腕を回すと、首筋にちゅうっと吸い付かれる感触に思わず変な声が出た。
「ひゃ!せ、先輩!?」
「……ごめん、今日は俺の誕生日だし……良いだろ?」
耳元で囁かれてゾクゾクと身体が震える。あぁ、これはもう逃げられないなと思った俺はそっと先輩の服を握りしめた。
「あ、明日も学校なので…お手柔らかにおねがいします……」
先輩にされて嫌なことなんてないけど、生憎明日も平日で学校だ。さすがに朝に響くのは困ってしまう……
「善処する」
俺の言葉を聞いた先輩はそう言うと優しく唇を合わせてくれた。
本当に手加減してくれるかどうかは怪しいところだけどそんな先輩も俺は好きだし、それだけ俺を想ってくれているって事だから結局俺は嬉しいんだ。
「律、好きだ」
「俺もです……嵯峨先輩」
先輩と出逢えて良かった。好きになってもらえて良かった。だから来年の誕生日も再来年の誕生日もその先ずっと……ずっと2人でいられますようにと願いを込めて先輩の唇に触れた。