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    ちゃむ提督

    @hamaru_ososugi

    🐲👻ちゃんがどちゃくそ大好きな者です!

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    ちゃむ提督

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    今回はほぼ番外編
    例の有馬ではとある秋の三冠🐴娘がいました。
    今回はその彼女からみたレースのお話です
    (本家のあのキャラとは!一切!関係ありません、念のため!)

    When your heart's cry reaches you(8) 私は〝英雄〟になりたかった。
     己に刻まれている西の偉大な英雄の名に恥じぬような、弱きを助け、強きを挫くような存在に。
     こんな地味で目立たない私には大それた夢だと、今でも思う。決して、私は真の英雄の姿を見たことはない。
     私にとっての英雄は、常に黄ばんで古ぼけたページの向こう側にあった。流麗な語り口で描かれる強く、勇ましい姿──幼い頃の私はその断片での描写から想像を膨らませ、己の姿をそこに重ねては夢見ていた。

    「(私も、いつか英雄に……!)」

     そんな大望を胸にトレセン学園に入学したもののデビューは遅れ、その頃には私よりもスター性を持ったウマ娘が既にいた。しっかり、着実にある程度の結果はコンスタントに出せてはいた。でも、鮮烈な勝ちは取れず、話題の中心は常に別のウマ娘だった。
     皆の記憶に留まれず、スポットライトの光は私を通り過ぎていく──

     だが、それでも私は走り続けた。記憶に残るような走りが難しいのなら、せめて記録に残るような走りをしたかった。
     ならばと無理なローテーションを組んでまでレースに挑んだ。天皇賞(秋)にジャパンカップ、そしてトリの有馬記念。がむしゃらに走り、全てのレースを先頭に立ってゴール板を駆け抜けた。
     やっとの思いで手にした秋の三冠。最後の一冠の有馬記念を征した時、大きな歓声に包まれた瞬間を私は一生忘れることは無いだろう。

    「(皆が観てくれてる!……今度こそ、私は皆の心に残れる英雄になれたんだ!)」

     沢山の声援を一身に浴びながら、名前の英雄に恥じないように尚も走り続けようと心に誓った。
     でも、それも長くは続かなかった。

    〝大外から足音軽やかにダンデ!三冠達成!!無敗の三冠ウマ娘達成であります!ダンデ七戦七勝です!……期せずして場内から大きな拍手が起こりましたっ!!〟

     次の世代のウマ娘による無敗の三冠に連勝記録。彼がデビューした瞬間から、メディアもトレセン内でも彼の話題で持ちきりになった。
     彼の三冠が決まった菊花賞は、私も競技場で観戦していた。影すら踏ませない、目を奪われるような圧倒的な走り……私が今まで観てきたどんなウマ娘よりも、凄まじかった。

    「分かってたけど……やっぱり、目の当たりにすると辛いな」

     レース場が無敗の彼を賛美する声に一気に包まれる。最早、彼を止められる者はいないのではなかろうか。
     彼のようなウマ娘こそが、人々の抱く理想の〝英雄〟そのものなのだろう。

    「ここまで来ると、嫉妬心すら抱くのも烏滸がましいかもしれませんね……彼こそ、英雄の名に相応しい」

     悔しいという感情すら、最早抱けなかった。
     彼の無敗のクラシック三冠と私の秋古バ三冠。どちらが偉業なのかと聞かれたら、恐らくほぼ全員が前者を選ぶだろう。
     一生に一度しかないクラシック級のレースは、数あるレースの中でも特に尊いとされている。皆が皆、そのレースを征することを目標とするし、中には一国の王になるよりも難しいとされるダービーも含まれる。
     比べて、春や秋の古バ三冠レースは、そもそもローテーションが厳しい。
     狙える実力のあるウマ娘でも、怪我などのリスクを考慮してあえて回避することも珍しくなかった。

    『秋古バ三冠なんて、そもそもチャレンジするウマ娘が少ないのだから、価値なんて殆どない』
    『あの二冠ウマ娘もいなくなった後だぞ?対抗バもマトモにいないんじゃ、最早ズルってもんだ』

     中には、そんなことを言う人もいた。確かに、私の世代の実力のあるウマ娘は、故障でターフを去っていた。
     だからといって、私は共にレースを走った戦友らを弱い等と思ったことは一度もない。皆、一生懸命走って、私も何とか勝てて……それでも、私の戦績を見る目は厳しかった。更には「ただ運がよかっただけ」と評されることもあった。
     あれだけ頑張ったのに。とても、悲しかった。
     私の〝英雄〟の夢は、あまりに大きすぎたのかもしれない。それでも、私は諦められなかった。
     足掻いて足掻いて……けれども、結果は残せず時間だけが過ぎていく。

    「駄目だ、もう止めた方がいい。……このままでは怪我に」
    「だ、ダメです!まだ私はやれます!!……まだ、まだ私は走れるんです!」

     前のようにタイムを更新出来なくなった。息も前のように続かなくなった。
     段々とスピードも出せなくなって……身体能力の衰えが、日々数字になって現れていった。
     私の身体はもう限界のようだった。最後まで現役続行に向けてトレーナーとも話し合ったが、あえなく次の有馬記念を最後に引退が決まった。
     しかし、その有馬記念こそが、待望の彼との──あのダンデとの最初で最後の対戦だった。

    「(絶対に勝たなきゃ。彼に勝てれば、今度こそ私は……!)」

     そう心に誓って挑んだ当日。ゲートへ向かおうとターフを踏み締めた瞬間。、ワッとレース場が沸き上がる。振り向けば、そこに彼がいた。
     無敗の三冠バ……ダンデ、その人だった。
     全身の筋肉がもう仕上がっている。見ただけでも、分かる。彼はもうほぼ完成されている──!
     息を飲むも、周りからの歓声で一気に意識が戻された。

    「ダンデー!今日も期待してるぞー!!」
    「絶対勝ってくれよな!世界最強のウマ娘ってもんを見せてくれ!」

     それはそれは異様な光景だった。皆、ダンデしか見ていない。違う、ダンデという最強のウマ娘を観に来ていた。
     私以外の周りのウマ娘の面持ちも何処か暗い。私の今まで出場してきたレースとはまるで雰囲気が違っていた。
     怖い……こんな感情をレースに抱いたのは初めてだった。オーラが違う、雰囲気が違う。このレースはもうダンデただ一人の為にあるようだった。
     
    「(……勝てなくても仕方ない。だって、もう身体のピークも過ぎてるし、タイムも出せなくなってる。勝算なんてもうないよ。……でも、ここなら負けても許される。だって、ここには最強のウマ娘がいて、皆が彼の勝利を望んでるもの)」

    「あっ……」

     頭の中で、そんな声が響いた。咄嗟に頬を叩いて邪念を振り払う。
     私は今、なんてことを思ったんだろう?
     それじゃ駄目だ、絶対に駄目だ!こんなもの、私を応援してくれているトレーナーに、ファンにあまりにも失礼だ。
     私は勝って本当の英雄になる。
     この脚で、このレースで今度こそ!

     ゲートが開き、とうとう私の最後のレースが始まる。そして、私はとんでもないものを見た。

    「(どうして、キバナさんが先行で……!?)」
    「……よっし!」

     真っ先に飛び出したのは、まさかのキバナだった。
     彼は末脚自慢だったはず。何度も同じレースを走ったが、先行策なんて今まで一度もやったところなんて見たことがない。

    「(確かに、先行策ならこの中山なら……)」

     最後の直線の短いこの中山は、後ろからの脚質が不利ではある。しかし、それを天秤に掛けても今までにとったことのない作戦をとるなんて、無謀にも程がある。作戦が変われば、レース中の立ち回りも大きく変わる。
     どうして、この有馬記念で彼はそんなことをするんだ。
     怖くないのか?このレースは、全てあの絶対王者の味方だ。
     例え、勝利してもその先はきっと──

    「そうだ、それでもただ勝ちたいんだ……キバナさんは……」

     そこまでしてでも勝ちたいんだ。彼に、あのダンデに。
     そうして私はハッとする。
     私は何故勝ちたい?英雄になるため?そのために私はどうしていた?

    「そっか、そうなんだ……だから、私は勝てないんだ」

     遠い彼の背中が見える。遠くにある彼の背中を見ながら走るのはこれが初めてかもしれない。
     私は忘れていたんだ、純粋に勝ちたいという気持ちを。そのためにひたむきにレースと向き合うことを。
     こんな最後も最後で気付くなんて、私は本当に大馬鹿者だ。
     ああ、こんな私じゃ〝英雄〟なんて程遠い。

    「(眩しい、なぁ。遠いなぁ……もっと皆と走っていたかったなぁ)」

     彼はこれからどんな物語を紡いでいくのだろう?楽しみだな……出来ることなら、この両の目で見ていたかった。
     私の前をどんどんと他のウマ娘たちが追い抜いていく。けれど、不思議と悔しい想いはしなかった。ゴール板を、キバナは一番に駆け抜ける。
     さあ、新たな物語がここから始まる。

    「っしゃああっっっ!!」

     私の物語は、これで一旦幕を閉じるけれど──

    「おめでとうございます、新たな〝英雄〟さん……!」

     新たな物語と主役となる〝英雄〟の誕生に、静かに拍手を贈る。
     久しぶりに見上げた空は、何処までも青かった。
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