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    v_annno

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    v_annno

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    🔮🐑
    cult of the lambパロ
    神様に「する」ため惨殺されて怨霊化したサイキックと生贄ふーちゃん

     ここ1年で聞き慣れた、細いホイールの音に耳を澄ませる。キィキィと響いて神経をささくれ立たせる、大嫌いな音に縋りつく。そうでもしないとファルガーは、気が狂ってしまいそうだった。
     四方から浴びせられる奇妙な歌。聖句だと奴らが言い張るそれは、教会のミサで聞くそれとはまるで異質だ。使われている文言が違っているから、という訳ではない。
     感情が違うのだ。
     素晴らしい自分に酔っ払っている。欲望の成就を只管ひたすらこいねがっている。陶酔しきって我を忘れ、喚き散らかしている。神への愛、隣人への愛──すなわち忍耐を持ち合わせていない、幼稚な感情の発露。こんなものは宗教ではない。
     小さい頃に無理やり連れて行かれた日曜日のミサが恋しい。面倒くさくて退屈な、真面目くさった神父の話を正しく思える日が来るなんて思いもしなかった。
     市民ホールじみた、どことなく安っぽい感を抱く内装を誤魔化す暗闇と蝋燭の灯り。価格を抑えて増産したのが丸分かりの、テラテラとした薄っぺらい教団の御旗。ひしめく信者の恍惚とした身動みじろぎと人いきれが、頭の芯にもやを掛けていく。ここに来る直前に、左目の周囲を塗料で汚された所為もあるだろう。目が染みて、視界がぼやけている。
     記憶の中の清廉さとは真逆の、欲にまみれた空間をファルガーは進む。望んで足を進めている訳ではない……そもそも彼には両足が、両腕がなかった。抵抗する術など一つも持たず、車椅子で運ばれているに過ぎなかったのだ。
     ファルガーがこの状態になったのは、1年前のこと。いやそれは本人の体感というだけで実際には、その半年前には両手足を切除されていたらしい。その間ずっと、ファルガーは昏睡状態にあったそうだ。
     四肢を奪った事故の記憶は、ない。覚えていなくて良かったと家族は言うが、とても頷けはしなかった。気付いた時には、手足が無くなっている。そんな言いようのない恐怖と混乱を味わった後では。
     体重の半分を失った体を、車椅子は易々やすやすと運んでいく。狂信者たちの体が壁となって、“運搬路”は一本道に形成されている。ファルガーは長い前髪の間から、痛む目で以てそっと周囲を盗み見た。無遠慮に己を眺め回す、気味の悪い生きたかきの中に自分の両親がいやしないかと。
     語り尽くす術のない過酷な生活の中、最初に宗教に狂ったのは母親だった。次には、妻を正気に戻そうと教団に乗り込んでいった父親が。可哀想なご子息を元に戻して差し上げますよという、叶えられる訳もない約束を取り付けられて、何もかもをも差し出した。理性も、金も、家も……最後には、くだんの可哀想な息子まで。
     いや、本当に狂っていたんだろうか? ファルガーは再び顔を伏せて考える──自分は、間引き・・・されただけなんじゃないだろうか、と。
     車椅子が止まる。目の前には、赤い布を掛けた台座のようなものがあった。妙にゴワゴワとして、人間の血で洗ったのだと言われても信じてしまいそうな、不潔な赤だった。押手を務めていた狂信者が、四肢のない体を抱え上げる。医療者や家族のそれとは違う、完全に物を扱う手つきだった。
     不潔な台座の上へ、恰好だけは厳かに横たえられる。見た目通りにごわついた布が、素肌に触れるのがいやだ。いま身に付けているのは服とも呼べない、ほとんど肌身を隠さない布切れでしかない。供物くもつ相応ふさわしい装束だと言われて、連中に着せられたのだ。
     ──供物。つまり、生贄いけにえだ。
     ファルガーは今、狂ったカルトの居もしない神様とやらの為に、殺されようとしている。
     台座の真上には、見るからに不格好なシャンデリアもどきが吊るされている。そこに灯された数多あまたの蝋燭は、揺れる光で視界を奪い、酷い熱を発して肌を炙る。蝋に何か混ぜ物をしているのだろうか、重たく垂れ落ちる強い刺激臭にファルガーは咳き込んだ。けれど苦しさに丸まろうとする体を、連中は許してくれない。
     四方から時代錯誤なローブ姿の人間が近寄り、肩や足の付け根を掴む。暴れるだけの余裕はなかった。立ち込める臭いに目が痛んで涙が滲む。それでも、何をするつもりなのか見てやろうと必死に首をもたげ、両目を見開いた。
     狂信者たちは、ファルガーの丸く縫合された四肢の先を何かに嵌め込んでいた。かくりと、半ばで折れる関節のあるもの。真っ赤に塗りたくられたそれは、どうやら義肢のつもりであるらしかった。けれど、体に固定する為のハーネスなどを取り付ける様子はない。ただの装飾なのだ。あるいはかせか。
     ローブの連中が退すさり、抑える手が無くなっても、体をよじることすら出来なくなっていた。短い手足の先に付けられた義肢が重石おもしになっているのだ。半年間寝たきりであった体には、未だ往時おうじの半分も筋肉が戻ってきていない。
     咳をするにも辛い体勢の中、ファルガーは兄のことを思い出していた。家族が無為に泣き、嘆き、怒り、叫ぶ中、ひとり必死に未来を見据えていた、ヴォックスのことを。
     両手足を失った現実を受け入れられずにいた弟の病室に、兄は毎回、殊更ことさら明るく振舞いながら現れた。昏睡していた間に出ていた、ファルガーが大好きだった小説や漫画、アニメの続きをお見舞い品に、あぁだこうだと根気強く話し掛けてくれていた。
     お前の世界にはまだまだ愉しいことがある、義手や義足だって筋電きんでんで動かせる便利なものが沢山あるんだ、趣味だって、勉強だって、仕事だって何だって出来るようになる、だから頑張ろう、俺が何だってしてやるから、だから──。
     ヴォックスは本当に、ファルガーを愛してくれていた。あのむごい事故の中でも命を手放さなかったのなら、この先だってきていけると信じてくれていた。その為の道を、自分の人生すら犠牲にして整えてくれようとしていたのだ。
     いま思えば、の話だけれど。
     当時のファルガーは、そんなこと気付きもしなかった。自分を思う言葉を怒声で遮り、口汚く罵り、兄の愛に唾を吐いた。
     他人事だと思いやがって。こんな体になったことすらない癖に。お前がこうなれば良かったんだ。出ていけ、お前の顔なんか二度と見たくない!
     兄が言い返せないのを良いことに──そうだ、ファルガーは兄が言い返す訳がないことを知っていた──散々罵声を浴びせて追い返した。それ以来、ヴォックスは一度も見舞いに訪れていない。
    (あぁ、これはその罰なんだな)
     酷い匂いにむせびながら思う。
     あのとき、ヴォックスの言葉に頷いていれば。頑張るよ、応援してくれと言えていたなら。きっと兄はカルトに狂った両親を止めてくれただろう。いやそも彼がいてくれたなら、母は宗教になど走らなかったのかもしれない。ファルガーだって、こんな不潔な台座ではなく、病院のベッドに横たわって。こんな重石にしかならない木偶でくじゃなく、筋電で動く義手の練習に精を出せていたのかもしれない。
    (あぁでも、そうしたらヴォックスの人生が滅茶苦茶になってしまうのか)
     ふと我に返って、甘い夢想が終わりになる。
     人を愛し、人に愛される兄。昔から、ヴォックスは人の中心にいた。この先ずっと続くだろうその実りある人生に、四肢のない弟がどれだけ影響する事か。私生活、仕事、恋愛に結婚──輝かしい筈のそれらに、どれだけ濃い影を落とすことか。両親が死んだ後にも残り続ける責任を、どちらかが死ぬまで負わせ続けてしまう。
    (そうか。じゃあ、仕方が無いな)
     仕方がない。胸中でそう呟いて、ファルガーは間引きされる自分を受け入れる──受け入れようと、努力する。
     けれど報いてくれる人間なんて、ここには誰もいなかった。
     狂信者の歌が、急激に熱を帯びた。統制が一層なくなり、殆ど喧騒と区別がつかなくなる。
     その騒音の中に、ファルガーは物の潰れるような音を聞いた。

    ──ぎちゅり。

     床近くから聞こえる、空気が粘っこく潰される音。仰向けになった頭の上から聞こえるそれに、必死でおとがいを上げてそちらを見る。逆さになった視界に、奇妙な人影が映った。
     履いているのはゴムの長靴……先程から物を潰すような立てていたのはこれだろう。胸から足まで覆い隠すのは、魚を捌くのに向いていそうな防水エプロンだ。頭には目出し穴を開けた紙袋を被り──そして片手に、刃渡りの長い手斧を持っていた。
     ホラー映画に出てきたなら、きっと指差して笑ってしまっただろう。ちょっと露骨すぎやしないかと、物笑いの種にしていたに違いない。
     けれどそれは、目の前に質量を持って、存在していなかったらの話だ。

    ──ぎちゅり。

     ゴム長の足が、重たげに一歩踏み出す。信徒に己の存在を引き付ける為に……生贄に恐怖を刻み付ける為に。

    ──ぎちゅり。

     勿体ぶった足音が、ファルガーに近付く。紙袋から覗く目玉は、そこだけ強調されているようで酷く不気味だ。何も考えていないようにも、わらっているようにも見えた。得物を持った手を軽く振って、手斧の柄を反対側の掌に打ち付ける。それで何をする気かなど、分からない訳がない。
     は、は、と息が切れる。まなじりから涙が落ちる。目に塗られた塗料が痛いから? 蝋燭の臭いが酷いから? いいや、最初からそんな理由じゃなかった。最初からファルガーは、恐怖でまなこを濡らしていた。
    「…………いやだ」
     決して口から出すものかと、決意していた言葉が容易たやすこぼれた。
    「いや、いやだ……死にたくない、たすけてくれ、いやだ……」
     言うものか、言ってたまるものかと、必死に押しこらえていた言葉。
     だって言ってどうなるのだ。誰も助けてはくれないのに。
     両親には間引かれた。兄は自ら遠ざけた。どんなに泣いて縋ったって、末期まつごが惨めになるだけなのに。
     唯一動かせる首を、死に物狂いで振りたくる。けれどそんなもの、抵抗にだってなりはしない。ゴム手袋を嵌めた手が、色の抜けた髪を鷲掴みにしてファルガーを仰け反らせた。それだけで、もう何一つ出来なくなる。
     喉元に、ひたりと冷たいものが当てられた。
    「いやだ、たすけてくれ、ヴォックス、ヴォクシー、おにいちゃん、たすけて……」
     全身が恐怖で震えて、命乞いも音にならない。頭皮を引かれて開きそうになる瞼を必死で閉じながら、ファルガーはこれが夢であるよう一心不乱に祈った。
     こんなに恐ろしいことが現実である筈がない。こんなのは夢だ。ただのこわい夢だ。おとうさんとおかあさんが変な宗教に嵌ったのも、おにいちゃんにひどいことを言ったのも、てとあしがなくなったのだってぜんぶ夢だ。目がさめたらちゃんとじぶんのベッドの上にいる。そうしたらじぶんのあしでベッドからおりて、じぶんのてでおにいちゃんのへやのドアをたたこう。こわがりめ、またこっそりこわいはなしをよんだんだろうってわらいながら、いっしょのベッドでねてくれるから。だっていつもそうだもの。オランウータンがいえにはいってきて、ころされてだんろにつめられたらどうしようってこわくてねむれなかったときも、おにいちゃんはいっしょにねてくれた。「おにいちゃんはゴリラだからな。オランウータンなんてやっつけてやるぞ」っていって、ゴリラのまねをしてわらわせてくれた。だから、きょうだってきっと「ファルガー、ふーふーちゃん、大丈夫だ、怖いことなんて何もないよ」ってだきしめて、ああああああああ、おにいちゃん、あいたいよ、ヴォクシー、会いにきてくれてほんとうはうれしかったんだ、ヴォックス、ヴォックス、あんなことを言ってごめんなさ



     最期に感じたのは、喉を潰される苦しさだった。



    「ふーふーちゃん?」
     呼ばれて、ハッと目を見開く。左右で色の違う目が、間近でじっと己を見ていた。
     だれ、と訊ねようとしたけれど、喉が震えて殆ど音にならなかった。聞こえていなかったのだろうか、色違いの目の人は、黙ったまま両目と眉を柔らかくたわませた。
     ファルガーは、逆さになった視界でじっとその人を見つめる。今まで、見たことのない人だった。
     毛先に掛けて明るくなっていく、朝焼けみたいな紫の髪。柔らかそうなそれから覗く右目は、重く被さる睫毛まつげの下で星のようにまたたいている。綺麗でなよやかだけれど、女性ではない。あごや首には力強さがあった。そういえば、掛けられた声も滑らかではあったが、男性のものだった。
     不意に、彼の手が上がる。骨ばった大きな手は、けれど優しくファルガーの髪をいた。ぐしゃぐしゃになっていた白い髪が、すべすべと解かれていく。痛みと恐怖の記憶が、段々と溶けていった。
     そうなってようやく、状況にまで頭が回るようになってくる。ファルガーは今、彼の膝に頭を乗せられ覗き込まれているようだった。
     朝焼け色の髪の向こうに、こぼれそうな星空が見える。微かに肌を撫でる、少し冷たい夜の風。草木の匂いが鼻に届く。あの嫌な空間とは程遠い、心安らぐ世界があった。
     かみさま? そう訊ねた声は、震えが治まったのに矢張り音にならない。けれど、今度は聞き取って貰えたようだった。
    「そうだよ」
     彼はふっくらとした唇を優し気に笑ませて、ファルガーの問いを肯定した。
    「おれはね、ふーふーちゃんの為の神様なんだ」
     自分の為の神様? 意味が解らず、目を瞬かせてしまう。神様は、くすくすと密やかに笑った。そして色の抜けた髪を梳いていた手を下し、ファルガーの頬を柔らかく撫でる。その爪が黒いことを、ぼうっとしながらただ受け入れた。
     いつくしみ深くファルガーを慰撫しながら、神様は囁くように言った。
    「ふーふーちゃん、殺される時、どんな気持ちだった?」
     微睡まどろみかけていた頭に、残酷な問いが突き刺さる。体の中心が凍るような心地に震え上がっていると、再び柔らかな声に問いかけられる。
    「怖かったんだね。死にたくなんて、なかったんだね」
     頷こうとして、出来ないことに気付く。頬に触れられている所為だろうか。
     代わりに音にならない声で、「しにたくなかった」と復唱する。満足そうに頷きながら、神様は重ねて問いかける。
    「手足が無くなっちゃったから、あんな奴らに目を付けられたんだ。手足があればよかったね。もう一度、手足が欲しいよね?」
     言われるがまま、「ほしい」と返す。神様が笑いながら首を傾げたので、慌てて「てあしがほしい」と音のない言葉を唱え直した。満足そうに頷かれて、酷く安心した気持ちになる。
    「そうなんだね。ふーふーちゃんは死にたくないし、もう一度動かせる手足が欲しい。おれはね、ふーふーちゃん。それを叶えることが出来るよ──きみが心から、助けを欲してくれるのなら」
     頬を撫でていた手が顎に移り、唇の上に親指を置かれた。掌に包まれた顎を、指の腹に圧された唇を、すべすべと擽られる。色違いの綺麗な目が、ファルガーをじぃっと映していた。
    「言って、ふーふーちゃん。……おれの名前と一緒に、たすけて、って」
     なまえ、と口の先で呟く。分からない。神様の名前を、未だ教えて貰っていない。困って目をうろつかせていると、「あぁそうか、ごめんね?」と揶揄からかうような口調で謝られた。
    「ふーふーちゃんがあんまり可愛くて、訊かれたのに答えるのを忘れちゃってた。大丈夫、ちゃんと教えてあげるよ」
     うつむく神様の顔が近付いてくる。唇が触れてしまうんじゃないかと思うような位置から、吐息のような言葉が降らされた。
    「──浮奇。それが、おれの名前だよ」
     うき。睫毛をはらはら羽ばたかせながら、ファルガーは不思議な響きのそれを唱えた。色違いの目が、嬉しそうに細くなる。
    「そうだよ、さあ言って、ふーふーちゃん!」

    「……助けて、浮奇」

     不思議と、それだけは音になった。首を傾げる間もなく浮奇に持ち上げられ、力強く抱き締められる。
    「うん、うん、勿論だよ! 君のことを助けてあげる。生き返らせて、腕も足もあげる! だって君は、ふーふーちゃんは、」
     上擦った声と共に頭を揺らされながら、ようやくファルガーは気が付いた。

    「おれだけの供物ものなんだから‼」

     己には、首から下がなかったのだと。



    「よっ、サニー! ちょっと聞きたいことがあんだけどさ」
     窓越しにひょっこり顔を出す見知った顔へ、サニーは遠慮会釈のない大きな溜息を漏らした。狐耳のキャスケットに色付きの丸眼鏡をかけた、一度見たら忘れられない風体ふうていの男は気にした素振りがまるでない。ニコニコ邪気なく笑う顔に、パトロールカーの中から顰めた顔を向けてやる。
    「なに、ミスタ先輩。何か用?」
    「だから聞きたいことがあるんだって! 大丈夫大丈夫、捜査に関わる超重要な内容を上から下までくっちゃべれなんて言わないからさ!」
     当たり前だと、視線を強めてジロリ見遣る。たかだかハイスクールで世話になった程度で、仕事内容をペラペラしゃべったり出来るものか。
     だんまりを貫く後輩に、ミスタは了解を得たのだと勝手に解釈したらしい。ゴンゴンと喧しく窓を叩く先輩の為に、サニーは嫌々パワーウィンドウを開けてやる。ド派手なシャツの両腕が、馴れ馴れしくそこで腕を組んだ。
    「やぁありがとう! んで聞きたいことっつうのはさ、こないだのクソヤバカルト惨殺事件のことなんだけど」
    「さようならミスタ先輩。お元気で」
     スイッチに指をかけ、問答無用でパワーウィンドウを引き上げる。ミスタは大慌てでサニーの腕に縋った。
    「待て待て待て! 話を聞け!」
    「その話なら口外できない。どんなことだろうと他所よそに漏らすなってお達しが来てるんだ、特にマスメディアにはね」
    「はあ⁉ オレはクッソ鬱陶しいパパラッチなんかじゃないし、あんな連中に頭下げて情報買って貰わなきゃならないほど金に困ってない‼ オレは天才探偵だぞ‼」
     ギャアギャアうるさい年上の男に、サニーは輝く金髪の下で益々顔を顰める。街中でぶっ放したら確実に謹慎を食らうだろう。エキノコックスに感染した狐を駆除しただけです、で通らないだろうか。法の抜け道を探す警察官に、窓に腕を挟まれながらも抵抗を続ける天才探偵は、実に哀れっぽい声を上げてみせた。
    「頼むよ、ダチの弟が当日そこにいたらしいんだ! 自分で入信したんじゃない、カルトに狂った親に無理やり連れて行かれちまったんだ。事故で手足がなくなってて、ショックの所為か髪の色も真っ白に抜けてる。なあ、そんな奴が現場にいなかったか? ニュースでも被害者を公表してくれない、せめて生き死にだけでも知りたいって頼まれてるんだよ!」
     ぴく、と空色の瞳が泳ぐ。ミスタは恐らく、カルトの被害に遭った可哀想な一般人で警察官の良心を釣ろうとしたのだろう。けれどサニーが引っ掛かったのは、別の情報だった。
     無言で窓を下げる。ほっとした顔を見せる先輩に、しかし後輩は苦い言葉を伝えるしかなかった。
    「すまない。分からない」
    「は?」
     ミスタの声が、これまでになく尖る。それでもサニーは続けるしかない。
    「分からないんだ。現場で見つかった死体は……みんなそうだった」
    「……は?」
     狼狽えた声。そちらを見られない。視線を外したまま、サニーは呟くように言った。
    「どうやってか、全員、手足が根元から引き千切られていた……その所為かはわからないけど、被害者ガイシャはみんな髪の毛が真っ白になってたんだ」
     百人近くにのぼる、手足を千切られ髪を真っ白に染めた惨殺死体。
     事件当日そこにいた、カルトの被害者である四肢のない白髪の男。
     唐突に浮き彫りになった、偶然にしては出来過ぎた、奇妙で不気味な符号。天才探偵と警察官は、けれど何一つ、口に上らせることすら出来なかった。
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