萩原さんと紅葉デート歩きやすい服装でおいでなんて誘われたデート。待ち合わせ時間と場所は聞いたが、目的地は聞いてないと尋ねれば着くまで内緒と言われてしまう。
研二の運転するクルマに揺られて少し郊外に出ると、連れていかれたのはとある日本庭園だった。研二にそんな趣味あったっけ…?と思わず首を傾げてしまう。
「研二、日本庭園とか好きだった?」
「いや、お前が前に紅葉が見たいって言ってただろ」
私のテレビを見ながらの独り言を覚えていた事も驚きだが、紅葉も終わりがけの今、それを叶えてくれるとは思っていなかった。彼は本当に人を喜ばせる天才だと思う。
「…ありがとう。連れてきてくれて嬉しい」
「それはよかった。んじゃ、行きますか」
自分から手を繋げば、柔らかく握り返してくれる。私の歩幅に合わせて歩きながら幸せそうな微笑みを向ける彼は好きという感情が全身から溢れているようでなんだか落ち着かない。気恥ずかしさを誤魔化すように木々に目を向け、あっち行ってみようと細い道を指さすのだった。
「思ったより綺麗に見られてよかったな」
「研二も来たことなかったの?」
「俺は遅くまで紅葉が見られる場所があるって聞いただけ」
細い道を抜けると彼の頭の上に赤い紅葉の葉が一枚くっ付いていた。背の高い彼のことだ、低い木々に引っかかったのであろう。研二ちょっと、と少ししゃがんでもらえば彼の頭に乗った赤く色づいた紅葉に手が届く。いつもカッコいい彼の可愛らしい所を見たような気がして自然と頬が緩む。
「なんか嬉しそうだな」
「ふふっ、可愛い研二もいいなと思って」
「俺はカッコいいとこ見てほしいんだけど…。それに、」
綺麗な葉っぱだなと紅葉の葉をくるくると指先で弄んでいるとその手に彼の手が重なる。顔を上げれば私の為に屈んだままだった彼と至近距離で目が合った。
「お前の方がこの景色、似合ってるだろ」
僅かに赤く染まった彼が来年は着物でも着て写真撮りたいな、なんて言うものだからここに来る途中に結婚式の前撮りをしているカップルを見かけた私は紅葉に負けず劣らず赤くなるのだった。