萩原と秋の空気ジリジリと肌を焼くような太陽はいつの間にか鳴りを潜め、代わりに澄んだ空気を通って真っ直ぐ目に入る眩しい太陽が顔を出していた。
またこの時期かと溢れそうになったため息をぐっと堪える。空気が冷え始めると、朝の太陽が私にはとても眩しく感じるのだ。日差しを避けるために暖かい春を迎えるまで冬眠していたい。しかし、人間にそんなことが許されるわけもなく、今日は萩原くんの車の助手席に座っていた。
少しでも目に入る光を少なくしようと、自然と目は細められ眉間に皺が寄る。こんな顔したいわけじゃないんだけどな、ともう一度出そうになったため息をこらえる。せっかく休みが被ったからとデートに誘ってくれた彼に申し訳ないと思いながらもそうしていると、赤信号で止まったタイミングを見計らって萩原くんに声をかけられる。
「ごめん、ダッシュボード開けてくんない?」
「いいけど、何かあったc?」
「これ」
萩原くんの手にはサングラスが握られていた。彼が何度かしていたのを見たことがあるけれど、それがどうしたのだろう…?
首を傾げているうちに信号は変わり、サングラスは私の手に追いやられた。
「眩しいんでしょ? 今はそれしかないけど、多少はマシになるかなと思って」
運転中はこちらの表情なんて見ていないと思っていたのに、どうやら全てバレていたようだ。さっきの顔も見られていたのかと思うと恥ずかしくて、急に春にでもなったかのように体温が上がる。彼の好意に甘えてサングラスをかけてみると日差しが和らぎ、目を細めなくても外の世界を眺める事が出来るようになった。
「意外と似合ってるな」
「そう、かな?」
「あぁ、今度一緒に君に似合うサングラスでも買いに行こうかなと思うくらい。あー、でも冬は外よりあったかい所で過ごしたいタイプ?」
元々はそうだった。けれど、今は彼のおかげで外で過ごすのも悪くないと思える。
「萩原くんと一緒なら外で過ごすのもいいと思う」
サングラス貸してくれてありがとうと伝えると気が緩んだのか、自然と口元に笑みが浮かぶ。どういたしましてと返した彼は赤信号で良かった……と小さく呟きながら紅葉がおとずれたような顔を逸らした。