推し活する彼女にじぇらる萩原「最近構ってくんないけど、誰に浮気してんの?」
明らかに不貞腐れていますという顔をした萩原は、ソファで雑誌を読んでいた私の隣に座るなりそう口にした。萩原以外の男に浮気をした記憶はない。ただ、ここのところ悪の組織の顔が良いお兄さんたちや、殺陣がかっこいいと話題の新人イケメン俳優にうつつを抜かして萩原との時間があまり取れなくなっていた。誤魔化す気は無いけれど、うまく伝わるのかは分からない。話してみないと分からないか、と私はどう伝えようか頭を悩ませながら雑誌を置いて口を開いた。
「浮気は絶対してない。ただ、推し活……? フィクションの世界に夢中になってたというか……」
「お前の一番の推しは俺じゃねぇの?」
「研二は推しとは違うかなぁ」
肯定を期待していた萩原の顔がみるみるうちに曇っていく。おそらく彼は私に好かれているという自信がかなりあったのだろう。それゆえに私の推しは萩原であるという答えが返ってくると信じていた。しかし、私にとって推しと好きな人のタイプは異なっていた。
あまりのショックに何も言えなくなっている萩原をこれ以上いじめるのは可哀想かと私は彼の頬に手を添えて額に口付ける。
「研二は私の好きな人だから。推しよりももっと特別な一番好きな人だよ」
にこりと笑えばスイッチが入ったようにパッと萩原の表情が明るくなる。そして、柔らかく微笑んだと思うと指先で私の唇をそっとなぞった。
「特別、ならここもいいだろ?」
お前からしてほしい。そう甘えた声で言う萩原は多分まだ完全には許してくれていないのだろう。そっと口付けるだけでは離してもらえず、より深いキスを求めて抱き寄せられる。
「やっぱり研二といるのが一番幸せ」
「そりゃ、推しと違って俺は直接お前を愛してやれるから」
「まだ根にもってる……。どうしたら許してくれる?」
くすりと笑って彼の返事を待つ前にもう一度口付ける。
数ヶ月後には友人と世界的マジシャンのマジックショーに通う予定もあるけれど、今伝えるのは火に油を注ぐだけ。最愛の人は貴方だけだと萩原を満足させる為に今後の予定は頭の隅に追いやった。