一昨年の正月に発狂したヤツ? テレビをつければ年末番組、外を眺めれば恋人や家族で行き交う人々。そんな中、俺ミスタリアスは一人でパソコンのモニターを眺めていた。
「はーぁ、こんな年の瀬に一人かよ」
ママに会いに行こうかと思ったが、こんな時まで仕事らしい。仕事の邪魔なんてしたくなくてぶくぶくとアップルジュースを泡立てる。
「皆、今何してんだろ…」
スマホを取り出し、年末に一人だわと呟く。こんなことで癒される訳では無いが、吐き出さないとやっていられない。先程まではリスナーと共に過ごし、気が紛れたがそれも持続はしない。なんか動画でも見るかな…と動いた時、スマホから音が鳴った。
『一人なのかい? 私の部屋でピザを食べよう』
それは同期であるヴォックスアクマからのリプライだった。
「ははっ! いいじゃん!」
早速だと思い、ピザを注文する。ヴォックスへのリプライも返し、準備は万端だ。リスナー達を驚かせてやろう。どうせヴォックスは友人と過ごしているだろう、そこから離れて俺と会えなんて口が裂けても言えなかった。ピザを食べるならコーラもいるだろう、家にあったかな?なんて探そうとすれば、もう一度スマホが鳴った。今回はdiscordの通知音で、画面を見て見ればヴォックスから「今どこにいる?」という連絡だった。
「家だよ。 あんたも友達と仲良くなってんでしょ、良いお年を…っと」
手早く返事をし、その場を後にしようとしたが、次は着信音が鳴る。予想もしていない展開に戸惑いつつ、ミスタは電話を取った。
「ヴォックス?」
「あぁ、ミスタ。 私の家には来ないのかい?」
「行かないっつか、友達は?」
「帰らせたよ」
「ハ?! あんた何してんの?!」
「そりゃそうさ。 愛しい子と会うと決まったら予定ぐらいずらすさ」
「バッ…カじゃねえの?! 友達無くすよ?! てか俺ピザ注文したから家出れねえし」
「私の家にあるのに?」
「だからそれはあんたが友達と食べるやつで…!」
「ふむ、仕方ないな。 私がそちらに行こう」
「いやいや友達呼び戻せよ」
「今更さ。 それに、お前に会いたくて仕方がないんだ。 ダメかい?」
「ダッ……メじゃ、ねえけどさ…」
「それじゃあ、また後で」
プツリと通話が切れる。信じられない展開に、リスナーを驚かせてやろうだなんて企みはガラガラと崩れていった。驚かされたのはミスタのほうだ。ちらりと部屋を見渡す。面倒でほっておいたタオルや服が散乱しており、ヴォックスを招けるような状態では無い。
「あ〜…掃除すっか」
来ると言ったからにはあいつは来る。それならば、最低限整った部屋に招くのがマナーだろう。幸い、ヴォックスの家からミスタの家は来るまでに時間がかかる。最低限のラインまでは片付けられるだろう。そうと決まればパソコンの電源を落とし、片付けに取り掛かった。
ピンポン、と玄関のベルが鳴る。それを聞いたミスタは弾け飛ぶようにドアへ向かった。
「やぁ」
「ほんとに来るのな…」
「行くと言っただろう」
「その手のは?」
「ピザとサラダに、酒やら諸々さ。 いるだろう?」
「いるけどさあ、ほんとによかったわけ?」
「こら、まだそんなことを言うのはこの口かい。 私はお前と過ごしたかったんだよ、My Dear」
「〜あぁ〜! もう! あがって!」