勘違いってことにしません? 何で、どうしてこんなことに。人気がなくてお気に入りの校舎裏、いつも通りご飯を食べていただけなのに。目の前にいるのは全校生徒から人気の生徒会長で、私とは関わりのない人種。そんな女が、私に馬鹿みたいな甘い視線を向けている。
「ミスタ、聞いている?」
「は? いや…。 マジで何、ですか。 ドッキリとか?」
「そんな低俗なことはしないよ」
くつくつと笑う姿が様になっている。何度見ても、関わりのない人種だ。
「それで、考えてくれる? 私とのこと」
「あー、無理です。 彼氏いるんで」
「嘘は感心しないね。 いつも真っ直ぐ帰って男の影は見えないよ」
「は?! な、す、ストーカー?」
「私も帰り道が同じでね」
ヴォックスアクマ。我が校の輝かしい生徒会長で、生徒想いの優しい性格。ヴォックスのおかげで変えられてきた校則も数しれずだとか。教師からの評価もよく、欠点なんて見つからない。そんな奴が
「一目惚れだったんだ、その綺麗な瞳に心を奪われてね」
私にこんなこと言うわけない。
「見ていくうちに、ミスタ自身が素敵な女性だとわかったよ。 ここに住み着いている猫に、毎日餌をあげていたね。 それに、ここ一帯が綺麗なのはミスタが気まぐれに草むしりをやっているからだ。 これは噂に聞いただけだけど、クラスメイトにも親切にしているそうじゃないか」
「別に…」
「怪我をしてしまった下級生の子を保健室まで連れて行っていたこともあったね」
「なんか詳しくない?! キモいんだけど?!」
「ハハッ、キモいか。 初めて言われたよ。 ミスタは私にはじめてをたくさん運んでくれるね」
「その言い方もキモいから…!!」
ぞぞ、と這い寄る悪寒から身を守ろうと両腕を組む。そんな私を見てもヴォックスはくつくつと笑うだけで、遊ばれているのか?と思うには情報が詳しくて気持ち悪い。
「ねえ、とびきり優しくするよ。 私ではダメかい?」
「ストーカーと付き合う趣味ないんで」
「ストーカーだなんて、ただ愛しているだけだよ」
「それストーカーが言うやつです」
110番の用意が必要かと頭をよぎる。いや、そんな大事にしたら明日から学校での居場所がなくなる。どうしたものか、と思っていると不意に手を取られた。そのまま柔らかい唇が肌を掠め─
「いつか私のモノになってね、My dear」
「〜〜ッッッ!!!!」
バッと手を払い除け、その場から思いっきり逃げ去る。どくんどくんと荒ぶる鼓動が鬱陶しい。
(違う、別にときめいたわけじゃない、あんなストーカー、これは走ったからなだけだし)
息が上がり、壁にもたれて呼吸を整える。校舎裏からは離れたし、ここでは生徒たちの笑い声も聞こえる。まさかこんなところまで追いかけてきて口説いてきたりしないだろう。
『ミスタ』
「〜〜ッッッ!!」
がしゃがしゃと頭をかき混ぜる。忘れろ、忘れろ、忘れろ、悪い夢だ。
「ほんっと勘弁してよね…」
どれだけ頭から追いやろうと、ふ、と細められた瞳を思い出してまた悶えることになるのだった。
ヴォックスアクマ
生徒会長。顔がいい。声もいい。ストーカー気質。怖い(優しい)。
ミスタ
生徒会長から告白?!でもなんだかキモくて思いっきり逃げちゃった!これからの学校生活、私どうしたらいいの〜?!(ヴォックスには付きまとわれるしファンクラブから牽制されるし可哀想)