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    yumenopolis

    @yumenopolis

    夢の世界ユメノポリス。夢渡りをしながら人々を夢魔から守る夢の番人の物語。

    ©️ciro ukai

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    yumenopolis

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    1次創作で作っている作品『ユメノポリス』の小説第一話です。
    小説を書くのは慣れていない素人ですので、読みづらいかと思いますが、世界観など雰囲気が少しでも伝わったら嬉しいです。

    #ファンタジー
    fantasy
    #魔法
    magic
    #異世界
    isekai

    #01 前奏曲 嬰ハ短調『鐘』 夢の番人 突然、目の前に銃口を突き付けられた。

    「ウラノス…。」

     黒いコートに黒いマント、銀の装飾をあしらった黒いハットを深く被るその男は手にした銃のハンマーを持ち上げた。
     意識が朦朧として、状況が上手く飲み込めない。何故自分が銃を向けられているのか、このまま撃たれて、死んでしまうのだろうか。これが悪い夢なら早く覚めて欲しい…。
     逃げることも、叫ぶことも出来ず、恐怖と悲しみで涙が溢れる。それを見て、男は銃を握る手に力を込めた。

    「もう大丈夫だから、俺が君を守る。」

     彼は手にした銃の引き金を引いた。 閃光とともに、銃声音が辺りに響く。
     しかし、銃で撃たれたにも関わらず自分の体に弾痕は無く、痛みもない。まだ生きている。それどころか、全身が太陽の光を浴びたような温かさで、良く見ると仄かに光っている気がする。今まで虚ろだった意識も次第にはっきりとしてきた。
     一体何が起きたのだろうか。この耳で確かに銃声を聞いたはずなのに。何かのマジックか、単に弾が装填されていなかったのか、それとも、ただのオモチャの銃だったのだろうか…。

    「安心して。今のは君を守る為のお守りのようなものだから。」

     青年は銃を腰のホルスターに収めながら言った。

    「お守り…、この、光っているのが?」

    「うん。しばらくは効いているはずだから。今の内に早くここから抜け出そう。」

     抜け出す…?その時、やっと辺りを見渡して、これまでのことと、自分の置かれた状況を思い出し身震いした。
     何者かは分からない、ただ醜く黒い存在が、大勢で私を取り囲み、錆びた鉄の檻に閉じ込めたのだ。この中でずっとやつらに監視され、恐怖と孤独に怯えていた。
     しかし今檻の外にあるのは、獣か、生き物だったのかすら判別が付かない黒い肉片の塊があちこちに散らばっているだけ。 恐らく、私を檻に閉じ込めたやつらの残骸だろう。檻の一部もひしゃげていて、人が一人通れる程の隙間が空いている。
     まさか目の前に居るこの男が全てやったのだろうか、あの鉄の檻をも力で押し曲げたというのだろうか。意識ははっきりとしてきたが、朦朧としていた時の記憶は曖昧で、困惑する。

    「ここにいると君は少しずつでも弱っていってしまう。それにまだ、厄介な夢魔が残っているようだし。」

    「む、ま…?」

    「この世界で悪さをする悪魔のことだよ。さぁ、話はここを出てからにしよう。」

     そう言って差し出された手を掴み、ゆっくりと立ち上がった。どうやら彼は自分に危害を加える様子は無く、むしろ助けに来てくれたようだ。
     落ち着いた声色や手の握った感触から、年は若い大人の男性であることが分かった。身長は高く180センチ以上はあるかと思う。左胸辺りに銀の十字架のフィブラを付けていることから、エクソシストや神父を思わせた。
     彼が言うように、このままここに居ても状況が良くなるとは思えない。ここは従って、後を着いて行くことにした。


     ひしゃげた鉄の檻を潜り外に出ると、まだ暗い通路が長く続いていた。窓と呼べるものは無く、灯りもほとんどない。何かの建物だということは分かるが、それ以外に情報はまるでなかった。

    「グゥゥゥ…」

     突然、暗闇の中から、しかもかなり近い距離で獣のような唸り声がして思わず悲鳴を上げた。先ほど言っていた夢魔だろうか。
     すると暗闇の陰から青白い炎をまとった黒い熊が現れた。それだけでも驚くというのに、普通の熊よりも何倍も大きかった。こんなのに襲われたらひとたまりもない!

    「レム、脅かしちゃだめだよ。」

    「え…?」

     そう窘められ、巨体の熊は大人しくお座りをすると、次第に姿を変化させ、小さくなっていく。

    「なーぉ。」

     気付けばそこに座っているのは青白く光る可愛らしい黒猫だった。

    「鉄の檻を壊すのに、この子の力を借りたんだ。普段は猫の姿なんだけど、驚かせてごめんね。」

    「びっくりした、あなたのペットだったの。それにしても凄いね、変身出来る猫だなんて。……あ。私こそごめんなさい!」

     咄嗟にした行動とはいえ、思いきり彼の腕にしがみついていたことに今更気付き、慌てて手を離した。本人は気にしていないと穏やかに笑ってくれて、安堵した。
     暗闇の中、全身黒い服を身に纏っていて、おまけに帽子まで深く被り表情がよく見えないから、一見怪しい人物に見えるけれど、発せられる言葉や彼から伝わる雰囲気はとても柔らかく、不思議と安心感がある。どうして、私を助けてくれるんだろう…、そんな疑問が湧いた。

     青年は暗闇の道に向き直ると、懐から何かを取り出し、慣れた手つきでそれを手の内で回転させた。

    「デュナミス。」

     その声に応えるようにして物が一瞬で形を変え、2メートル程の長い杖になった。杖の先端にはダイヤのような宝石が嵌め込まれていて、彼が何かを囁くと、光を放ち辺りを照らし出した。

    「…どうやら、俺達がここへ来た道は夢魔によって塞がれてしまったようだ。別の出口を探さないと…。レム、道案内を頼めるか。」

    「にゃーぉ!」

     黒猫のレムは任せなさいとでも言うように、得意気に鳴いてみせた。

    「…一応言っておくけど、君が見付けた抜け穴とかじゃなくて、遠回りになったとしてもちゃんと俺達が通れる道を案内してね。」

    「なぁーぉ…。」

     さっきより少し不機嫌な声が返ってきて、思わず笑ってしまう。以前、通れないような道を案内されて困ったことがあるのだろうか。
     不思議な力を持つ彼等に驚きはするものの、違和感は感じなかった。きっとどこかで、これは夢なのだと分かっていたからかもしれない…。


     レムの後を着いて歩いていくと、開けた空間に出た。今までとは雰囲気が違い、何処かの古い西洋宮殿のホールみたいな作りになっていた。2体の天使を象った石像が左右に配置されていて、その奥に明かりが見える。

    「あれ、出口じゃないかな!」

     私はホールの先に見える光を出口だと思い、駆け出そうとした。

    「待って。」

     不意に腕を掴まれて引き戻される。気付けば、レムも毛を逆立てて辺りを警戒している。

    「あれは出口じゃない、君を誘い込んで捕らえるつもりだ。それにあの二体の石像もやつらが化けている。」

    「ど、どうして…」

     何故そんなことが分かるのかと聞こうとしたら、青年は被っていた帽子を脱ぎ、私の頭にそっと被せた。

    「…直ぐに終わる。それまで、これを預かっててくれる?」

     その時気付いた。今まで帽子とコートの襟で隠れ、良く見えていなかったけど、彼は左目に銀のモノクルを掛けていたのだ。何かに反応するようにレンズが青く光っている。
     もしかしたら、あのモノクル越しに夢魔の姿が見えているのかもしれない…。

    「レム、片方は頼んだ。」

     レムは返事の代わりに青白い炎を燃え盛らせ、黒豹の姿になる。青年はそれを確認すると、手にしていた杖を手の内で回転させた。

    「アルニオン!」

     声に反応して、今度は杖が楽器のフルートに変形した。それは黒に銀の装飾が施された繊細で美しいデザインのフルートだ。
     彼は無駄な動き一つせずフルートを構え、瞳を閉じて唄口に唇を当てると、その綺麗な長い指でゆっくりと奏で始めた。

     とても優しく、荒涼とした心をも鎮めるような流麗な音色に、まるで私の心も浄化されていくようだった…。

     驚くことに、先程まで出口と思われていた光は失われ、禍々しい暗黒の入り口へと化していく。あのまま引き止められず中へと進んでいたら、今頃どうなっていただろう…、想像するのも恐ろしい。
     同時に、二体の石像にも異変が起こる。石全体に亀裂が走り、その隙間から泥々とした黒い液体が溢れてくる。瞬間、石像を内側から砕き、中から真っ黒な醜い姿の夢魔が悲鳴のような叫びを上げて現れた。どうやら、フルートの音色には夢魔達の罠や本来の姿を暴き出す力があるようだ。

     姿を表した夢魔にレムが飛び掛かる。一体の夢魔の翼が折れて、地に落ちた。もう一体はこちらに向かって飛来してくる。
     しかし、私達の目の前まで来て、急に何かに怯えるように後退った。

    「あ…、お守り…?」

     彼が私に銃で掛けた魔除けのお守りが効いているようだ。
     演奏を終えた青年はフルートを口元から離すと、左の腰の鞘から剣を引き抜いた。細身で長く、柄の部分が十字架のような形をしている。
     夢魔は守られている私を標的から外し、彼に狙いを定めた。
     剣を軽く振りグリップを握り直すと、夢魔に向かって足を踏み込む。流れるような剣捌きで、目で追うのがやっとなくらいの素早い斬撃。あっという間に夢魔は地に倒れ、決着が付く。
     レムが相手していた夢魔も地面でもがき、動けなくなっていた。

    「レム!」

     呼ばれたレムは夢魔から離れ、こちらに向かって走ると勢い良くジャンプした。私の頭の上を通り過ぎ、空中で回転しながらその姿を黒い何かに変化させていく…。

    「あれは…バイオリン…?生き物以外にも変身できるの…?」

     青年は剣を鞘に収めると、フルートを右手に持ち替え、左手でそのバイオリンを受け止めた。

    「アフェシス。」

     そして、フルートを手の内で回転させながらそう呼び掛け、バイオリンの弓に変化させた。

     アフェシスと呼ばれた弓も、レムが変身したバイオリンもまた、銀の装飾が美しく、黒を際立たせ、彼が持つに相応しいデザインだ。

     青年はバイオリンを静かに構えた。
     辺りが静寂に包まれ、空気が張り詰めていく…。

     弓とバイオリンの弦が触れあう。始めの一音で、心を奪われた。

     力強く、繊細で、感情を衝き動かすような旋律。奏でられる音楽だけでなく、その決然とした姿までもが気高く優美である。
     旋律は光の文字を次々と生み出し、規則性を持って配列され、魔法陣を形成していく。まるでそれは、彼のステージを彩るように広範囲に広がっていった…。

    「これで終わりだ。」

     演奏がクライマックスに達すると、魔法陣から光の矢が無数に放たれ、夢魔達を貫いていく。旋律に乗って光が踊る様は幻想的で、ホール全体を星のような光の粒が瞬きながらキラキラと舞っている。

    「綺麗…本当に、魔法みたい…。」

     そうして光に触れた夢魔は跡形もなく散っていった。罠となっていた暗黒の入り口も浄化され、正しく外に通じる出口となった。

     演奏が終わると、残光が優しく降り注ぐ中、青年は最後に私に向かってお辞儀をした。バイオリンの音色は、夢魔達を浄化し祓うだけではなく、私に向けられた温かな贈り物でもあったのだ…。


     夢魔が消えると、先ほどまでの空気が嘘のように軽くなった。

    「これで全ての夢魔が消えた。もう君をここに拘束するものは何もない。
     あの出口も、今は外へ通じているはずだ。」

     やっぱり、あの鉄の檻の外で私を監視していた夢魔達も、この人が全部やっつけてくれたんだ。…今ならそう確信できる。
     少しだけ息が上がっている様子に、きっと夢魔達と闘ったり、演奏で全てを浄化するのに、多くの力を消耗していたんだと気付く。

    「なぁーお。」

     いつの間にか黒猫の姿に戻っているレムが、出口に向かってトコトコと歩いている。
     私達も、その後に続いて外へ出た。

     心地よい風が吹き、空は間もなく夜が明けようとしている。自然と体のこわばりも解けて、気持ちが落ち着いてきた。足元にすり寄って来たレムをしゃがんで撫でる。嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らすので、そっと抱き上げてみると、鼻の先を舐められた。透き通ったエメラルドグリーンの瞳と首に下げた十字架の飾りが光を反射して輝いている。

    「ありがとう、レム。」

    「にゃーん。」

     私はレムを抱いたまま、彼に向き直った。

    「本当に、ありがとう。なんてお礼を言ったらいいか…。」

    「君が無事で良かった。」

    (あ……)

     辺りが明るくなったことで、彼の顔もようやくはっきりと見ることができた。
     風になびく髪は黒くフワフワとした癖っ毛で、切れ長の目は瞳の色が鮮やかな深紅のグラデーション。睫毛はたぶん、私よりも長い。あんなに恐ろしい夢魔達と闘えるくらい、強くて勇気があるのに、穏やかに微笑む表情はどこか儚げで、男性だというのに、とても綺麗だと思ってしまった…。


    「一つだけ、聞いてもいいかな。……一体、あなたは何者なの?
     どうして私を助けてくれたの?」

    「………俺は、夢世界の住人。ユメノポリスの番人と呼ばれている。」

    「ユメノ、ポリス…?」

    「この夢の世界を大きく括って『ユメノポリス』と呼んでいる。 ユメノポリスには無数の世界がそれぞれ交わらずに個々で存在している…そう、君が見ているこの夢世界も、その一部なんだ。」

    「じゃあここは、ユメノポリスにある、私の夢世界…。やっぱり、私がみている夢の中だったんだ。」

    「うん。そして、このユメノポリスには夢魔という悪魔も同時に蔓延っている。夢魔達は夢主の生気を奪う為にあらゆる方法で目覚めを妨げようとする。もし、君があのまま夢魔に囚われ続け、生気を吸い尽くされれば現実で眠っている君は命を失ってしまっていた。」

    「え…!」

    「俺はそういった夢魔から人々の夢を守る為に存在している。だから、君達が暮らす『現実』と呼ばれる世界は俺にはなく、肉体を持たない。でもちゃんと生きているし、意思や心もある。」

    「夢の世界でのみ生きている住人。まるで、夢の中の話みたい。」

     そう笑ってみせると、彼も目を細めて笑ってくれた。

    「ここは夢の中だから、間違いではないね…。」

     夢だけど、夢の世界で現実に起きていること。頭が混乱しそうだけど、でも確かに今、彼と心を通じ、笑い合っている。それだけでも、目覚めた時良い夢だったと思えそうだ。

    「んにぁ。」

     レムが腕の中でゴソゴソと動いたので、腕の力を緩めると、軽快にジャンプして地面に着地した。それを合図に、彼は懐から懐中時計を取り出し、ちらりと確認する。

    「…さぁ、そろそろ目覚める時間だ。」

     そう言って、私の頭に預けていた黒いハットをそっと手に取ると…、

    「アステル。」

     そう呼び掛け、バイオリンの弓を手の内で回転させ、銀細工の美しいベルへと変化させた。
     それを軽くひと振りすると、音叉のように澄んだベルの音が鳴り響き、その音に共鳴するように大きな鐘が空中に出現した。

     カーン…カーン…カーン…………

     辺りは白い靄に包まれ、その中から巨大な門が現れる。

     あぁ…こうやって、私の夢の世界に来てくれたんだ。…本当に、不思議な人。

    「また、夢で逢おう。」

     そう言って、彼はレムを呼ぶと門に向かって階段を上り始めた。
     意識と共に、自分の視界も白く靄が掛かっていく…。
     目覚めれば、全て忘れてしまうかもしれない、それでも、私は最後に聞いておきたかった。

    「あなたの、名前は…?」

     青年は黒いマントを風に揺らしながら振り向いた。


    「イスマ。」


     彼が門を潜って光の中へ去っていくと、私の夢世界も、真っ白になって消えていった…




      #01前奏曲 嬰ハ短調『鐘』 夢の番人 (完)






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