花吐き病 添星の場合 それは突然だった。何の前触れもなく口から零れ落ちていた花弁に驚く。
「……は?なんでまた」
名前だけ聞いた奇病を思い出し、溜息をついた。だってそれは片思いでなければ発病しない病だから。発症するということは誰かに懸想しているという事。そんな事、ありえるはずがない。
「っ……う、ぇ」
せりあがってきた物を吐き出せば、出てきたのは緋色のセンセーショナルファンタジー。紅い薔薇とはなんと情熱的なことで。そんな感情が残っていたことに驚く。
「おひいさまに見つかる前に処分しないとな」
花言葉は……情熱や貴方を愛します、だったか。そう思える程度にはしがらみを考えていなかったのだろう。なんともらしくない上に、似合わない花に火をつけて、燃え尽きるまで見届けた。
「恋心も恋慕も燃やし尽くしてしまえれば楽なのにね」
灰燼と帰した花だったモノは風に吹かれて飛んで行った。どこまでも遠くに行く姿は憧れてしまう。何のしがらみもなく飛び立てたら、気が楽なのにな。