「竹ってまっすぐ伸びて背が高くっていいよねぇ」
機嫌よく言うスズランを見下ろせば、貝飾りを折る指先が楽しげに踊る。
「斉藤さんうまいもんやなぁ」
「んふふ〜人形も折ってあげる、織姫様と彦星様にしたらいいよ」
「なあなあ、網も折って!どこ切ってええのか分からんわ」
ソウゲンとスズランは、近所の子供らに囲まれて手習いに使った半紙で七夕飾りを作っている。
なぜこんな事になったかと言えば、屯所を出た先で子供らが竹を囲んであれやこれやと紙工作をしていた。そうか今日は七夕だとソウゲンが空を見上げれば眩しいほどの晴れで、これならば年に一度の逢瀬も叶うだろうと思案しーー袖を引かれた。
「さんなんせんせ、これつけて」
歳は三つほどだろうか、女児の小さな手に握られていた短冊を笹にくくりつけてくれとせがまれる。
「いちばんうえよ、いちばんね」
「おや、なにやら近藤局長のような事を申されるのです」
「うちの山南さんは背が高いからねぇ。ひょいと上まで届いちゃうよ」
「ずるい!ウチの短冊も高いところ付けてぇな!」
「喧嘩しないよ〜、ほら飾り作ってるんでしょ?」
「斉藤さんと山南せんせも一緒に作ろ!」
そう輪の中に引き込まれ、今に至る。
「斉藤殿は本当にお上手ですね。器用でらっしゃる」
「あら山南さんにも褒められちゃった。いつ覚えたか覚えてないんだけどねえ」
言葉遊びのようなことを言いながら丸こい達磨のような人形をふたつ折り、子供に手渡す。
「ほら、織姫と彦星だ。お顔描いてあげてね」
吹き流しのようなものや、風船など子供達が思い思いに作った飾りは可愛らしかった。「あげるね!」といくつかスズランの懐へ押し込まれるのをおやおやと見ていると、一人の男児がソウゲンの後ろに回り込む。と、帯にしゃらしゃらと輪飾りを差し込まれた。
「これ、小生は笹ではありませんよ」
「だって山南先生、しゅーっと背ェが高くて竹みたいやん。お願いごと叶いそう」
「あはは!確かに!色も似ているものねえ」
何故か誇らしげな男児の頭をぐりぐりと撫でスズランが笑う。近くで洗い物をしていた母親がすっ飛んできて、武士様に失礼やないの!と男児にゲンコツを食らわしそうになったがソウゲンは「いいんですよ」と制止した。帯に飾りをつけたまま、子供達に手を振って別れる。
「その飾り、なかなか粋じゃない山南さん」
街中を行きながらスズランが揶揄うように言うと、澄ました顔で「本日流行の装いなのです」とソウゲンが返す。
「ね、ちょっと降りてきて?」
「はて」
少し路地に入ったところでスズランがせがむ。ソウゲンが屈むと、髪を結って束ねている所にひらひらとした紐を蝶結びをされた。子供達から貰った飾りのひとつで、紙紐を編んだ物だ。
ソウゲンはされるがまま結ばれていたが、姿勢を直して肩を竦める。
「これ、童と同じ事をなさる」
「僕の方が高いところに付けたから、お願いごと叶うかしら」
同じく貰った飾りの吹き流しを指先で遊ばせながら、スズランがいたずらっぽく見上げてくる。若竹色のソウゲンの髪がふわり風に吹かれ、吹き流しと一緒にやわく揺れた。
「……そうですね。仰って頂ければ何なりと」
「ふふ、じゃあねえ、葛切りを食べに行くなんてどう?戻るまでそのくらいの時間はあるでしょう」
「叶えましょう。参りますか」
やっぱり叶ったと楽しそうな菫色の後ろ頭を掬うように撫でる。
朝焼け色の紫の中、しゃらしゃら揺れる金の耳飾り。さながら夜にあって輝く天の川かと目を細めながら甘味処へと踏み出した。