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    えいごが書いたやつを投げるとこです
    気まぐれ更新

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    ❄️🌸ワンライ4話目。
    お題は「待たない」をお借りしました。
    ネロくん大きくなりました。現在の格好としては狩人バラッド時の毛皮スタイル白ver.を想定してます(🌸とは…)
    ブラッドリーとネロは一般人には見えません(特殊な部類の人々からは見えてます)なので、傍から見れば料理覗いてたのは大きな狼だけという状態です🐺それでも怖いな…。次はお別れ編です👋

    冬に添う 四《待たない》『ネロさん、ネロさん』
     ネロの手にふわふわとしたものが触れる。
     甘えるように頬擦りをする巨狼をネロは苦笑しつつ撫でてやった。毛皮の表面はひやりと冷たいが、指を埋め込むと暖かい。深く撫でる方が気持ち良いのだと分かったのは最近のことで、今ではすっかり狼撫でも板についてしまった。
    「シグ、おかえり。ボスは?」
    『居間に戻られました。ねえネロさん骨ください』
    「ん、良いよ。ほら」
     肉を削ぎ取った大きな鹿の骨をシグに渡すと、それはもう盛大に尻尾が振られた。咥えたままなので何を言っているか分からないが礼を言っているに違いない。大事に食えよ、と笑うと尾を振りつつ頷いて調理場から出て行った。
     奥で『あ、おまえばっかり!』『この甘え上手!』とぎゃあぎゃあ喧嘩する声が聞こえた。そこに重なるように「うるせえぞ馬鹿犬ども!」という怒鳴り声が放たれて、急に静かになる。
     ここ数年の日常風景に、ネロは一人でまた笑った。

     今いる調理場は、ブラッドリーから与えられた代物だった。

     精霊は、本来であれば人のような食事を必要としない。それもブラッドリーや、未だに自覚はないがネロのような高位精霊の場合は尚更だ。
     欠損した力を補うために自然の力を借り、充足させることはある。これが精霊にとっての食事であるとブラッドリーに説明されたのも、既に懐かしい。
     その際、ブラッドリーは自身は冬の国、北の山野に降り立つだけで勝手に力を得ることができるが、ネロの場合はそれは叶わないということ。だから定期的にあの青い花を摂取する必要があることを重ねて言った。あの青い花は山野の奥にある谷に自生する花で、冬の国に濃密に漂う魔力を取り込んで成長するのだという。食事にはもってこいだろう、と。
     ネロとしてはあれは初めて彼にもらった品であり、そして初めて彼の前で泣くという失態をしでかした代物だ。口にするたびに何だか複雑な気持ちになるが、致し方ない。
     その折に出会ったのが、人間達が行う調理という行為だった。

     家出した後日のこと。
     ブラッドリーに首根っこを掴まれて謝罪のために地霊夫妻の家に放り込まれたのだが、ネロが口を開く前に、先に泣いて謝罪されてしまった。
     おろおろするネロを最初は放置していたブラッドリーも流石に気を揉んだのか、俺が話をつけるからおまえは外にいろ、と、またぞろネロの後ろ首を掴んで今度は家から放り出してしまった。
     最近の扱いが仔狼に似ている気がすると思いながら、ネロは仕方なく玄関前で待つことにした。
     そばにはシグやザウエルがいるために寒くはなく、さらさらと降る雪を彼らの毛皮に埋もれながら眺めていたのだが。
    (……なんだろう、この匂い)
     気づけばシグの身体を越して、ネロは匂いの元を辿っていた。嗅いだことのないが、これはおそらく食べ物の匂いだ。
    『ネロさんどこ行くんですか?』
     シグが後ろを気にしつつネロについてくる。ネロもちらと振り返ると、玄関前にはザウエルがどっかり座り込んでいた。彼はボスであるブラッドリーから離れるわけにもいかないのだろう。ちょっと困った顔でネロを見つめている。それに多少申し訳なさを感じながらも、ネロの足は止まらなかった。
    「シグ。何か匂いしない?」
    『そりゃぁ、まぁ。多分人間が何か作ってんだと思いますよ』
    「作るって……何を?」
    『飯じゃないですかね』
    「飯……人間も花食べんの?」
     でもこの匂いは花とは全く異なっている。色々な香りが融合した、不思議なものだ。
    『人間は花食うのかなぁ……? 俺たちが食う鹿の肉とかを焼いたり煮たりしてんのは見たことありますよ。生の方が美味いと思うんだけど……あ、匂いの元はそこです』
     シグが一軒の家屋の、その窓を鼻先で示す。屈んでくれたのでその背に乗ると、家屋の中身が見えた。
     地霊夫妻の家よりは質素で、物が少ない。代わりに色がとてもたくさんあった。不思議な模様も。
     その模様の上に白い平らな物が置かれていた。赤い液体に、茶色の塊。ネロと同じくらいの背丈をした子供がそれを旨そうに食べている。
    「……何だろう、あれ」
    『俺も名前は知りませんが、人間はああやってしないと飯が食えないそうです。……あ』
     シグの耳が急に後ろに倒れる。ネロがそれを疑問に思う間も無く、ひょい、とまた後ろ首を掴まれた。
    「てめえはひと所にじっとしていられねえのか? ん?」
     少しお怒りのボスである。ネロは吊り上げられたまましょぼくれて、「ごめんなさい……」と謝った。
    「まぁ待ってろとも言ってねえからな。……何見てたんだ?」
     ネロを荷物のように小脇に抱えて、ブラッドリーも家屋を覗いている。そして僅かに眉を顰めた。
    「貧相な料理だな……あれが近えと青菜も取れねえか。地霊がいてこれなら、他の村はもっとやべえなぁこりゃ」
    「……料理?」
    「ん? あぁ、人が食ってるもんだ。興味あんのか?」
     抱え直されて、もう一度窓辺に寄る。そうか、料理というのか、あれは。
    「不思議な匂いがしました」
    「そうかぁ? ……まぁ、精霊には馴染みのないもんだよなぁ。俺は酒は好きだが、料理は捧げられて食ったもんがあんまり美味くなかったからそれきりだ」
     言いつつ、ブラッドリーはうんざりした顔をする。曰く、直接捧げるのが怖いから玄関前に籠で置かれていたのだと。冬の国でそんなことをすれば、いくら湯気立つものだって瞬時に冷えて凍りついてしまう。
    「興味があんなら、地霊に頼みゃいい。どうせこれから何日かに一度はここに預けるからな」
    「え……」
    「んな顔すんなよ……俺が不在の間だけだ。狼どももいなくなっちまうから、てめえを守れるやつがいなくなるんだよ」
    「……俺、も、役に立てます」
    「ネロ」
     ブラッドリーが溜息を吐きつつ、顔を覗き込んでくる。
    「冬の国にとっててめえの司る能力は至宝に近い。冬の国の精霊が俺様一人なら良かったんだが、馬鹿みてえに強いくせに何考えてるか分かんねえ兄貴が二人いんだよ。強がるなら、まずこいつとタイマン張れるくらいになりな」
     ブラッドリーがそばに座っていたザウエルを雑に撫でる。だがザウエルは鼻を鳴らして、ぷいとブラッドリーから顔を逸らした。
    『俺はネロさんとの喧嘩は嫌ですからね』
    「わぁってるよ話ややこしくすんな……ネロ、てめえはいずれ春の国に戻る。俺が春の国の至宝を得るにはてめえが不可欠だ。だから大人しくしてろ。いいな?」
     ネロは、頷くしかなかった。
     戻る。いつかこの国から、ブラッドリーのそばから離れて、生まれた国である春の国に。そのことを考えるだけで、胸がちくりと痛む心地がした。
     これは、帰りを先延ばしにされているからではない。彼の元から離れるのが、嫌なのだ。
     だが、この言葉は決して口にしてはいけないと、ネロは分かっていた。

    「……よし」
     鹿肉の煮込みに、猪肉の塩漬け肉と根菜を使ったスープ。それに手製のパン。
     それらを携えて、ネロは居間に向かった。これらを食べる主は、当然ネロのボスである。
     好きな人に食べてもらいたいから、と地霊夫婦の元で腕を磨き、気づけば一端の料理人になっていた。
     精霊が本腰入れて調理をしている姿をブラッドリーは怪訝な顔で眺めていたが、いつの間にか館の一角にこうして調理場を設けてくれた。
     何度か試行錯誤し、初めて一口食べさせた折、そりゃもう、ネロにとっては忘れられない笑顔を見せてくれたのだ。美味いな! てめえは天才だ! と、最高の言葉もくれた。
     嬉しくて、堪らなかった。守られるだけの俺が、ブラッドリーを喜ばせることが出来たのだから。
     以降はこうして夕食の調理を任されている。数えて二年。気づけば、背はうんと伸びて声もいつの間にか低くなっていた。
     されどブラッドリーほどには背は伸びず、彼ほどには声は低くならなかった。これは少し悔しい。
    「ボス、飯出来ましたよ」
     居間の扉をノックして声をかける。
     はて、と思った。いつもならすぐに反応があるはずなのに、返答すらない。
    「ボス……?」
     そっと扉を押し開けた、瞬間だった。

    「じゃあ何だ、やっぱ兄貴どもは戦争おっ始めるつもりなんだな。道理でクソ寒い上に作物が育たねえわけだ」
    「困ったことじゃがなぁ」
    「闘争が気質の精霊じゃからなぁ」
    「それじゃあ俺も乗るしかねえな。この山野だけじゃ手狭だと思ってたんだよ……ただなぁ」

     戦争、とネロは口の中で繰り返した。
     その声に反応してか、二対の金目と、一対の、赤い目がネロを見止める。
     内、赤い目だけが、僅かに逸らされてしまう。
     折に、察してしまった。帰還の時が近いのだと。
     すっかり慣れたはずの冬の寒さが、身に突き刺さる。ネロは黙ったまま、そこに立ち尽くすしかなかった。
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    EIGOnon

    DOODLE「ロマンスなんて知らない」の二人が過ごすバレンタインの話です。今度は間に合ったぞ!!
    ターナーくんが作っていたのはザッハトルテです。

    蛇足
    海外では贈られる側(女性)は赤い下着で相手を迎えるそうなんですけど、ボスの趣味じゃなさそうなので省きました(ネロくんはやりそうですが)
    これ以上ない程の愛を込めて〈月曜日、空いてるか?〉

     穏やかな昼下がり、使い慣れない携帯端末に表示されたのは、そんな短い単語だった。
     ネロは「月曜日」と単語を繰り返し、アプリコットを焚く手を止めてカレンダーを見やる。
     二月十四日。はて、と首を傾げる。ええと、何かあったよなぁ、この日。何だっけ。
     安物のカレンダーをじっと見つめるも、最低限の祭事しか書かれておらず、答えはない。
     兎角、月曜日は麦穂も休みである。
     土曜の夜から日曜にかけてはブラッドリーの家で過ごしてはいるものの、月曜はネロにとっては空いた休暇に過ぎない。
     掃除か苦手な帳簿付けくらいしかやることもなかった。あまり深く考えずに返答を寄越すことにする。
     〈空いてるよ〉と、爺かよと揶揄されるレベルで遅い打ち込みを以て送ったメッセージには、〈じゃあ夜に行くから、そのまま予定空けとけ〉と即座に返って来た。
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