我儘に恋して「……じゃあ、帰って来るのは明後日になるってことか」
『……おぉ、悪い。その声色じゃ、相当怒ってんな?』
「別に、怒っちゃいないよ。全然。ほんとに……ただ……」
『ただ?』
「……何でもねえよ」
おい、ネロ、と珍しく焦りを含んだ声で呼ばわれるのを無視して、端末に表示されている赤いボタンを押す。
これで簡単に繋がっていた相手と途切れることが出来るのだから、便利で残酷な代物だと思う。
ネロは携帯端末をベッドの上に放り投げ、今手元でコトコトと揺れている鍋を見やった。ブラッドリーが首都から戻って来るのに合わせて調整し、そして今し方完成した牛の煮込みである。
味見をして「完璧だな。あいつ喜ぶだろこれは」とひとりでほくそ笑んでいたところで先程の電話。
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