天ネイ書きたいとこだけ(短い)「じゃあいっそ他に居ないなら僕のために生きてみるとかどうですか」
ネイルの心境が少しでも軽くなれば
その程度で発した言葉であった。
「なんて、そんな風に切り替えられたらもうとっくにしてますよね」
と、笑ってネイルの顔を見る
「…え」
唖然とした、まるで雷に打たれたような、そんな表情。
あくまでネイルのために発した冗談の内容が
ネイルにとっての地雷であったと瞬時に悟った悟天であった。
「いいのか…っ」
上擦ったようなとにかく切羽詰まった声だった。
腕を掴まれていた。
「で、デンデも…ピッコロも…っその他の地球の者達も…全員、わたしを必要としてくれなかった、わたしに出来る事は無いかと訪ねても、気を使うな自分の事だけ考えろと言われたわたしにとって地獄だよ…新しい故郷に帰ってもあの方はもうどこにもいらっしゃらない…!」
ぐい、と悟天と距離を詰めるとネイルは懇願するように囁いた。
「冗談だなんて言わないで欲しいやっとそれが欲しかった言葉なんだ。もし撤回されたら、わたしはわたしはもう、存在したくない」
震える手で握られた腕を振り解けなかった。
「今から、君の為に生きて良いのか」
「…」
この人は頭がおかしい。そういう生き方しか知らないんだろう。自らの人生を捧げさせろと、この人は本気で数日前に知り合った僕なんかにだ。
辛い過去を忘れたいから、自分の生きがいを失った悲しみから逃れたいから、存在したくないから。だからせめて、自分を騙してでも生きていけるように。
断ったらこの人はどこか僕の知らない遠いところでふらっと一人で逝くのだろうか。
それはあまりにも、あまりにもな気がして。
同情だったのかもしれない。
「ひどい人だな」
自分の腕を強く掴んできている手をもう片方の手で握り返した。
なんて自分勝手な人だ。弱い人だ。
自分の死を人質に押し付けてくる。
自分が生きる為に僕を利用させてくれって事じゃないか。
なのにどうしようもなく苦しくて愛しくて
そのまま腕を引いて抱きしめた。
「いいよ生きて、僕を利用させてあげる」
そのことばを受けたネイルが一度大きく震えたかと思うと力強く抱きしめ返してきた。
「…っすまない、っすまない…っ、あ…っ」
泣いてはきっとなかった。
目の前の儚い希望にしがみつくようなそんな生き汚さを感じた。
「…僕も利用させて貰うから、それでおあいこ。」
「…すまない…」
そんなに謝るならこんな脅しじみた事やめてよ。
「で、ネイルさんは僕の物って事でいいのかな」
自分勝手なネイルにイラつきも出てきて口調が荒くなっているのは自覚していた。
だが、そんな事は気にせずネイルは嬉しそうに答えた。
「ああ、ああ、わたしは君の物だ…」
「そっか…ふぅん。じゃ、過去の事はぜんぶ忘れて今から僕の事だけ考えて」
「…っ…わかった、忘れる忘れよう。君の事だけ考える…ありがとう、ありがとう…」
きっと僕の事なんて考えてないし、過去を忘れるなんて出来ない。
これで逃げられる、ただそんな感情だったんだろう
それでもこの人にとって最後の砦であったのであろう僕のせいでどこかでひっそり死なれる方が寝覚めが悪い。
ねじ曲がった関係がここから始まるんだ、利用されているのに僕はこれからこの人を愛してしまう。
こんな始まり方はどうかと思った、でもこんな始まり方じゃないと
僕とこの人が関わり合えなかったのだとしたら
それで良かったと今は思っている。
end