オフ会「はぁー!?マッチングアプリだァ!??」
PCの前でシーザーは声を上げて、画面を手で掴み、もう一度その文字列を追った。
【マッチングアプリいれてみた。なんもかわんない!】
🌸のSNSのその文字をみて、シーザーは冷や汗をかき、真顔になり、かと思えば頭を抱え声を漏らした。
シーザー・クラウン。40歳。独身。
現在進行形で、20歳近く歳の離れた🌸に恋をしている。
「……っはぁ~~~……」
大きなため息と共にデスクチェアにもたれかかる。ギシリと軋む音が聞こえた。
(🌸がマッチングアプリ?冗談か?)
シーザーは彼女のSNSを毎日チェックしているが、特に兆候らしいものはなかったはずだ。
「あぁ……くそッ」
そういえば先週、彼女と通話したとき、なにやら友達に恋人がどうこう言っていた気がする。あれはこういうことだったのか。
(まさか、もう男と連絡をとってるんじゃ……)
そう思った瞬間、目の前が真っ暗になったような錯覚を覚えた。
彼女が自分以外の誰かのものになるなんて考えられない。いや、考えたくない。
PCに向かい合い、🌸がどのマッチングアプリを利用してるか調べる。
自分のスマートフォンにアプリを落とし、🌸を探せばほどなくして、見つけることができた。
「……かわいい」
プロフィールや特徴、顔写真以外でSNSに上げてるものも一致している。この女性が🌸だろう。
実際、顔を拝むのは、はじめてだった。想像を超える可愛さに口元が緩んでしまう。
「ってちげェよ!」
シーザーは頭をぶんぶん振りながら自分を叱咤する。
そうだ。こんなことしている場合じゃない。いいねされた数というものがあった。
つまり、🌸に反応してる男の数だ。
そんなの許せるわけがない。すぐにでも止めなければ。
とはいったいものの🌸と自分はいいとこ「ネットの友達」だ。
こちらの容姿も年齢も🌸は知らない。マッチングアプリの男たちより先に自分が知り合うべきなのだ。
「……あー、クソ!」
頭を抱えてから、シーザーは🌸にDMを送った。内容はシンプルに
【オフ会】に誘う内容だ。送信してしばらくすると既読がついた。しかし返信はない。
当然だ。いきなり会ったこともない人間からオフ会の誘いが来たのだ。通話はしてるとはいえ、警戒されるのも無理もない。
(そりゃそうだろ……。おれだってもし逆の立場なら怖くて返事できねぇよ)
自嘲気味に笑いながらも、シーザーは何度も彼女からのメッセージを待つためにスマホを見つめ続けた。
【いいですよ】
何時間経っただろう。そうメッセージが返ってきているのに気づいたのは、椅子で少しうたた寝をした後だった。
「はっ?」
夢かと思った。だが現実だ。確かに彼女は了承してくれた。
心臓が早鐘を打つように鼓動する。緊張からか指先が震えた。
シーザーはすぐに場所と日時を決めるメッセージを彼女に送る。
それから、待ち合わせの場所と時間を指定され、当日を迎えた。
駅前にある大型書店。そこに指定された時間に着けば、すでに彼女がいた。
白のブラウス姿の彼女をみてシーザーは一瞬言葉を失う。
(…めちゃくちゃ可愛いじゃねェか)
キョロキョロと自分を探している姿がまた愛らしい。
視線がかち合う。もしかしてという表情をされ、シーザーは🌸に向かって歩いた。
「おれだ、Mだ」
「わー、M〜。背たかくてびっくりしちゃった! あ、リアルでははじめまして…」
ぺこりと頭を下げ、🌸は背の高いシーザーを物珍しげに見上げる。
「……あー、今日は会ってくれてありがとう…な」
うまく言葉が見つからずそう言えば、🌸はキョトンとしたあと声を上げて笑った。
「通話と同じでいいよ! あ、逆に私失礼だった!?ですか!?」
「いや、いや、!いつもと同じでいい。シュロロロ」
つられて笑い、「あぁ」とシーザーは🌸を見る。コロコロ変わる表情に小さな体躯。
欲しい、と思った。
自分のものにしてしまいたい。今すぐにでも抱きしめて、手を握って、どこにも行かないように。
「…M?」
「シーザーだ。そう呼んでくれ」
「シーザー? それじゃ、交換。私は🌸」
知ってるとは言わなかった。無邪気に名前を教えてくれたことが嬉しかった。おれは信頼されてる。
「よろしくな。🌸。……腹減ってないか?」
そう言うと、🌸は目を輝かせ、こくりとうなずいた。
「うん、おなかすいてる!」
その仕草に胸を撃ち抜かれる。シーザーは心の中で悶絶した。
(あぁ……、もうダメだろ。可愛いすぎる)
シーザーは🌸の手を取り、歩き出す。🌸は驚いたが抵抗することなく、そのまま手を引かれていった。
「どこいくの?」
「いいところ」
🌸が興味深げに自分の横顔を覗き込んでくる。シーザーはその距離感が心地よく感じた。
「うそぉ」
🌸が呆然としながら声を上げる。目の前にはイタリアンレストランがある。
シーザーに連れて来られた場所は高級店だった。🌸が普段来るような場所ではない。
「好きなもん頼めよ」
シーザーは慣れた様子で店員に声をかけると、メニュー表を手渡された。
「シーザーは何食べるの? 一緒のもの食べよう!」
慌ててメニューを開くと、シーザーは「あー」と困ったように頭を掻いた。
「おれはあんまり食わねェんだ。🌸は好きなだけ食べていいぞ。あとデザートも頼むか? ケーキ美味いぞ」
「えっ、そんな悪いよ……!」
「悪くない。おれの奢りだから遠慮すんなって」
「そういう問題じゃ……」
運ばれてきた料理に🌸は最初こそ遠慮していたが、結局すすめられるがままデザートまで食べてしまった。
「本当にケーキ美味しい……」
「シュロロロ、そりゃよかった」
一口ごとにうっとりとした様子の🌸にシーザーも機嫌よく、自分のアイスを口に運ぶ。
「シーザーのアイス美味しい?」
「…なんだ? 欲しいのか?」
「ち、違うよ!」
ブンブン首をふるが視線はアイスに釘付けになってる。それが可愛くて可愛くて、シーザーはスプーンですくい上げたアイスを🌸に差し出す。
「ほら」
「え!」
差し出されたスプーンに、🌸は顔を真っ赤にした後、そろそろとスプーンに口をつけた。
「お、おいしいです……」
「そりゃ、よかった」
顔を赤くするという事は意識されてるという事だろうか。なんとも心地がよかった。
そんな事を考えていると、🌸が口を開いた。
「あのさ、シーザー。今日はありがとね」
「急にどうした」
「だって、こんな高そうなご飯ご馳走してくれて……。それに私の話聞いてくれたし、楽しかった」
シーザーは🌸の言葉を聞いて思わず笑みを深めた。
「シュロロロ、お前の話なんていつでも聞く。おれの"特別"だからな」
「……へ?」
ぽかんとする🌸にシーザーは愉快そうに笑い続けた。