南葛SCのころ新田に面倒を見てもらってた後輩の男の子
「はい! おれ、新田先輩の後輩です! 南葛SCにいたときはFWでずっと面倒みてもらってました!」
「おまえのアイデンティティはそれしかないのかよ」
「浦辺先輩、そういう言葉使うんですね」
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若島津と同じクラスの真面目そうな子
(たぶん語り手反町だか若島津と同じクラスのモブだかで書いてたんだと思う)
若島津のクラスに変な風紀委員がいる。黒髪で眼鏡の真面目そうな顔なのにすっごい不真面目なやつで、かしこそうな顔だけど成績はたいしてよくなかった。補習風景の隅っこにいることが多いくらいには悪い。
東峰学園は中等部からあるから、高等部に編入してきたこいつは一見で「真面目そう」「引き受けてくれそう」と判断されて風紀委員を押し付けられたそうだ。
本人はといえば「風紀委員になって人を取り締まるのは権力に溺れるって感じで楽しいぜ」と笑っていた。「若島津くんのほうがよっぽど真面目でいいやつなのにさ。まあ、サッカー部で忙しいだろうし風紀やれなんて言わんけども。そんなん見たらおれが代わる」
さて今日は頭髪検査だった。若島津の苦手なものだ。たぶん嫌いでもあるに違いなかった。
若島津はなんとも言えない顔をして「ありがとう」ってあいつに言う。あいつの言う通り若島津は、筋が通ってるっていうか、まあまあ真面目だから、なんとなくこういう裏口的な行為に気を咎めているんだろう。あいつは何も言わずににこにこ愛想良く手を振ってこちらを見送った。すごく嬉しそうだった。
「いやースカート短すぎるだろ膝上何センチだよこれもう測らんでもわかるわ」
「切っちゃったからどうしようもないでーす」
「知らんよもう一枚買いな」
「冷たっ。切れば済むことにはなんも言わないくせに」
「あのねえ人間としての価値が違うの、わかる?」
あいつのおどけた笑い声。「なにそれぇ」笑う声。
首をすくめて足速になる若島津。
あーあ。
「絶対若島津くんには言うなよ。おれさあ、若島津くんのサッカーすっごい好きなんだ。だから若島津くんのことも好き。守ってやりたいくらい。これくらいしかできんけども」
「若島津くんはすごい」うわごとみたいにこう言うんだ。
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ミューラーに遊ばれるちっちゃいドイツ選手
今日のおれはベンチメンバーだった。ままあること。ミューラーは当然スターティングメンバー。だってあいつ、嘘みたいに強いんだから、当たり前だった。強いって言ってもなんかサッカーの範疇じゃないけど。サッカーの範疇ってやつがあいつの強さにすっぽり収まってるって感じだけど。でも強いんだ。キーパーがミューラーになってから負ける気がしないっておれたちはみんなそう思ってるはずだ。で。おれがベンチメンバーなのはべつに気にしてなくって。ままあることだから。
「ん、う、ふぅ、うあ、っう」
唇を押しつけてくる。それは子供がお気に入りのぬいぐるみにキスしてるみたいにどこかあどけなくも熱っぽい。大男に抱え上げられて地面につかない足を躍らせるおれは、どんなに滑稽だろう。宙に浮いているのがどうしたって怖いから腕は爪を立ててまでの拒否をできなくて、その袖を掴むにとどまった。
「次は出るんだな」
わかっているくせに無茶をおっしゃる。